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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
12/53

12話 ブリザード

長時間我慢していた感情がどんどん溜まってきたのだろう。

ずいぶん押し黙っていたが、

シアの不満はとうとう爆発した。

「さッッッみぃぃぃぃぃーーー!」

「…口に出すともっと寒くなるから静かにしない?」

この状況は端的に言えば、寒い。

僕たちは、凶悪な魔物を警戒し、その覚悟の上で出発したが、待っていたのは寒さだった。

とにかく寒い。魔物はここ数時間は見ていないのはありがたいのだが、とにかく寒い。

確かに、町の人たちはちょっと寒いと言っていたが、それにしても寒い。

魔界は危険な場所だというのは、身をもって分かっていたが、気候という面でも地上より凄まじいとは思わなかった。無風、孤独の荒野相手ではどうしようもない。

「…我慢しろって言うなら、ローブか火球のどっちか頂戴よ。ずるいよ」

「悪いけど僕にとってはこのローブは防具なんだよ。無敵な君とは違うの。死にたくないの。」

「魔物なんて全然いないからこんなに大声で話せてるんでしょ!我慢するものも出来ないよ!

そんなぬくぬくされたらさぁ!私魔法使えないんだよ!火球だけでも貸してよ~。」

「魔法の遠隔維持は苦手なの。火球ぶつけていいなら簡単だけど。」

「それでいいよ。───かかってこい。」

「…あの木まで歩いたら休憩しようか。」

実際この状況はまずいのだ。

魔界では魔力の枯渇は起きずらい。回復魔法をかけ続ければ大体の傷は治すこともできる。

だからこそ一番恐ろしいのは、体力と精神力の消耗だ。

それらが尽きた時こそ、魔物が襲ってくる。

この魔界に慣れていないのは人間種だ。

ここで生き抜く魔物たちに消耗は無い。

目的地が明確であれば、歩きも早く感じる。

雪をザクザク言わせて歩いていると、もう木のもとに着いた。

「早う早う」

凍り付いて固い土になんとか剣を突き立て、魔法陣を描く。

新品未使用の傑作、『聖竜剣』初めての大役がお絵描きだと思わなかったし、いつもならシアも嘆いている事だろうが、今はそんな余裕などない。頑丈が取り柄だというし、大丈夫だろ。

確か、粗氷というのだろうか。大樹は氷に覆われ、生命力も感じない。

さっさと火を付けなければ、僕らもこうなるのだろう。

「あらよっと」

火がつかない。

「ここの文字ちゃんとつながってないんじゃない?魔力が流れてない気がするけど。」

ああそうか。やっぱり気の緩みがぬぐえない。

首を鳴らしながら、魔法陣を書き直し、魔力を込めようとした。その時だった。

ほんの少しの違和感。魔界の植物なんてそんなものなのかもしれない。けど、

こんなに寒いのに大樹は生育できるのだろうか。

魔力を注ぐのを止め、その疑惑に身をゆだねる。

防御まh



やっぱりだ。気の緩みにこの魔界は付け込んでくる。

「起きた!?立って!敵がどこなのか分かんない!」

どうやらローブのおかげで貫かれはしなかったようだ。

よく観察しておくべきだった。よく考えるべきだった。

魔界の植物が素直にくたばってるわけがないだろう。

あの木は氷に覆われているだけではない。氷に貫かれている。

あの木は僕らの未来の姿だ。

敵に襲われている!

「…状況を教えてくれ」

「反応できない速さの氷柱が襲ってくる!周りには誰もいない!けど……!」

シアは簡潔に状況を見せてくれた。

剣を拾いに走った瞬間、足に氷柱が直撃。転ばされてしまった!シアは顔から地面にダイブした!

「…この通り、動いた瞬間打たれる。」

「最悪な状況らしいね」

どうやってこちらを見ているのだろうか。

シアだって馬鹿じゃない。多少の魔法偽装なら見破れるだろう。

かといって周りに隠れられる場所なんてない。

地面はガッチリ固まっている。であれば空か!

残念。魔界はそんなに甘くはない。後の選択肢はなんだろう。

「すっごい遠くから狙ってるんじゃない!?見えないぐらいに!」

そんなに強いなら僕らを直接狙うだろう。自分たちを高く見積もり過ぎだ。

ゆっくり歩けば攻撃はされないらしい。剣を拾って渡してやった。

「ありがとう。何か策もくれるとありがたいんだけど?」

「歩いて逃げるってのはどう?」

「…自分でも無茶だって分かってるのよね。突っ込まないわよ。」

本当にどうしようか。ゆっくりと動けば確かに、攻撃はされない。

その分、ゆっくり体力を失われ、目的も達成できず、腐ることも出来ず死ぬのだろう。

「とりあえず…。敵の正体を見なければどうしようもないな。」

魔力と動きを補足しているのであれば、多少は有効だろう。

「結界を張ろう!こっちに来てくれ!」

「よし来た!」

魔力をこもらせる結界なら得意科目だ。

防御力を捨てれば、結界を移動させることも出来る!

氷柱はやはり僕には止められない。けど、シアならなんとか弾ける。

結界は三十秒もあれば張れる。しかし本当に敵は何処に潜んでいるのか。

数秒の間に四方八方、それどころか十数本の氷柱が向かってくる。

「ぬぅぅぅぃぁぁぁあああああぁああぁああぁああ!!!」

「よっしゃ間に合った!」

結界は無事に張れた。

防御力を持たせる余裕はなかったので氷柱は貫通してくるが、その分大きくできた!

「少しすれば場所を見失うはずだ!それまでは……避けろ!」

「うぉぉぉるゥあぁぁ!」

二人とも普段のテンションを見失ってるような気がするが、どうでもいい!

大声を出す元気があるうちに叫んでおいた方が楽しいだろう!

何秒経っただろうか。少しのはずなのに数分は走っている気がする!というより…。

「やっぱり状況変わって無くない⁉どんどん正確に狙われてる気がするんですけど⁉」

魔力で判別しているわけでは無いのか?結界の中だというのに攻撃は続く。

そして避け続けるというのは無謀だった。動きを止めれば追尾する攻撃に追いつかれる。

防御魔法を張ろうとすれば、より精密に氷柱が向かってくる。

いずれ追いつかれるだろう。

ついに目の前からも氷柱が向かってくる!避けられない……!

「しゃがんで!」

氷柱との間に入り、僕への攻撃をシアは背中で受け止めてくれる。

三発の氷柱が正確に命中し、かばわれた僕にも冷気が伝わる。

「シア!」

「大丈夫、死にはしない。けど動き回るのは厳しいかな…中身(からだ)が凍ってきた…」

「……分かった。急ぐよ」

本当にどこから攻撃をしているんだ?目の前に急に氷柱が発生してくるから僕には対応できない。

ドンッドンッ

考えているうちに異音が聞こえてきた。攻撃は来ていない。何の音だ?

「結界からの音か…?」

それはおかしい。この結界は物理的な干渉は無視する。氷柱は魔法で生み出した『物』だ。

衝突音は起きないはずだろう…?魔法が撃たれているなら、気づくに決まっている。

……いや、結界に干渉するものがあるぞ。

魔力は結界に阻まれる。

衝突音は絶えず起き続け、焦りと緊張を引き戻し、冷静に思考できるようになってきた。

あぁ途端に分かってくる。『氷柱は目の前に出現する』。そうだ。結界の中に出現していた。

そしてこの殺風景な結界の中にあるものなんて限られている。

いつの間にか風が。より正確に言えば、魔力の流れが発生している。

「分かった。」

「敵の正体は魔力そのものだ。」


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