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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
触手女がすごくがんばる章
25/55

25話 アラクネ

「友達じゃないなら食べさせてもいい?」

親しく話しかける彼女は、シアさんの首を軽く絞めたまま視線で指し示す。

ローディア。彼女はそう言っていた。ローディアは彼女と知り合いだったのだろうか。それとも、恨みを買っていたのか。

「返してもらえるとありがたいですね…」

「そう。」

何の疑問を持たない様子で投げてよこす。特段興味も無いようで、あっさりと渡してくれた。

「その触手って前から付いてたっけ?それが研究の成果ってこと?」

これから先の判断は重要だ。彼女は私をローディアとして認識している。だからこそ敵意を持っていない。正体を明かすべきかそうでないのか。

そうこう考えている内に時間切れ。返答しない私を見かねて、話を変えた。

「リディアナに行くんなら明後日以降にしてくれない?私直々に歓迎してあげるからさ。」

リディアナは確か、町の名前だったか。彼女は市民権を持つ人?なのだろうか。もしかしたら安全な人かも。正直に話してみるか?

私の悩みとは裏腹に、彼女は考えをまとめ始めたようだ

「おかしいわね~。そろそろ魔法をぶっ放されてるころだと思うんだけど。」

「それに~あなた今、行方不明じゃなかったかしら。」

瞬間、シアさんが飛び掛かり、足を切りつける。

私もフレイさんを抱えたまま、跳躍し、尻尾で上部を打つ。

足は断ち切れなかったが、上半身は血をまき散らしながら破裂した。

「こんなに乱暴だったかしら?この服あったかくて気に入ってたんだけど。」

潰れた蜘蛛と人との境目から声がする。

声帯はおろか、命が繋がっているわけもないはずなのに。

咄嗟にシアさんを右手で掴み、離れる。

「本当におかしいわね。あなた本当にローディア?」

上半身は見る見るうちに再生され、元の妖艶な姿に戻っていく。

意味が分からない。異様だ。奇妙だ。

蜘蛛の足も流れる血が止まり、何の問題もないようだ。

「まぁ戦うってんならこっちも真面目にやろうか。」

手のひらからズズっと杖が出てくる。体内に隠していたのか?そんなこと可能なのか?

杖を真横に振るい、空を切った瞬間、無数の氷柱がこちらを襲う。左手で抱える病人に当てるわけにはいかない。全力で防御に徹する。シアさんも剣を振るい守る。

砕けた氷片が草地を覆い、辺りが寒さに包まれたころようやく氷柱は止まった。

「魔法も使えなくなったのかしら。持久戦は無謀じゃない?」

もう一度杖を振るおうとしている。防がなくてはならないだろう。二人同時に駆けだす。今度は私が足を、シアさんが上半身を狙う。足を完全に砕けば逃げられるかもしれない。上半身の防御力は大したことはない。シアさんなら切り裂けるだろう。上から突き刺そうとする足を数本避けながら、足を三本へし折る。上ではシアさんが首を切る。

だが、やはりというべきか。なんともないようで血が滴る生首のまま呪文を唱え、足は私たちを襲い、杖からは氷柱が飛び出す。背中で三人分の攻撃を庇いつつ、離れる。このままではいけない。手数が違う。持久戦にすらならず間もなく死ぬだろう。それに傷が癒えるので攻撃のし甲斐がない。上半身の再生方法は分からず、下半身は持ち前の生命力に加え、回復魔法をかけられることでひしゃげた足はもう再生し終わっている。人間の回復速度ではない怪物。どうしようもない。

その時、火球が一つ飛び、怪物はそれを防ぐ。

「起きた!フレイ!」

「ディアナ、自分で歩けるから、降ろして」

やっと左腕が解放されたが、問題は依然として解決しない。魔法攻撃も容易く防がれてしまった。

「さっきから意識が虚ろでしたけど、あなたは敵でいいんですね?」

「それでいいんじゃない?お腹すいてきたみたいだし。」

怪物は新手を脅威とみなしていない様子だ。勝てるイメージが湧かない。

「シア、ディアナ。上半身は恐らく人間のものではありません。というより、生物ではない。」

「どういうことなの。フレイ」

この場の全員が次の言葉を待つ。注目の的は地面を指差し、答えた。

「さっき飛び散った血溜まりですが、もうなくなっています。とは言っても、草や石に吸われたわけではない。跡形もなく消えています。」

「……」

「再生ではありません。元に戻ったというのが正しい。拡散した”魔力”が元に戻った。」

「二人の攻撃はそのまま受けたのに、僕の魔法は防いだ。」

「結論としては、蜘蛛の魔物と悪魔が融合している……というところかな…?」



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