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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
11/53

11話 アザエフ

「シアちゃんを捜索できなかったのは、ミラさんがいなくなって、この町の防衛力が落ち、私が離れられなかったためです」

「本当…なんですか。理由は…?」

「この町の近くにアザエフという魔物がいます。」

「数十年おきに封印が解け、集落を襲撃するのです。そのたびこの町が封印をしてきました。」

「あなたを彼女の隠れ家に置いていたのも、恐らく巻き込まないためだと思います。」

止めておいた方がよかったのだろうか。聞かずに出発しておいた方がよかったのだろうか。

困惑しているのだろう。シアは泣くことすらできていない。

「…その魔物はどうなったんですか。退けられたんですよね。」

「…彼女は町の近くで封印するわけにはいかないだろうと、アザエフ相手に飛び掛かりました。」

「結果はは相打ちでした。けれど、彼女含めても死者はたったの4名。私は彼女の勝ちだと思います」

「あたしはそうは思わないよ」

その幼い声は僕の後ろから聞こえてきた。

「……リディ様。」

声の主はこの場の誰よりも若いはずなのに、この場の誰よりも荘厳な気配を漂わせている。

これほど近くに迫っているのに、この強大な魔力を感じ取ることはできなかった。

冷たい視線にさらされていると、あの時の感覚を思い出す。

目をそらすことも、目を閉じることも、後ずさることすら許されない、魔界に落ちた時の恐怖を。

「ミラは負けたんだよ。」

「お言葉ですが、アザエフを仕留めたのです。あの化け物をですよ!」

「おぉ確かに、仕留めたな。というより仕留めてしまった。」

「……………。」

「それにね、ローディア。」

「私が言っているのは本人が逝ってしまったということだよ」

「いくら立派なことをしようが、死んでしまったら意味がない」

「ですが……!」

「ローディア」

「あんたも死に急ぐ馬鹿になりたいのかい?」

「……」

「さっさと逃げろといっただろう。なんでまだ残っているんだ」

「『アザエフの封印はできない』そう自分で言ってただろう」

特段凄んでいるわけでは無いが、ずっと会話は防戦一方だった。

僕には話の流れがつかめないし、頭を働かせるほどの余裕もない。

だが、それでも違和感だけが残った。『アザエフ』とやらは死んだのではなかったのか。

「言い訳があるなら聞いてあげようか?」

「…アテナさんに護衛をしてもらおうと思って今連絡をとっています。」

「…忠告はしたからね」

「んで、その子は誰なのよ」

「数日前にワイバーンと共に地上から落ちてきたそうです」

「死にたがりの馬鹿か。気に食わないな。」

帰るよ、という声と見えなくなった背中を認識するまで動けなかった。

どういう事だ。何が起こった。結局何なんだ。

混乱しまくった僕よりも、シアの方が口を開くのは早かった。

「魔物はまだ生きてるんですか?マスターは勝ったんですよね…?」

一呼吸分だけ間を開け、背中を向けたまま彼女は重い口を開けた。

「アザエフは死にました。それは確かです」

「しかし、死後も肉体が治癒し続け、二日後にとうとう蘇りました。」

「魂がなき今のあれは、肉体だけが暴走しているのです。」

「魂を縛る封印も効果は薄く、討伐するほどの戦力はありません。いつ目覚めるかも分かりません」

「町は放棄することになってしまいました。」

一語一語。重々しく語り終えた彼女はようやくこちらを向きなおした。

「二人も早く逃げてください。人命が一番大切ですから。」

「本当に町は捨ててしまうんですか。」

「はい。それは避けられないと思います」

「……何か僕にできることはありませんか?」

「無理する必要はありませんよ。私の友人が到着すれば町の人の移動もできますし、心の準備をする時間くらいはあるでしょうから。」

「なにかさせてくださいローディアさん。

 何かできないと私は寝てただけの愚図でおわっちゃうじゃないですか…。」



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