56話 ホワイトドラゴン
「準備は良いな!?話しておかなきゃいけないことは!?」
ロッドは馬鹿みたいにデカい盾と持ち手まで黒い長剣を携えている。
フレイは杖とポーションなど、戦いに必要なものだけを持つ。
レイと私は剣以外に持つべきものも無い。
ディアナは……………素手だ。
「行きたくねぇなぁ……!」
封印は解かれ、部屋の中で停滞していた魔力が流れ出る。
部屋の中は大きな空間が広がり、壁や床には傷や焦げ跡。
そして中央には眠っていた竜がいた。
白い竜は、大きいが、レッドドラゴンと同程度。
神々しく輝いているわけでもない。
だが、分かる。
「防御を……さっさと防御魔法を張ってくれ…!」
ロッドは大盾を地面に突き刺し、竜に引き寄せられ始めた空気の流れを断つ。
『…断絶せよ光盾。音を、魔力を、空気をも拒め。』
ディアナとフレイは声を合わせる。
『中位防御魔法…法鋒の堅牢』
光の障壁が張られたと同時に氷塊が外を覆う。
大盾は三人がかりで構え、魔力を注ぎ込む。
出来る限りの防御策。
だが、それでも竜の息吹の余波に触れるだけで分かる。
………これは、勝てない───
放たれた熱光は”重かった”。
防御魔法よりもずっと光り輝いていて、容易に魔氷を融かす。
盾の外の景色は掻き消えて、手に伝わる衝撃だけが残された。
数秒の虚空が終わった瞬間。
初撃が終わった過ぎない瞬間。
これからの戦いが始まる瞬間。
側面からの剛爪がロッドとフレイを壁に叩きつけた。
視線をそっちに向けるよりも先に、振られた尾がディアナを弾き飛ばす。
ディアナは背後の壁まで吹き飛ばされた。
「邪魔…!」
レイは私を退かしつつ、防御力が下がっているらしい鱗を叩く。
蹴り飛ばされていなければ迫っていた牙を反応することすらできていなかった。
レイのレイピアは………僅かに跡が付いただけだ。
ミミックとは比べられない咬合力。
ワイバーンの体当たりを軽く上回る攻撃速度。
レイの斬撃を物ともしない防御力。
そんなことを考えている間に目の前を白い鱗が通り過ぎる。
竜の力で振った頭部は鉄塊のような感触で、本当に軽くレイは飛ばされた。
見下ろされているのはもう、私だけ。
勝てるわけがなかった。
これが最強か。
戦いにすらならないわけだ。
竜の顔が私の方に向く。
噛まれたら流石に破ける。………死ぬ。
でも、絶対に参ったなんて言えない。
『中級火炎魔法…燃焼!』
羽の付け根ぐらいに火球が着弾する。
「ぬゥん!」
長剣を腹に叩きつける音が響く。
誰も………諦めている人は居ない。
少なくとも、行動を止めている人はいない。
竜の怒りを買ったのだろう。
フレイとロッドへ右前足が振り下ろされる。
しかし、それは止められた。
ディアナの尻尾が、振り上げた腕を叩いて体勢を崩したのだ!
「……大丈夫ですか?フレイさん。」
「今のところはね。」
「じゃあ作戦続行です!」
ディアナが竜に駆け寄った、そう思った瞬間には尻尾の衝撃が空気に伝わる。
身体が怖気づいているが、それでも戦うからこそ何かを得られる気がする。
「ああああああ!」
私も立ち上がって、後ろ足に剣を叩きつける。
固い。通らない。もう一回叩きつける。叩きつける。叩きつける!
五発目が入る前に脚が持ち上がり、私へ後ろ蹴りを放つ。
やはり反応出来る速度ではなかった。
しかし、氷の鎖が首にかかり、顎を掠めるのみで済んだ。
土煙の向こうで影が浮き上がる。
出血こそしているが、立ってくれている。
「レイ!」
「黙って……頭痛いのよ。」
残念ながら、話をしている時間は無かった。
ドラゴンは広場の中央に戻り、自身を囲む虫けらを睨む。
動きはそこまで速くはない。怒りを抑えるようなしぐさに感じる。
「GRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAARAAAARAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!」
その咆哮は皆殺しを宣言するようだった。




