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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
14/53

14話 『これ』

「話をまとめるわね。」

①アザエフが魂を失って暴走し始めた

②封印はしたが、不安定なのでそろそろ逃げないといけない

③移動するのに戦力がいるので、(ダン)を読んでくるようにお使いを受けた

「ってことでいいの?」

「はい。道半ばで死にかけましたけど。」

「そう…。」

巨馬の背中は十分に広い。三人が乗っても、雄大な歩行を続けている。魔物は近づいてこない。

デザートイーグルが一匹、機をうかがっているだけだ。

今ゆっくり走ってもらってるのは、さっき僕が振り落とされかけて、シアの腕にしがみついていたからで………。

「そういうわけなので、助けてはくれませんか?報酬は保証するらしいです。ダンさん。」

「……ローディアとは知り合いだし、報酬もあるなら断る理由はないけど…。」

「流石に怪しすぎるね。」

「はい?」

僕の反応もシアと似たようなものだった。空を睨みつけながら、思考を巡らす彼女の二言目を待つことしか出来ない。

「私は話の流れをぶった切られるのが嫌いだから、聞き終わってから、いちゃもんをつけてくれ」

「返事は?」

「「はい。」」

「まず不審な点が三点だ。三つもあるからメモをとってもいいよ」

「一つ目は悠長すぎるってこと。いつ封印が解けるか分からないのに、あなたたち二人を徒歩で行かせる意味が分からない。それにアテナ(友人)が到着するのを待つって?私もそいつも悪魔なんだよ?

呼びに行かなくても、召喚すればいいじゃないの。召喚するだけなら、ほぼノーコストなのに」

「二つ目は、私を頼る必要もないってこと。ローディアとアテナがいれば移動ぐらいわけないよ。」

「それに戦力が不安だったとしてもだよ。リディさんがいたんだろ?この国の主で最高戦力であるあの人に頭を下げるべきだろ。やっぱり、部外者を呼ぶ必要はない。」

「最後は、あいつは良い奴だってこと。

………あなたたちを死地に送るのはおかしい。」

相変わらず、この人は畳みかけるように話す人だ。けど、その分説得力がある。

シアを撫でる長髪の女性の姿を、慈愛に満ちたあの笑顔を思い出す。

「つまりは……あの人が何か企んでいるってことですか?」

「嬢ちゃんの前であんまり言いたくないけど、そうだね。怪しすぎる。」

「目的は……なんなんですか……?ローディアさんは良い人ですよ…?」

「そんなの知らないけど、急いだほうがいいかもねッと!」

馬に語り掛け、速度を跳ね上げる。

一度生まれた疑惑は頭にしつこく粘り付き、離れない。

あの人は悪人…なのだろうか?僕にはやっぱり良い人にしか感じないが、逆に怪しくも感じてくる。

どちらにしても、今は何もできない。僕は馬に振り落とされるぐらいの弱者でしかないのだから。

そう思いながら、せめて声は挙げないように、今度はダンさんにしがみついてこらえるだけだった。





「着いたよ。ファファニール」

混乱と同様の広がる表情をしたシアと吐くのをこらえる僕はこの目的地にたどり着いた。

「そこの情けない奴は放っておくとして、とりあえずあいつの屋敷に乗り込もうか。」

馬を労い、さて行くかと彼女は言う。

「「はい…。」」

町の城壁には人気がなく、入るよ!という声にも反応はない。

町の中にはちょっとしたパニックが広がっていた。

耳をすませる必要すらないらしい。『ローディアちゃんがいなくなって結構経つけど大丈夫か』

『明日には帰ってくるらしいし大丈夫じゃないか?』そんな内容が聞こえてくる。

「さらにきな臭くなってきたみたいだね。シアちゃんには悪いけど。」

「…何が目的なんでしょうか?時間稼ぎなんてして…。」

「とりあえず、家にいってみましょうかね。」

「いや、なんもしなくても、いいみたいだ。」

僕たちに向かって走ってくる影があった。その人には見おぼえがある。確か医者のー

「アレンさん!」

「よかった。待ってたんだ!見せたいものがあるんだよ!」

「なんか嫌な予感がしますね。」

「老人が焦ってる時なんてろくな時がないしね…。」

老人につれられた場所は、病院。より正確に言えば霊安室だった。

寒さは気にはならないが、独特の空気感と今の状況が緊張を走らせる。

「それで『誰』に合えばいいのかな?」

「『誰』ではないんですよ、ダンさん。ただの遺体であれば、祈るだけでいいんですがね。」

「『これ』ですよ。見せたかったのは。」

差し出されたのは、右腕だった。生気は感じられず、周囲の寒さと完全に同化している。

切断面は綺麗で、触手によって引きちぎられたわけではない。つまり、アザエフにやられたというわけでもない。シアは別れる直前まで自分を抱きしめ、頭を撫でていた腕が目の前にあることに動揺している。

僕だって動揺している。知人の右腕だからというわけではない。

小指も腕に添えられていた。もともと小指がつながっていた場所には、美しい指先には似合わない異様なものがついていた。砂色の、吸盤のない、小さな触手。

肉体と融合しており、質の悪い冗談ではないのだろう。

彼女は何が目的なんだ………。

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