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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
触手女がすごくがんばる章
32/55

32話 

「……ロイド、町民と兵士への伝えてこい。ガキ二人は宿に戻って寝ておけ。」

「分かりました。リディさん。」

「ディアナはどうするんですか?」

「話があってね、後で返すよ。」

分かりやすい人払いが行われた。そんなに顔に出ていたのだろうか。

静かに冷え込む部屋には二人だけが残された。

「…泥炭の魔女の正体は記憶だ。」

「古い魔女の記憶が呪いのように受け継がれて、新しい宿主にされる。」

「身体を乗っ取るとかではないんですか?」

「あぁ。記憶の譲渡が本質だから。」

「何が言いたいかというとね、私は子供を刺し殺したんだ。あれはホリーだ。」

「………そうですよね。私よりも辛いですよね……。気を使わせてしまって………」

「あぁ辛いし、寂しいよ。反省もしているさ。でもね。後悔はないよ。」

「…どういうことですか?」

「私の第一優先事項は私の命だ。可愛い子供であっても襲ってくるなら敵だ。」

彼女は私の目を見て話す。その目は噓をついている目でも、強がっている目でもない。

「ホリー含め育てた子達にも自分の命を優先しろと教えているし、一般的な価値観だと思っている。」

「だからね、庇えなかったって後悔は私には分からない。」

「…それでも嫌なんです。大切な人を見捨てでも生きようとした自分が。」

「死にたくないと、助けたいは両立するでしょ。『楽しかったから死にたくなくなった』。いいじゃないの。初めて会った時の目よりずっと良くなった。」

じんわりと汗をかいて、部屋の寒さが薄れていく。

感情を言葉にしようと思うがまとまらない。身体が熱い。自分が分からなくなっていき、時間が過ぎていくことだけが実感できる。

返答を考えている間に彼女は引き出しを開け、封筒を手渡してきた。

「お目当ての紹介状。あたしは多分、魔女にやられるから渡しとくわ」

「私も戦います。この町が滅ぶなんてことは──」

「どうでもいいでしょ。よくも知らない町なんて。大切なのは自分の命だって。」

「あの二人も首を突っ込むつもりらしいけど、頼めば逃げてくれるよ。」

言葉に詰まる。目の前の人に真顔で死ぬなんて言われたら助けたいと思う。でも、大切な人を見捨てたというのに、そんな無責任なことが言えるわけもない。

………死にたくない。その気持ちを肯定されるとは思っていなかった。

それでもまだ………。

「踏ん切りがつかないなら、もう少し流されてもいいよ。」

「正直、強いからいてくれたら助かる。」

封筒を持つ手を掴まれて、押し込まれる。隠せということか?後は自分で悩め、宿に戻って寝ろと暗に示されている気がする。ドアまで歩かされて一言。

「仲いいね、君たち。」

何が言いたいのかが良く分からないが、背中を向けられれば問いようがない。お辞儀をして、ドアを閉めた。

「何の話だったの?ディアナ?」

「待ってくれてたんですか…。二人とも。」

「なんとなく気が引けたので……やっぱり迷惑でした?」

「いえ。一人は寂しいって思っていたところでしたよ。」

前を進む二人は笑顔だ。まだ隣を歩ける気はしない。励まされても、道を示されても、まだ私は私が嫌い。それが本音。

けど、いつかは二人の隣を歩きたい。

逃げられるほど強くはなれないけれど、死にたくない理由ができた。

明日を乗り越えよう。なされるがまま流されても明日がやって来る。

せめて戦おう。少しでも、近づけるように。

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