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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
18/53

18話 ファファニールの勇士たち

「魔法が使えるやつは片っ端から触手を弾け!それでも向かってくるのは近接戦闘ができるやつが防げ!」

城壁の上は、触手と魔法が飛び交う戦場と化していた。魔法使いはまばらに散らばり、詠唱を続ける。戦士は数人でまとまって、猛攻を受け止める。それでも庇い切れない攻撃はダンさんとアテナさんが防ぐ。

飛び交う魔法は多種多様。結界を張る者や、目つぶしを狙う者。火球、電撃、氷魔法に、恐らく禁術であろう怪しいものまでも使われている。知性があろうとなかろうと、対応できる量ではない。

僕もささやかながら援護しよう。

『惑えよ旅人、逡巡せよ英雄、我が霧に巻かれて息絶えよ、中級魔法、悪意ある煙(フューム)

『烈火に巻かれよ!灼熱にもがけ!灰も残さず消してくれるわ!!中級魔法じゃあ!戦熱(レッドフレイム)!』

『覇王の最後、勇者の眠り、怪物の焦燥、自作魔法!”極大超級光降円”』

僕の魔法がかき消されそうなほどの熱気の中、向かってきた触手は受け止められる。

「シア!それに武器屋の爺様たち!」

「悪いがなぁ!礼を言う暇があんなら魔法で援護してくれぇ!」「はぁい!」

爆発音の後、怪物が思いっきりのけぞった!ダンさん達か!

「戦士たちは堪えろ!飛び掛かったら死ぬぞ!防御と魔法使えるやつの支援に専念しろ!」

怪物が見せた隙に、極大攻撃魔法の詠唱が始まる。僕も流れに乗っかろうか。

「違う!避けろ!」

ダンさんの声と共に、僕の中に少しの疑問が広がった。しかし疑問が解決されるよりも早く、衝撃が走る。城壁は真っ二つに両断され、戦士たちは半分に分けられた。

のけぞったんじゃない。魔法だろうが剣だろうが悪魔だろうが止められない、強力な一撃を放つための予備動作だったんだ。簡単に言えば、体重を乗せた頭突きによって陣形は破壊された。

未熟な僕が反応する前に、怪物も戦士たちも行動を開始している。

両者の攻撃はすでに始まっているのだ。

不死身の怪物は、頭から流れる血にも、猛攻にも興味を示さない。

僕に背中を向け、確実に左半隊を殲滅せんと、触手を振るう。

ダンさんもアテナさんも皆への攻撃をそらすので手一杯。怪物を引き離す余裕などどこにもない。

冷静になれ!僕の魔法じゃどうにもならない、魔法じゃない、別の策を考えなくては……。

「こっち向いた方がいいんじゃないかな?ババアの奥の手だよ!」

後方にいた声の主にはなんとなく見覚えがある。散歩していたおばあちゃんだ。ほとんど閉じていた目のままではあるが、小さな杖を握る先には巨大な砂塊が浮いている。そして、砂丘に見まがうほどの大質量の塊は高速で飛行し、ぶつかって怪物を押しのける。「あとは託したからね!ユリアナちゃん!」

道具屋のユリアナさんは、詠唱をすでに始めていた。そして、散らばった砂はやがて固まり、人型に形成されていく。

「ブッ飛ばせ!『無魂巨身像』!」

号令とともに拳が振るわれ、命令通りに怪物をブッ飛ばす。

右腕を崩しながらの一撃を放ちながら、次の一撃を叩きこむ。

左右の手を失いつつも、最後まで巨像の闘志は尽きない。豪快なタックルで元の距離まで、いや、それ以上の距離を確保した!

「足場は気にしないでいいですよ。」

アテナさんは数単語の呪文を唱え、崩れた城壁の代わりに半透明の足場を展開する。

体制を崩した怪物の攻撃までは時間がある。僕は負傷者の回復に回ろう。

再生し続ける巨体を戦士たちは睨み、各々の武器を構える。

不気味なほどの静寂の中で動く者はいない。全員が次の一手を考える。

怪物は考えをまとめたようだ。距離を取ったまま、目標はを変えて刺突を放つ。

徹底的に足場を破壊するつもりだ。点での攻撃を魔法で止めることは難しい。

破壊力は言わずもがなで、ボロボロの城壁も、急ごしらえの足場も耐えられない。

「焦るな!飛び込むな戦士たち!こっちが向かってくるのを待っているのだ!」

焦りが見える表情は打つ手がないことを端的に語る。

崩れる足場でも無慈悲に向かってくる触手を戦士たちは何とか受け止める。

僕を狙い撃つ一撃もシアがかばってくれた。

「なんでもいい!何かいい感じの魔法はないの⁉」

「僕の出力じゃ、有効な魔法には時間がかかる!先に足場がなくなるだろうさ!」

全員が命を繋ぐことで手一杯。手の空いている者の放った魔法で、数本の触手は焼かれている。触手を切断する者もいる。それでも、それ以上に多い攻撃が浴びせられる。

攻撃をさばけなくなってきたことを理解しているのだろう。刺突の合間に薙ぎ払いや、叩きつけなどを交え始めた。さらに飛び散る瓦礫が皆の余裕をそぎ落とす。

「ダン!時間を稼いでやるから、アレをやれ!出し惜しみしている場合じゃないだろ!」

「死者を出さないことが第一!もう少しだ!耐えろ!守れ!堪えるしかない!」

彼女たちが打つ手がないんなら、僕にもないのは明白だ。結界を張り、周囲の人を守る他ない。

だが疑問も生じてきた。何がもう少しなんだ?

舞い散る瓦礫、荒ぶる触手、必死に耐える人々の中で、その気配は突如として発生した。

そして、気配に気づいた瞬間には、荘厳な姿が目の前にあった。

美しい金髪、異常なまでの魔力、そしてはためかせる黒いマント。

答え合わせのように二人の声が重なる。

「「リディさん!」」

「六十秒だけ稼げ!ダン!アテナ!状況は…分かってる……!」

何が起こったのかは分からない、でも分かることもある。

この人が鍵だ。そして”六十秒”。それだけが分かれば十分だろう。

攻撃は練り上げられ始めた魔力に向かっていく。狙いの分かり切った攻撃なら対処はずっとしやすい。

声を張り上げ、無数の触手を迎撃する。周囲の戦士も、魔法使いも、気力を振り絞り彼女を守る。

ダンさんの放つ炎は全身を焼き尽くす。アテナさんの結界はうち漏らした手を弾き返す。

不死の怪物は文字通り手を休めない。

騒がしいはずなのに、なぜか無音に感じるほどの集中状態は、長かったような、短かったような。

そしてまばゆい光が辺りに満ちた……。


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