妄想の帝国 その103 フクイチ撤去作業大隊
ニホン国の壊れた原発の廃炉作業に進んで?従事するのは…
まだ、猛暑というか酷暑が続く盛り、白い防護服に身を固めた一団が、瓦礫の山の前の広場に整列していた。彼らの前には一台のドローンが浮かんでいる。
『フクイチ撤去作業大隊の皆様!!暑い最中ですが、ニホン国の存続のため、国のため、頑張りましょう!まずはU隊の方々、B地区まで進んでください。次にN隊」
ドローンからの掛け声に、各部隊がザッザッと進もうとする。40度近い暑さのなか、宇宙服のようなヘルメットと服でかなりの重さに耐えながら、ゆっくりと皆が動く中、ヨロヨロと歩いていた一人が躓いて倒れた。起き上がろうとしてたが、うまく立てず膝をついて、いきなりヘルメットを脱いで叫びだした。
「ち、ちきしょー!なんでこんなこと!ちょっとSNSで大げさに書いただけじゃないかああ!」
歩みを止める隊。
「歴史修正のデマだとか、単にネットとか本に書いてあるのを鵜呑みにしちまっただけなのに、なんで、こんな壊れちまった原発の廃炉作業なんかに駆り出されなければいけないんだああ!撤去作業大隊なんて、大げさな名前つけやがって、N隊はネトキョクウ、U隊は裏金議員とお仲間ってことだろう、わかってんだ!!」
叫ぶ隊員にむかって
『ヒマヒマアノン№9隊員、ヘルメットをかぶり、進んでください。これより危険地域になりますので、ヘルメットを被らないと危険です。また隊列を乱すと他の隊員に』
「うるせええ!新政府の犬め!俺たちが邪魔だから殺す気なんだろ!」
と叫ぶヒマヒマアノン№9隊員だったが
バシッ
すぐそばの隊員に背中を蹴られた。それを皮切りに他の隊員たちからも
「騒ぐなよ!馬鹿!俺たちはニホン国のために戦ってるんだぞ!この瓦礫を撤去してニホン国を滅亡から救うという使命を負っているんだ!」
「過酷な作業だからってなんだ!死ぬのが怖いって?俺ら亡国を招いたといわれるネトキョクウの名誉回復ができるんだぞ。ニホン国のために死んでフクイチ救国神社に祀られるなら本望だ!」
「罪を認めぬ卑怯者め、ヒマヒマ様は真っ先に瓦礫に突っ込んでお亡くなりになったんだぞ」
「そうだ!偉大な作家モモタンさんなんか、炉の中に入るという危険作業に志願されたんだ、たかが瓦礫をどかすぐらいで何を弱音を!」
罵られ、たたかれ、小突かれるヒマヒマアノン№9隊員。
『皆様、落ち着いてください、速やかに作業に戻りなさい。ヒマヒマアノン№9隊員、ヘルメットを被り作業に…』
ドローンの声に、隊員たちは行進を再開した。ヒマヒマアノン№9隊員は無理やりにヘルメットを被らされ、周りの隊員たちに両腕を抱えられて引きずられていった。
フクイチより汚染地域から外れた施設。
二人の男性が、ドローンのカメラから彼らの様子をうかがっていた。
“いや、おそろしいほどうまくいっていますなあ、フクイチの作業”
“はい、試験的に旧政府に組したジコウ党の裏金議員やジコウ党の支援者、太鼓持ち芸人らや、SNSでデマまき散らしたネトキョクウなどにやらせましたが、こうもうまくいくとは”
“奴らが日頃言っていたお国のために犠牲となったエイレイとやらをなぞられた物語を作って、吹き込んだのが功を奏しましたよ。まあニホン国をダメにして我々国際機関カッコクレンの占領下に置くことになったのは、確かに奴らの言動が原因ですが”
“それを我々に逆恨みしないよう、自分たちが犠牲となってニホン国を立て直すんだという物語にしましたねえ”
“まあ、ニホン国には荒唐無稽な英雄譚というかライトノベルとかマンガとかありますから、いい歳の成人男性が夢中で読んでましたしね。それといわゆる第二次大戦中のニホン帝国政府のプロパガンダ話をうまくつなげ合わせたんですよ”
“いや、しかしそれで廃炉が不可能といわれたフクイチ原発の処理実験の要員確保に結び付けるなんてすばらしいです。おかげで実験が進み、さらに瓦礫の撤去も順調。もうアジア諸国の労働者たちはダメになったニホン国にはきたがらないんで、どうしようかと”
“ニホン国がダメになったとき、マイマイナンバーですぐに彼らを招集出来ましたからねえ。情報保護がザルなうえにあちこちと紐づけされてましたからねえ、マイマイナンバー。もっともネトキョクウではあちこち裁判起こしまくって実は個人情報開示されまくったのもいましたが”
“ああ、ヒマヒマとか言う奴。あいつも何のかんのと文句をいったが、言動全部論破され、世界中にさらし者にされるぐらいならと、最も危険な作業の実験に喜んで参加した。最後は大量に被ばくして苦しみながら死んでいったな。なんとまあ、アホというか”
“まあ愚かでした、発言はいい加減です、私が悪かったです、謝りますなんてどうしても言えないんでしょうね。そういって生き残るより、治療もできない悲惨な死を選んでニホン国を救うって物語のヒーローになりたかったんでしょう。我々の用意した物語のほかにいくつかバージョンで、全員死んだら、ニホン国が独立し、犠牲となったものが生き返るんだというのもありましたから”
“はあ、創世神話か。しかし、彼らの家族、友人、親せきとかは反対しなかったのかね、まさか一家そろってネトキョクウとか。ジコウ党やその仲間は一族郎党だが”
“ああ、まず家族は彼らがいなくなって喜ぶのが多かったんですよ。特に兄弟姉妹、あんな身内がいて恥、何よりロクに働きもせず、家事もせず、文句ばっかり。親がまだ面倒見てるけど親が介護になったら、一緒にお荷物になるし、いっそ死んでほしいとかね。親の方も可愛くないわけではないけど、もう面倒をみるのが限界って感じです。ああいう連中ですから配偶者はもともといないか、いても離婚してる、もしくは招集令状が来た直後離婚っていうケースばっかりでしたしね。心配するマトモな友人なんてそもそもいないようですし”
“はあ、現実の鼻つまみ者が、ネットの世界でいい加減なことを喚き散らしていただけか。現実が嫌なら変える努力するなり、いっそ大自然の中で一人で生き抜きゃいいのに”
“そんな勇気もないんでしょう。夢や希望を叶えるための地道な努力はいや、生活を支える退屈な作業もしたくない、ましてつまらない仕事や親の介護や家事なんてまっぴら、自分は便利で豊かな生活を享受しちやほやされて耳障りのいいセリフだけ聞きたいって勝手で自己中心的な連中ですから”
“ふーん、どうししょうもない。…今、思いついたんだが、そういう連中ならAIで作った理想の女子をあてがってやって、甘い言葉でもささやいてやればそれこそ死ぬまで働くんじゃないか”
“あー、それでしたら、すでに開発中です。なにしろニホン国、いや世界の復興のためにとことん働いてもらわないと。ネット上の女性ならいくらでも作れますし、リアルな女性に迷惑もかけない。彼らの世話は自分でやらせてますし、極力、隊員以外とは接触させていません。奴らは自分の都合のよい物語の中で生きていけばいいんですよ”
“ああ、そうだ。それで我々の、新生ニホン国の役にたってくれればね”
フクイチでは、危険な暑さ、許容を超えた放射線濃度の中でヨロヨロと隊員たちが作業を続けていた。
どこぞの国では、すっかり忘れてますが、壊れた原発の廃炉作業がまだあるし、自然災害で復興してないのに、また災害がきてるんですよねえ。メダルもいいけど、足元の地道な生活をちゃんとしないとダメじゃないかと思いますよ、物語に現実逃避するだけじゃなくて。