21話
目を覚まして最初にさらされた視線は、オレンジ色の髪の男の子、金髪の幼い子、そして銀髪の女性からのものだった。誰かは分からない。
”ローディアさん”
確認するように語り掛けられたが、私の名前なのだろうか。どことなく、しっくりこない。
何も分からないので、何も返せない私に対して、彼は静かに話し始めた。
私は記憶を失ったのだという。そして彼らは私の友人だったという。
安心させようとしてくれているのだろうか、ゆっくり丁寧に話を続けてくれた。
困惑はない。最後まで話を聞いても、なんとなく自分に関係のない話のように感じる。
記憶は戻らないだろうと言われるまで、自分が記憶を遡ろうとしていなかったことに気づけなかった。
思い出そうとすら思えないほどに、私はからっぽだった。
話が終わった後、扉は閉められて少しの時間が与えられた。
特に思うところもないので、自分のいる場所に目を向けた。
こじんまりとした部屋の中、丁寧に整頓された本棚、木製のベット、そして机と椅子。
居心地がいいとは思うが、やっぱり知らない部屋。
この部屋の主ならそうするのだろうと、被っていた毛布をたたむ。
それ以外にすることはない。本は見るからに複雑そうで、読んでも理解するのは疲れそうだ。
ただ、じっと時計の針を追う。
そうしている内に、時計の存在を覚えていることを認識したが、特に意味を感じない。
そのまま時間は過ぎていく。
私はどうなるのだろうか、窓の外からは活気を感じるが、やはりその声にも思い入れを感じない。
この…町?に家を持っているなら、このままひっそり住むのかもしれない。
何もないまま、時間が過ぎていくことだけが実感できる。
突然、扉が開いた。少し前まで話していた少年ではない。
青い髪と青い目、唇までもが青い女の子と、その子よりも幼く見える子供。
手を差し伸べられた。名を名乗られたが、言葉を返す事は出来なかった。
名は与えられたが、私の名前には感じない。とりあえず、右触手を手に握らせた。
青い少女は私に抱き着いてきた。痛いと感じるほどではないが、それでも強い力で離れない。
頭を撫でるのはためらわれる。なので左腕で恐る恐る抱きとめた。
声を殺して泣いている。私を通して、別の誰かを思っているのだろうか。
この子たちの言うには私は旅に出るらしい。特に抵抗感はない。
今はただなされるがまま、時間が過ぎるのを待つだけだ。




