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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
1/53

1話 レッドドラゴン

顔の擦り傷の痛みも脱力した足も多分、折れているだろう腕の骨も特に気にはならなかった。

自分をこんなふうにしてくれた化け物が、村をあっさり滅ぼした化け物が、押さえつけられ、首を噛み切られようとしている。既に絶命しているのだろう。

茶色の鱗が血に沈み、その血が指先にまで届いた頃、その怪物の視線に気がついた。

砂利で少しくすんだ赤い鱗に、ワイルドワイバーンを補食する強大な牙、そして何より人間を虫けら程度に見下すその目。それはレッドドラゴンだった。

咀嚼しているレッドドラゴンに対しては何も出来なかった。学校では魔物に会ったら、目を合わせて、焦らず動かないよう教わっていたし、ワイルドワイバーン相手でもそれは通用した。

今は違う。どうすれば良いのか分からないのだ。背中を見せて走っても気を損ねないだろうか?それとも、じっと動かず食事が終わるまで待つべきか?

思い出していたのは、自分なら食事中に見つけた虫をどうしていたか、ということであった。

レッドドラゴンは目を逸らし、食事に戻った。

………反射的に、というよりただの直感だった。

10数メートル吹っ飛んだだけで済んだ。

レッドドラゴンは尻尾で追い払う事にしたらしい。

体内の魔力を全て干上がらせ、掠れ声ですらない絶叫を上げる事で防御魔法を出すことは出来た。

レッドドラゴンは虫けらの生死なんてかけらも興味がなく、もう、記憶にすら残っていないだろう。

潰れた喉と摩擦によって出来た腕の傷がジリジリと痛み出したが、血の匂いと肉を引きちぎる音の中

這いつくばって離れるしかなかった。

「逃げる」ではなく「離れる」と言ったのはこの世界に安息の地などないからだ。

この、地上から深く深く離れた魔界には。


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