58話 やばい
「誰か……死んだかー?」
ロッドはドラゴンの動きが止まってから30秒ほど経ってからそう聞いた。
よっこいしょって感じで起き上がりどこからともなくガラス瓶を出す。
鎧の上から淡緑色のポーションをぶっかけながら瓦礫を歩く。
「フレイさん……気絶しました。」
「もう動けない………。」
「見ての通りに出血が酷い。」
全員が満身創痍だ。
フレイを担いでいるディアナも血まみれ。吐血もしている。
右腕は多分折れてしまっている。
レイは瓦礫に血をにじませている。
回復魔法を使えるのはロッドと気絶しているフレイだけ。
「…………俺も全員は治せないわなぁ。」
そう言ってゲートの中に潜って、小さめの瓶を持ってくる。
「ぶっかけてやってくれ。こぼさないでな。」
レイは無色透明のそれをフレイにかける。
アザや打撲、切り傷擦り傷全てが癒えて魔力も戻る。
パチッと目が開いて起き上がった。大丈夫そうだ!
「勝てたんですか!?」
「私が止めを刺し損ねるわけないでしょ!」
私が胸を張って答えている内にフレイの興味は別のことに移っていた。
無礼者め。
「傷が完全に治るなんて………何使ったんですか。」
ロッドは回復魔法を皆にかけつつも答える。
「内臓がかなりやられてた……俺の魔法じゃどうにもならなかったから。」
背を向けたままに続ける。
「………察しはついているだろ。魔道国の出なら。」
「エリクサー……の。何倍……。何倍希釈ですか。」
「二倍希釈を一本。使い切った。」
フレイはまた俯いて絶句する。
「…………直ぐには……支払えませんよ。」
「まぁ、払えるとも思ってないからな?」
良く分からないが、まぁ多分高いものだったのだろうか。
私達は無一文に近いので代金は地上に戻ってからになるのかな?
………口には出さないが、目と腕の欠けた部分は治っていなかった。
欠損した部位は治らない。
勝手に落ち込んでもどうしようもないから顔にも出さないでおいた。
「なんで逃げずに、神との約束を破った上に、治療までしてくれる?」
レイは腕を差し出しつつ、ロッドに疑問をかける。
「立ち向かおうとしたのが好印象だったからだな。」
ディアナの治療を二人がかりでしつつ問答を続ける。
「俺は昔、逃げちまって神に祈ったからな……。」
ロッドはどこか遠くを見ている。
「………逃げたい一心で選んだ道はろくでもない。」
その目は過去を見ているのか、それとも仕える神を思っているのか。
「せめて立ち向かったらいい結末があってほしいだろ?」
「ロッドさん………。」
ディアナは言葉を探しているようだった。
レイは何を考えているかは分からないが、言葉はなかった。
「まぁ地上で会った時になんか奢ってくれれば、俺は満足さ。」
治療の光が止まり、ロッドは肩を回す。
左右で回す向きが違うのがちょっと気持ち悪いけど。
「竜の鱗を剝ぐ方法教えてやるから誰か来てくれ。無一文だろ?」
結局フレイだけが作業に加わり、その他三人は各々過ごした。
レイは小説を全て読んでしまったからだろう。
緑色の難しい本を読み解いていた。
私はディアナとおしゃべりしつつ、爪を切ってあげた。
言われるまで気づけなかったが、確かに触手で爪を切るのは難しいだろう。
と言っても私もスライム。
切り方はよく分かっていなかった割には上手くは切れたかという具合だった。
もしや貸した小説も読めなかったかと聞いたけど、それは大丈夫だった。
「多分、よく片手読みをしてたんでしょうね~。なんか出来てました。」
………ローディアさんはコーヒー片手に読んでいた。
だから私も小さめの本の方が慣れてる。
ちょっとだけ、寂しい気持ちが起きて来てしまったが、大丈夫。
ちゃんとしまっておける。
「おーい。お嬢さんたちよー。もー終わってんだけど?」
「ドラゴンの肉、食べますー?」
二人の声に呼び寄せられて、火のそばに近寄る。
肉は噛み切れなかったが、温かみと和やかな空気に包まれる。
勝てたんだな。生きているんだな。
そう思うと心の底からあったまる気がした。
「じゃあ俺はもうちょっと寝てから帰るから。」
「お世話になりました。本当にありがたかったです。」
崩れた壁から扉を見つけ、ゲートを起動した。
ロッドによれば特別に許されているゲートだから使っていいらしい。
逆に言うと、入り口に戻ることすら通常は許されないわけだ。
ゲートの中は真っ暗闇。わずかな時間だったがいい気分ではなかった。
大穴の近くに出るそうなので、亡霊から走って逃げる用意をしていた。
だが、その心配は必要なかった。
「…………嘘でしょ。」
ため息交じりの、絞り出すような声に合わせてレイも下をのぞき込む。
大穴を覆い尽くしていた大群が。
最強よりはマシというレベルの脅威が。
………亡者の群れが綺麗サッパリ消えていた。
戦闘の跡は見えない。
本当に一体も残らず。
スケルトンも幽霊も異様な気配までも消えている。
まだ見ぬ化け物は魔界にはいくらでもいるというわけだ。
……私みたいな可愛い娘と会えたのに地獄は失礼だろって思ってたけど───
「確かにこれは地獄だな。」
「同意かしらね。」




