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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
15/54

15話 妄信者

「二手に分かれよう。見つけたら私を喚べ。あなたたちじゃ勝てない。」

「どこにいるんでしょうか」

この町の中には魔力も気配もない。混乱が広がっているだけだ。

さっき見たものを見た後には、この程度の混乱は嵐の前の静けさにしか感じられない。

シアの方は見たくもない。動揺でさっきから言葉が詰まって何も言えていない。

深く俯いているので顔を合わせる必要がないのは、正直ありがたかった。

「ハッチの下だと思うよ。」

シアのことを見ている内に、ダンさんは剣を構えている。

屋根の上にはオレンジの短い髪の少年……?だろうか。

足をぶらぶらさせて、敵意は感じない気もするが。

「早く行ってあげなよ。ギリギリ間に合うかもしれないよ?」

「アテナ…お前どこまで知ってやがるんだ?」

「お前には言ってないよ、ダン。俺の役目はお前の足止めだ。」

見下す彼の目は一気に冷たく、笑顔は瞬時に消え去っている。

敵意はあるが、殺意ではない。僕を殺すのには手間はかからないんだろう。

にらみ合いは二人の悪魔の間だけ、蚊帳の外だ。

「契約は『ダンを彼女に近づけないこと』。だから、そこの二人を止める義理はないんだ。」

「早くいかせてあげろよ。ダン。」

「お前が行かせる義理もないだろ?何が目的だ。アテナ」

「…そんなことを言ってる理由もないだろ。さっさと止めてあげなよ。シアちゃん?」

「……こいつは頑固なんだ。二人しか行けないらしいよ。」

シアは僕の手を取り、駆け出した。彼女の顔は困惑と涙と覚悟が入り混じる、ひどい顔だった。

僕も踏ん張り時だ。引っ張られるのをやめて、自分の足と意思で走りだす。

「覚悟を決めなきゃな。」

力ずくでも止めてやる。



あの時は気絶していたからわからなかったが、ハッチまでは直ぐについた。

魔物は何故か一匹も見えない。この地響きから、もっと正確に言えばその原因から離れようとしているのだろうか。ハッチはやっぱり軽く開く。

音は聞こえないが、奥には分厚い扉がある。光も音も漏れないのは自然なことだろう。

ハッチを開けて降り、杖を構えて息を整える。

扉をどちらが開けるかを相談しようとしたが、どうやらお出迎えをしてくれるらしい。

扉は開けられ、あの、優しい笑顔が目に入ってきた。

「ローディアさん!」

左手で駆け寄るシアを静止する。やはり、彼女は危険だ。

彼女は異様な姿に変貌していた。以前の笑顔を張り付けているが、切り落とされた右腕は砂の色をした触手に置き換わり、腰には尻尾のような巨大な触手を付けていた。

黒いローブを身に着けた彼女は、シアを受け止めようと両手を広げている。恐らくあの二本目の触手は重たいドアを押し開けるほどの精密さとパワーを秘めているのだろう。

静止されたシアを見て、少しがっかりしたような彼女は話を始めた。

「まずは謝らせて下さい。二人を死地に送るつもりはありませんでした。」

「『死地』ですか。」

どうやら会話も行動も知られていたらしい。馬上での話し合いでしか『死地』という言葉は使ってない。

ブリザードに阻まれたことも町の中から監視されていたのだろう。

「何から話しましょうか?そこまで時間はありませんが、せっかく来ていただいたのでお教えしますよ」

「目的は…なんなんですか…?ローディアさん…」

「死者の蘇生です。」

「蘇生ですか………」

「マスターが生き返るんですか!」

僕の言葉を遮るようにシアが身を乗り出す。

彼女は笑顔を見せるのを止め、少しトーンを落として語りだす。

「ミラさんではありません。彼女の死には立ち会えませんでしたから……。」

そう言って、彼女は袖から小瓶を取り出す。中身は何もないが、しっかりと支える右腕からは大事なものであろうことが伺える。

「これはずいぶん前に逝ってしまった私の大切な人の魂です。」

「古い悪魔の定義によれば、生物とは『記憶』『体』『魂』を持つ存在だそうです。」

「この人を蘇らせられないかと、私は特に『魂』について調べていました。」

「旅人を迎える世界樹、怨念を晴らさんと彷徨う亡霊、肉体を持たずに生まれる悪魔達」

「魂の定着さえできれば、また会えるのではないかって、ずぅーーっと。」

更にトーンを落としながら、息をつくと、彼女は突然、狂気的な笑顔を浮かべ、力強く語りだす。

「ようやく器を見つけられたんです!魂を失って暴走する肉体!あの身体ならもう死ぬことはない!」

「それだけじゃないんですよ⁉うまくいけば、町だって平穏を取り戻せる!

 ミラさんの残したファファニールを!」

彼女は身振り手振りで語る。触手もそれに合わせて、蠢き、僕は気圧される。

この人はもう…。

コーヒーを起用に触手でとり、口を潤わせ落ち着きを取り戻したらしい。

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと盛り上がってしまいました。それくらいですか?質問は。」

そこまで深い関係だったわけでもないが、ここまでの変貌は僕を怖気させるには十分だった。

胃の中がむかむかする。顔が引きつっているのも分かる。だが、沈黙をし続ければ彼女のペースだ。

「なんでそんなにカッコイイもんつけてるんですか?………二本も。」

「何事も実験と考察は大切ですよ?本当はもう少し時間が欲しかったんですが、リディ様に見つかったら力ずくで止められますから。」

他には?と問う彼女は言葉では止められないのだろう。シアもかける言葉が見つからないらしい。

「じゃあもう一つだけ。」

「僕が代わりに止めるとしたら?」

「遊んであげましょうか?人生最後の手合わせになりますね!」

うねる触手は異様な魔力と共に、僕らに飛び掛かってくる。

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