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御伽学園戦闘病

逆さ詠唱のその先に

作者: はんぺソ。



この世界には能力と呼ばれる異能力が存在している。だ

がその強力な力故か迫害が横行していた。

解消する為一度だけ戦争が起こったが結果は敗北、更に迫害が増すだけであった。その結果無人島に大量の能力者を幽閉したり、全世界で収容所の様なものも作られたりした。

そんな世界で一人の男の子が生活していた。能力者ではあるが、隠れて暮らしているので収容所には入っていない。高校二年生、その日は普通の七月中旬であった。


「おーい、傀聖? 何してんのー?」


数少ない友達の[笹原 尚吾(ササハラショウゴ]だ。基本的に誰にも話しかける所謂優しい奴だ。だがそんな笹原でもこの青年、[松雷 傀聖(ショウライカイセイ]にはあまり近寄ろうとはしなかった。


「あ……どうしたの、笹原君」


「いや、机に突っ伏してたからよ。これ渡しとけって言われてよ」


そう言いながら一枚の紙を差し出して来た。手に取り確認してみるとどうやら夏休みがいつから始まっていつまでなのか、という旨のプリントのようだ。

特におかしな点も無いプリントだ。


「去年と同じか」


「まぁな……そんじゃ俺は行くわ、バイバイ!」


元気な顔で手を振り、何処かに行ってしまった。傀聖は再びプリントに目を通し、夏休みの初日八月一日を待ち遠しく思いながらも再度突っ伏して眠りに就くのだった。



その後は特に何も無く授業は終了した。さっさと荷物をまとめ教室を飛び出した。信じられない程の速度で自宅に到着した。


「あれ、母さんいないのか」


両親は一応共働きなのだが母親は月曜日が休みなのだ。そしてその日は憂鬱な月曜日のはずだ。車はあったはずなのだ。


「まぁ……買い物行ってるだけかな」


そう思い自室に戻る事にした。階段を登り、扉を開け、荷物を放り投げるように置く。勉強机に腰かけて宙を眺める。特に何があるわけでもないのだが、そうしている時間は落ち着くのだ。

とその時、傀聖の手に一つの槍が握られた。それは唐突に現れた。そう、それこそが傀聖の能力だ。


「うん。絶好調」


名は『創躁術(そうそうじゅつ)』、一般的に武器と認識されているものを自由に創り出す事が出来る能力だ。日本神話、ギリシャ神話、エジプト神話などで名を連ねた神話の武具を模倣して、作り出す事だって出来る非常に強力な能力である。


「……使い道ほんとないなぁ……一部の人は戦闘? してるみたいだけ僕はする気ないし、どうにかして活用できないもんかね」


そんな事言っていてもどうにもならない。本人がアクションを起こそうとしていないのだから成長に繋がる事は無いだろう。精々武器を一人で振り回して遊ぶ程度にしか使い道がないようだ。

一人で小ぶりな槍を弄って遊んでいると少し時間が経ってしまったようだ。少々眠気に襲われたがひとまずシャワーだけ浴びて、ベッドに飛び込み仮眠を取る事にした。



そしてどれ程の時間が経っただろうか、唐突に耳をつんざくようにして聞こえた銃声に目を覚ました。急いで体を起こし、階段を駆け下りる。

何かあったらマズいのでいつでも槍を創造出来るようにしておく。恐る恐るリビングを覗いてみる、硬直し思考が止まった。言葉も出ない、槍を生成する余裕も無い。

血の海となっていた。そしてその源を辿る、部屋の中央に母親を庇う様にして倒れている父親、そして庇われているが虚しくも動かなくなっている母親の姿だった。


「どういう……事? なんで……母さんと父さんが……」


唖然としていたがすぐに正気を取り戻し、時間を確認する。十九時四十五分ぴったりだ。その後死因を解明する為近寄って状態を確認した。

二人は完全に死んでいるようだ。吐き気を何とか抑え込みながらまさぐる。その結果父親の背中から母親の胸部、詳しくすると心臓を貫かれていた。銃の弾丸のようなもので。


「おかしいだろ!! なんで弾が何処にも無いんだよ!!」


非常に焦りながら死体を動かしまくる。だが銃声は近隣住民にも聞こえていたようでパトカーのサイレン音が近付いて来ているのが分かった。それと共に独特なサイレン音、救急車も来ているようだ。

傀聖はすぐに立ち上がり、死体を元の場所に戻して他の凶器がないか探る。絶対にあるあずだ。何故なら銃弾で出来た穴だけでは無く何箇所か刺し傷があったのだ。


「何処だ……何処だよ!!」


もう怒りを隠す事も無く、傀聖らしからぬ声色で叫び回る。するとドアが勢いよく開かれたと共に何人かの人物が走ってリビングの方まで向かってきている事に気付く。

ひとまず今は頼りにしようと考え動きを止めた。するとやはり警察のようで部屋を見渡してから傀聖に動かないよう命じた。それからの進展は凄まじかった。

傀聖は保護、その後精神が落ち着いてから事情聴取を受けた。何があったかを全て、包み隠さず説明した。だが結局の所情報を得る事は出来ないようで困った顔をしている。そこで傀聖は一つ、気になっていた事を訊ねた。


「弾丸は見つかったんですか」


「それがね、どうやら無いらしいんだよ。もしかしたら能力者の仕業かもしれないと思ってね、今能力者専門の奴を呼んで周辺を探し回ってもらっている。大丈夫さ、絶対に犯人は見つかるよ」


そう励まし、肩を叩いてくれた。だがそんな人間も傀聖が能力者だと知ると急変し、酷い対応をしてくるだろう。なんなら傀聖を犯人だと決めつけてくる可能性だってある。

それでも聞くしかない。傀聖は既におかしくなっていた、唯一と言っていい程の理解者であった両親の亡骸を前にして。


「なんで、救急車が来たんですか」


「そりゃ近所の人から撃たれたって通報されたから……その人も軽く話を聞いたけどね、犯人は分からないそうなんだ。ただ銃を使っていたのは分かったらしいよ」


「今ここで……犯人の特徴、聞けますか」


「んーごめん。ちょっとよく分からないから聞いて来るね、少し待ってて」


そう言って退室した。その瞬間、傀聖は決意を固めた。すぐにハンマーを生成する。非常に重たく、戦いで使ったら制御なんて出来ないだろうと感じる程に重いハンマーを思い浮かべながら。

生成されたハンマーに体が沈む。一般高校生にはとても持ち上げる事が出来ない重さのはずだ。だが火事場の馬鹿力とでも言わんばかりの怪力で持ち上げ、フルスイングをかました。

鳴り響く崩壊音、即座に部屋の扉が開かれた。それを目にした警察官は驚愕した。


「おい、なんだこれ……」


「俺も分かんねぇよバカかよ……なんで穴が……」


まるで爆発を受けたように大きな穴が開いた壁からは夏の深夜特有の生ぬるく、でも蒸し暑いような風が吹き込んでいた。その風に当てられあることに気付く。


「少年は!?」


もしや落ちたのか、と思った一人は穴から下を覗く。すると先程見た立ち姿の男が走って逃げ出しているのが目についた。急いで無線で連絡する。

そして異常だと言う事にも気付いた。その警察署は少し大きめで、当階層は三階であった。当然そこから飛び降りた場合骨折の心配、最低でも打撲はしているだろう。だが傀聖は何事もなかったかのように全速力で走っている様に見えた。


「恐らくあいつは能力者だ! 何らかの能力を使用し壁を破壊、その後同じく能力で飛び降り着地、逃走を図ったと思われる! 即座に追いかけてくれ!」


二人の警官が乗ったパトカーが二台出動した。現在傀聖を犯人として見立てている。だが銃は使っていないように見えた。それでも能力者と言うだけでしっかりとした理論などいらず犯人に仕立てることが出来る。

最悪能力を二つ以上持っている複数持ちとして処理すれば良い話だ。とりあえず傀聖を捉えなくてはいけないのだ。

一方傀聖本人は全力ダッシュで街中に飛び込んだ。着地は少し雑だったが壁に強固な剣を突き立て、減速させた。多少痛みはあるものの逃げる事ぐらいは出来る程度だ。


「絶対に殺す!!」


警官から逃げる事なんて正直どうでも良かった。最悪の場合武器を創り出して蹴散らしてしまえばいい、傀聖はその力を持ち合わせている。

ようやく能力を使う場面が来たと喜びながら適当な路地裏に入った。そこそこ近くでサイレン音が聞こえるが薄汚い路地裏の奥の奥まで入り、盾を創り出して防御しておき少しでも視界から外れれば良いと思っていた。


「ってて……骨折はしてないかな。でも痛いな」


右足を強く打った様で痛めている。走ったせいで更に痛みが増す。痛みと親が死んだことを再確認した事による悲しみが混じり、声も出さずに泣いていた。



ゆっくりと目を覚ました。すぐに何があったのか思い出す。寝る直前の記憶は憶えていない。ただ周囲に変化はあったのかを確認するため盾を退かした。

始めてやってみたが傀聖自信が消そうと思わないと武器は消失しないらしい。また新しい情報を手に入れた、犯人を殺す際に活用できるかもしれない。


「とりあえず……」


盾を退かす動作よりも更にスローで路地裏を出た。周囲は人で溢れている。恐らく大丈夫だろうが捜索を続けている可能性が高いので一旦待機する事にした。

ここを出たら次何処で安置を作れるか分からない。今の内にある程度算段を付けておきたいのだ。再び奥に入り、盾を生成して隠れ情報を整理し始めた。


「……でもなんも情報が無いんだよなぁ……うーん、どうにかして導き出すしかないんだけど生憎家には戻れないだろうしなぁ。かと言って情報は家に置いてあるから時間の問題だよな。

一度県外に行っても良いけど犯人の居場所が分かんなくなっちゃう……どうすれば良いんだよ……僕こんなの初めてなのに……」


ほんの数時間前までただの隠密能力者だった。ただ戦闘をすることは無かったので実質ただの高校生男子だった。そんな奴が急に復讐なんて出来るわけが無いだろう。それに加え警察も敵に回す事になりそうな状況だ、精神衛生上も良くないであろう。

正直今すぐ後を追ってしまいたい気分だ。だが死ぬのは怖い、特に勇敢で「復讐を絶対に遂行する」などの心があるわけでもない。だが死ぬのは怖い、嫌なのだ。だから何か目標を設定したかった。それが犯人を殺すだっただけの話である。


「一旦東京へ逃げるのもありかもな……それか警察が言ってた能力関係専門の人達に頼るのも……いや、駄目だ! 僕がやらなくちゃ!」


ここは山梨と東京の県境、そこそこ建物はあるが東京の方が圧倒的に良いのは明確だ。どうするべきか悩んだ末ここに留まる事にした。

恐らくだが余裕が無い。もう鍛練なんてしている時間は無い。あと二日も動ければ上出来だろう。そう思いすぐに行動に移す事にした。


「よし! 頑張るぞ!」


心臓の鼓動が信じられない程早くなっているが構わず飛び出した。夜よりは人が多いので最大限出来る事をする、それまでだ。

まずは自宅の方へ慎重に周囲を警戒しつつ足を進めて行った。頑張って自然に見慣れた道を進む。もう真っ青だった、一般人から声をかけられるのかもしれないと自分で分かるぐらいには緊張していた。

もう胸が張り裂けそうだった。聞こえてくるのだ、自信の住宅の側から複数の人物の声が。絶対に行ってはいけないが行かないとどうにもならない。


「もう……引けないよね……」


警察署の壁を破壊した時のように決意を固めようとしたが体が動かない。すると周囲を見張っていた警察官が気配に気付いたのか振り返ろうとする。

マズイ、と心で思っても体は動かない。緊張と焦りで吐き気が増し、喉元が熱くなっていた。何とか抑え込み、息を整えて槍を創り出そうとしたその時後ろから声が聞こえた。


「おい! 何してんだよ! おせえよ!」


そいつはすぐに傀聖の腕を掴み、グイグイと引っ張りながらその場を離れた。引っ張られている最中後ろ姿だけで誰か分かった。そいつも焦っているのか手汗が凄い。

一旦適当な茂みに隠れる事にした。


「大丈夫か? 傀聖」


本当に安心した。笹原だ。


「笹原? ……なんで」


「昨日の事件聞いてよ。しかも警察署の壁が壊されたって聞いて、お前なんかやったんだなぁって思ってよ。探そうと思ってたんだけど突っ立ってたから……状況的にバレたらまずいんだろ」


「うん。本当にありがとう」


「そんなん良いから。落ち着いたなら俺の家行くぞ」


笹原は高校生ながら一人暮らしをしている。しっかり勉強もして、ある程度は自分で金を稼ぐことにして一人暮らしを許して貰ったと説明しながら小さなボロアパートに到着する。

一室に二人で入り、コップ一杯のお茶を差し出してから話が始まる。


「まず何があったのか、全部説明してくれよ。助けてやったんだから聞く権利ぐらいあるだろ?」


全くその通りである。傀聖は言われた通り全てを説明した。すると笹原は少々唸りながら呟いた。


「あれ、これ俺ヤバくね」


「うん……普通にヤバイと思う」


「まぁ良いか。人を救って死ねるなら本望だな!」


「死にはしないでしょ。でもこれからどうすれば良いかな……」


「まぁ俺が情報集めて来てやるよ」


自信満々に言い放った。あまり乗り気ではなかったがそれぐらいしか手段は無さそうだ。仕方無く頼む事にした。すると笹原は「時間無いんだろ? 今から行って来るわ!」と飛び出して行った。

行動力が凄まじいと感心しながらリラックスする事にした。ほんの数時間で今までの人生で最大級の恐怖を感じたかもしれない。もう疲労困憊である。


「でもこれで進みそうだな。笹原君がやってくれるなら三日は動けそうだな。僕はとりあえず……」


その瞬間だった。衝撃が走る。それは比喩表現でもなんでもなく本当に衝撃が走った。すぐに槍を創り出し、防御の構えを取った。だが全くと言っていい程次の攻撃らしきものは飛んでこない。

状況を確認すると部屋は全壊、というかアパート全てが吹っ飛ばされていた。明らかに能力者の仕業だと感じ、周囲に誰かいないか探す。


「何処だ! 出て来い!!」


煽ってみるが気配すら感じ取れない。そして唾を飲み込んだ瞬間、背後から土を踏む音がした。すぐ振り返りながら槍を突き出す。だがその後グワンと体が揺れ、アパートと同じように吹っ飛ばされた。

お隣の石垣に衝突し、鼻血を垂らす。口の中も切っているようで血の味で満たされた。だがすぐに顔上げ、誰が殴って来たのか確認した。


「どーもこんにちわ!! 始めまして、[サラサーテ]と名乗っておきましょう!! とりあえず君を殺すよう命令されているので、ぶっ殺しちゃいますね!!」


超ハイテンションで楽しそうに叫んでいるのは成人男性より少しだけ小さめで茶髪の青年だ。多分だが傀聖と同年代程度だ。すぐに槍に視線を移すと真っ二つに折れていた。

新しい武器を創り出そうとしたその時襲い掛かって来た。すぐさま折れている槍で応戦する。


「おいおいそれで戦うの無理があるでしょ!! もうちょっとマシなの作りなよ!! なんか作れるんでしょ!!」


そうは言うが攻撃の手は止めない。今までこんな状況になった事も無く、生成すら一週間に一回やるぐらいだったので使用できるはずもなく、されるがままだ。

だが青年は殺意を出しながらも手加減している。それが絶妙に気持ち悪い。それに加えて明らかに楽しんでいる。この戦闘という行為自体を楽しみに一つとしているような様である。


「ふっざけんな!! 出来るわけないだろ、このどぐされ野郎がぁ!!」


何も出来ない事に苛立ち、キレだした。それでも生成は出来ない。何とか反撃を行い、隙を作り出して槍か剣あたりを新しく生み出すしか切り抜ける方法は無い。

もう無駄口を挟んでいる余裕も無くなって来たのか血眼になって振り回す。何とか対処は出来ているが起死回生の一撃が無いと負けてしまう。

かと言って何かあるわけでもない。強いて言うならば訳の分からないタイミングで武器を作り出すことぐらいだろうか。だがもう思いつくのはそれしかない、意を決して能力を発動した。


「お!! 来た……」


その時だった。両者は当然武器が創造されると思っていた、頭の中では強固で軽い剣を思い浮かべながら。ただ実際に起こった事とは全く違った。

傀聖のズボンのポケットからチャリンとなったと思うと謎の念の様なものがサラサーテに向かって放たれた。と思う最中、爆発が起こった。小さな爆発だったが猫だましにはなった。


「なんだ!?」


驚いている内に速攻で創造する。思い浮かべたのは当然、一番触れて来た槍だ。穂が非常に長く、半分以上が攻撃部位で出来ている槍だ。

重さはそこそこ、今の傀聖には打ってつけの造りだ。すぐに襲い掛かる。だがサラサーテも伊達に襲撃して来た訳でも無いようで、押されながらも何とか耐える。


「お前、さては対して強くないな!! 僕に押されるぐらいには!!」


そう、サラサーテは強くなった。ただの初心者狩りだったので強く見えただけのようで少しでも有利になった瞬間何度も傷を付けられている。

致命傷を入れられそうになるとすぐさま手で防ぐ。そのせいでボロボロだ。だがもうその時点で敗北は決まっていたのだ。傀聖はとっぷりとした陰湿な笑みを浮かべながら言った。


『五百円』


左手はポケットに向かっていた。その後五百円硬貨が握りながら戻って来る。サラサーテも何が起こるかは先程の爆発で察した。だがもう遅い、傀聖は槍を刺したまま距離を取りつつ硬化を放り投げた。

大きな音と共に大きな爆発が起こった。隣の家にまで被害が行くほどの爆発だ。サラサーテは喉仏のあたりを完全に吹き飛ばされ、その場に横たわって死んだ。


「……良かった。とりあえず逃げなきゃ!!」


周囲では騒ぎになっている。急いで暗い場所へ逃げ込み、がむしゃらに走った。そしてある程度距離を取った所で正常な思考が帰って来た。


「……ヤバイ……笹原に何て言えば……」


直後遠くから悲鳴が聞こえて来た。


「俺の家がああああ!!!!!!!」


本当に申し訳なく、反省した。何とか合流したいと考えるが表には出れない。ひとまず笹原からのコンタクトを待とうと思い、適当な場所に腰かけて休憩し始めた。

そして約十五分後、声が聞こえる。笹原が「おーい」と大きな声で呼んでいるようだ。ただやはり表に出るのは危ない。なのでそこらへんに転がっていたコーヒー缶をコロコロと押し出した。


「……ん?」


どうやら気付いたようで冷静に、慎重に路地裏に入り込んで来た。そして名前を呼ばれる。


「ご……ごめん」


「いたいた! 大丈夫か? 何か爆発みたいなの起こってたし」


「僕はほぼ無傷だから大丈夫だけど……アパートが……」


「ノーコメントとさせてもらおう。とりあえず何か死んでたよな。あいつ何?」


出て行ってすぐに襲い掛かって来た事、創躁術と謎の爆発能力に関しても説明した後、戦闘の流れをおおまかに解説した。すると笹原は「何も分かんねぇや」と言って次の話に移った。


「とりあえずなんだけどよ、もう隠れる場所は無い。日が暮れる前に安全な場所を探そうぜ」


流石に恐怖だ。何故自分の家を破壊されてもここまで真摯に取り合ってくれるのだろうか。何か裏で取り引きでもしているのだろうかとも思った。

だが今は信じるしかない。


「とりあえず貰った情報、一つだけどな」


流石に止めた。こんな状況でする話ではないと。だが笹原は押し切って共有した。


「殺した奴のシルエットを見た奴が一人だけいた。あんまり特徴的では無かったらしいけど……黒よりの髪色で長髪だったって言ってた。一応男ってのも考慮しとこうぜ」


「ん? うん。分かった」


「そんじゃ次は……」


路地裏を出ようとしたその時だ。外で大きな音が聞こえて来た。サイレン音だ。ほぼトラウマになってしまったのか傀聖はガクガクと震えている。

それを見た笹原は落ち着かせる為か後ろから背中を擦ってくれた。そしてあのアパートの前に止まったのだろうか、音の発生源が移動をやめた。

と思うと救急車だけ発進した。だがあいつはもう助からないだろう。それよりマズいのは警察官が周囲を散策する可能性がある事だ。だが傀聖は動けないし笹原には能力なんて無い。


「どうすれば……そうだ! おい傀聖! 盾作り出してくれよ!」


震えながらも要望には答えた。しっかりと強固な盾を創り出す。その後もう一つ注文が来た。


「多分金がトリガーなんだろ? じゃあ五百円、爆破してくれ」


普通なら意味が分からないので止めるが正常な判断が出来る訳は無く、従った。もう一枚しか無かった五百円を取り出し、唱えながら放り投げた。


『五百円』


すると笹原は傀聖を抱えながら盾を構え、五百円に突っ込んでいく。その行動に正気を取り戻した傀聖は悲鳴をあげ爆発をなかった事にしようとしたがそんな効果はないようで、無残にも爆発した。

だがそれで良いのだ。二人は高く飛んだ。そして影となっていた少し小さめのビルの屋上に飛び乗った。一息つき何が起こったのか訊ねる。


「爆発の衝撃で吹っ飛んだだけだよ。だから盾が必要だったんだ。思い描いた武器が作れるのなら自分が使える爆発ぐらい防げる盾を作ってくれるだろうと考えてな。ま、賭けって事だよ!」


本当にこいつは一般人なのか、という視線を向ける。それでも救われた気がする。体も動くようになっている。だが下には大量の人と警察が群がっている。

急いで体勢を低くし動かないようにする。少々日差しが強いがやむを得ない。適当な会話をしながら突っ伏していた。本当にどうでも良い話をしている時だった。


「いやカレーは混ぜる派が少数でしょ」


「いやいやいやいや、混ぜた方が……」


笹原の声が途切れたように聞こえた。少し違和感を覚えたが特に何も思わず名前を呼ぶ。だが返事は無かった。ふと視線を横に向ける、あの時と違い声が出た。


「うわああ!!!」


すぐに下の者も上を向き、ざわざわと騒ぎになる。だが傀聖の耳には届いていなかった。何故なら視界の物を処理する事で精一杯だったからだ。

そう、真横には生気のない瞳を傀聖の方へと向けながら血を流し、動かなくなっている笹原の姿があったからだ。まさか、と思い死体の身体中をまさぐってみる。

やはりだ。穴が空いている、銃弾と思われる穴が。両親の時は恐怖でしか無かった。だが今回ばかしは少し違った、怒りが湧き上がる。


「なんで……こんな簡単に……人を殺せるんだよ……なんでこうも的確に……心臓を射貫くんだよ、なぁなんでだよ」


そう言いながらとある方向を向いた。それを突っ伏していた状態から見ると背後だ。そっちに向いた理由は一つ、弾丸がそちらから飛んできているのが分かったからだ。空いた穴をよく確認して分かった。

だがそちらを向いても誰もいないように見える。当たり前だ、真後ろは今いるよりも高いビルだけなのだから。すぐに見上げる。


「いた」


立っている。ビルの屋上ギリギリからサイレンサーらしきものを取り付けた銃を構えている黒髪長髪の人物が。だが長髪と言う事が相まって顔までは分からない。

何とか確認しようと思ったその時、弾丸が放たれた。すぐさま盾を創り出し、防御に成功した。そしてすぐにでも攻撃に移ろうと思い、先程笹原が行った爆発移動をする為に硬貨を取り出そうとする。


「よし、今……やって……」


既にその場から姿を消していた。更に怒りと憎悪の念が湧き立つ。本当に許せないのだ。訳が分からない、防がれたから逃げたのか。そう思いもしたがそんなはずがない。

サラサーテを殺したとはいえども能力に両者気付いておらず、たまたま不意打ちのような形になっただけなのだ。そのビルは周辺から見ても相当高い部類なので見えていたはずだ。ましてや狙撃や銃殺を狙っていたのなら。


「絶対に、殺してやる……何が何でも……ぶっ殺してやる!!!」


その声は街中に響く程の大音量であった。銃の人物にも聞こえていただろう。するとやまびこの様にして返事が届いた。


「やってみろよ!! 僕を殺して見ろよ!! やれるもんならな!!」


サラサーテと同じく楽しそうな声だった。その後一瞬だけ笑い声が聞こえたかと思うと途切れた。死んでは無いだろうが位置が掴めなくなる。

急いで硬貨を爆発させ、高いビルに飛び乗った。周囲を見渡すが誰もいない。既に逃走済みのようだ。後悔の念に苛まれる。あの時突っ伏したりせずにしっかり周囲を警戒して、自分が気づいて盾を出していれば、と。

だが起こってしまった事は仕方がない。笹原の事は非常に悔しいが復讐をするしかない、そう思わせる為には非常に有効な出来事であっただろう。そう、全ては掌の上だ。



更に追いかけようとも思ったのだが急に疲労が襲って来た。力を使い過ぎたのだろう。悔しい気持ちを胸に押し込みながらも適当な場所で眠る事にした。

目を覚ますとそこは公園の隅だった。そんな所で寝た覚えは無いのだが別に誰かがいるわけでもない。すぐに立ち上がり、眠い目を擦りながら行動を始めた。


「今日はあいつの場所を特定しなくちゃいけない。まぁ声的に男だったし、あの髪の長さなら結構特徴的だから……でも誰かに情報提供を求めるのも無理があるな。目一杯動けるのは今日までだろうしな、少しでも早く見つけ出さなくては」


ブツブツと呟きながら前も見ずに歩いていた。すると前から来る人にぶつかってしまった。顔を上げ、謝ろうとしたが体が固まる。唾を飲み込む動作さえもはばかられる。

見えているのは和服と動体。顔を見たいが動かないのだ。冷や汗も意図せず溢れ出して来る。震えも追加されるとそいつは優しい声で訊ねる。


「大丈夫かい?」


するとようやく体が動いた。あまりにも青い顔で見上げる。吐き気も催す、最悪の気分だ。そいつは眼鏡をかけて、黄色髪に少しだけ白い髪が混じっている感じだった。

だがそれ以上に圧が半端じゃない。男も能力者だ、直感で感じるが格が違う。今すぐにでも逃げ出したいが少しでもあいつの事を聞かなくてはならない。


「銃の……男を……知らないか」


男も察した。傀聖が能力者だと。すると一瞬にして態度が変わる。それは一般人が向ける卑下のそれではない。明確な殺意だ。恐れおののき後ずさる。

だが男は合わせるようにして距離を詰めて来る。まさか戦わなくてはいけないのかと思ったその時だった。両者の間に弾丸が放たれた。


「!?」


「やっと見つけたぞ、智鷹(チダカ)


男はターゲットをそう呼んだ。するとターゲットはすぐ側の高所から見下ろしながら返事する。


「え~たまには良いじゃん~僕だっていつもコンビニ店長でお金稼がなくちゃいけないから大変なんだよ~? もうやめるけど」


この短時間で何個か情報を手に入れることが出来た。

まずコンビニの店長をしているという事、それだけでも相当フィルターにかけることが出来る。

次に目の前にいる和服の男と仲が良いと言う事。

最後に名前だ。智鷹(チダカ)と言うらしい。

もうそんなに時間は必要としない。この出ている情報だけでも特定なんて簡単だ。だがそれより今やるべきことはある。


『五円』


猫だましとして爆発させた。智鷹は少しよろめいたがすぐに体勢を整えた。顔を上げたその瞬間、前の前には殺意を剥き出しにしながら剣で斬りかかって来ている傀聖の姿があった。

恐らく爆発の衝撃で飛んできたのだろうがそれ以上に空中とは体勢を変えるのが難しい。そして智鷹は能力かそれ以外なのかは分からないが銃を使うのは確定している。

そんな状態で突っ込んで来る。ねじが飛んでいる、頭が悪いと言う意味で。


「やっぱ面白いよ君は!!」


すると智鷹は手を向ける。それだけなら切り落とせば良いだけだ。だが手がショットガンに変化した。理解した、智鷹の能力は『体を銃にする』能力だ。

ただ分かった所でどうすれば良いだろうか。実際回避をする事は無理だ、両手は剣を振りかざしているので動かせない。もっと練度があれば良かったのだが生憎初心者だ。

結果傀聖は暴挙に出た。


『百円』


当然ポケットの中に突っ込んでいる財布から爆発した。だが爆風は当たっても爆発が当たる事は無い。そこそこ大きな爆発を傀聖がくらっただけで終わるか、智鷹がそう思った時だった。

背後から音がする。風切り音だ。まさか、と思い振り向きながらショットガンを撃つ。だが再び風切り音が聞こえた。


「まじか!? 普通避けられるかよ!! すげぇなぁおい!!」


もう満面の笑みで戦っている。何故笑っているのかは到底理解できる気はしないが今は殺す方に意識が向かっている。


「死ね」


剣を振ったその時だった。両者の腕が掴まれた。何事かと視線を移すとそこには先程の和服男が立っていた。そして二人にやめるよう注意すると共に二人を叩きつけた。

思っていた異常に凄まじい威力で体が動かなくなる。胸部の内側が痛い、恐らくろっ骨が数本折れた。一度階段から転げ落ちて足を折った事はあったがそれ以上に痛みが強く、声も出ない。

一方智鷹はヘラヘラとしながら銃化を解いた。そして傀聖を見下しながら挑発し、姿を消した。


「楽しみにしてるよ、探し出してね。それじゃ」


男二人はいなくなった。そこには痛みで瞳が揺れ、意識を保っているのがやっとな傀聖だけになった。下では再びざわざわと声がする。

それが妙に耳障りでイライラして来る。文句を言ってやろうとしたが言葉を出そうとすると折れた骨に響き、変な声になってしまう。このままそこにいるのは本当にヤバイ、絶対に見つかってしまう。

だが爆発をする気力も無い。何とか辿り着いた答えはまるでキチガイだった。


「左手ぐらい……使わなくても勝てる!!」


短剣を創り出した。その後服の一部を切り取り、口に挟んだ。その後思い切り踏ん張って左手の甲を突き刺した。力を入れているのと構えていたのである程度は軽減されているが思いもよらぬ痛みだった。

だがすぐに立ち上がり、涙と血を垂れ流しながらフラフラと逃げ出した。アドレナリンを無理矢理出したのだ。だが痛いものは痛い、二度とこんなのごめんだと感じながらビルとビルを行き渡る。


「でも……これでまた戦える……」


口に挟んでいた布で止血を行い、非常用階段を使って地上へ降りた。当然街を歩くと指を刺される。止血もままならず布では急襲しきれずに血を垂れ流しているのだ。

親切な人が話しかけてきたが「ほっといてくれ」と言って距離を取る。親切心は大変ありがたいのだが近くにいるといつ狙撃されるか分からない。

智鷹の能力は銃の機能を果たすことが出来ればどんなぶっ壊れ性能でも創り出せるのだろう。その証拠にサイレンサーが機能し過ぎていた。

なので撃たれても弾の貫かれた方向でしか判断できない、殺す事になる。関係ない人は出来るだけ巻き込みたくないのだ。


「とりあえず……コンビニを巡るか……」


しゃがれた声でそう呟くが既に足は動かなくなっていた。そこは既に人気は無かった。平日昼間の住宅街、通っても精々おばちゃんぐらいだ。

だが左手を見ると避けて行く。当然の反応なので何も感じないが喉が乾いて来る。どうにかして水分補給をしたいと考え力を振り絞って練り歩く。

十分程度歩いてようやく見つけた公園の水道水を飲み、血を洗い流した。その後布も軽く洗った後再び止血を試みた。激痛が走るが構ってられない。雄叫びの様な声を上げながら無理矢理止血を行った。


「よし……これで止まるはずだ。とりあえずコンビニ」


付近には三軒ある。全部すぐそこにあるので移動の心配はない。だが自宅の付近と言うのもあって顔を知られているので噂になっていた場合通報される可能性もある。

すると当然智鷹に辿り着く事なんて出来ない。そもそも今日は出勤していないかもしれない。そう言った事も考慮しなくてはいけない。

最大二軒、最低一軒だ。そこで智鷹の情報を引き出すしかない。思考を巡らせる。どうすれば一回で引き当てることが出来るか。

ビッグストップ、ファラリスマート、ハイソンの三つ。傀聖の行き付けはファラリスだ。基本どの時間にも行った事がある。だが黒の長髪男なんて一回も見た事が無かったので除外する事にした。

ビッグストップかハイソンのどちらかにいる。だがそれ以上は運ゲーだ。今すぐに行動し、今日中に決着を着けなくては警察に足を掴まれるかもしれない。


「もう行ってやるよ、ハイソン」


歩き出した。交差点を渡り、前にする。一度だけ深呼吸をして扉を開けた。すると一人の店員が見つめて来る。そして後ずさった。噂を知っていたのだろう。

いないのかもしれないと思い、外に出ようと振り返った。そこには警察が立っていた。そしてまるでゴミを見るような目で見下している。

気配も感じていなかったので驚きフリーズする。


「少しお話を聞いて良いかな」


笑っている様に見えたが心の底の邪悪が覗いている。ほんの一瞬でハイソンにはいないと感じ、逃げ出そうとするが思考が巡る。

智鷹は戦いを楽しんでいた。それならば見つけてほしいはずだ、妙に煽っていたのも考えると更にそう感じる。それならばやはり警察は配置しないだろう。ビッグストップにいる。


「五…」


五円を爆発させて驚いている合間に逃げ出そうとも考えた。だが再び思考が巡る。

智鷹は楽しんでいる。それなら試練を課してくる可能性だってある。今分かっているだけでも性格が悪い。もしや本当にいるかもしれない。

ポケットに手を突っ込みながら振り返った。するとレジには笑顔で手を振っている黒髪長髪の野郎が立っていた。達成感と終わらせる為の殺意、最後に最高の高揚感を練り込みながら言い放った。


「ぶっ殺してやる!! 智鷹!!!」


「あぁ良いよ、全力で相手してやろう。来い、松雷 傀聖!!!」


本気の殺し合いが幕を開けた。傀聖は死んでもいいと思っている。最初からフルスピードだ。まず剣を創り出し、斬りかかった。智鷹は高笑いをしながら右手をピストルに変化させた。

そして二発撃った。だが傀聖は剣で弾く、人間離れの反射神経だ。


「死の淵に立つ事によっての馬鹿力、どうして僕と戦う奴らは全員馬鹿なんだろうなぁ!!」


店内はパニックになっていた。客は逃げ出し、周囲でも大騒ぎになっている。だが二人は構わず戦い続ける。智鷹が連射するが全弾避けるか弾いてる。

ほんの数日前までただの高校生だったとは思えないセンスの良さだ。


『百円』


ポケットから百円を取り出し、放り投げた。そこそこの爆発が起きたかと思うと硝煙から二本の剣を携えた傀聖が飛び出して来た。すぐに左手をショットガンに変化させて両腕で連射する。

だが右手に握られている剣で全てなぎ倒す。流石に危ないので智鷹は煙に自ら飛び込み、身を隠した。


「無駄だ」


数秒耳を澄ますだけで位置を特定した。すぐに剣を一本ぶん投げた。智鷹の真横スレスレを通り抜けガラスを割った。その音に紛れて移動する。

だが小さな小さな煙の変化も察知して突撃して来た。普通に考えればヤバイ行動だ。ただ傀聖は普通ではない。既におかしくなっている。それ故思考の外からの攻撃を行って来る。

どんな自信があるのかは分からないがネジが数本外れているは明白である。


「じゃあこっちも!」


右手のピストルを機関銃に変化させた。煙のせいで何に変わったのかは分からない。一応もう一本剣を取り出しておく。そして構えた瞬間とんでもない量の弾丸が浴びせられる。

二本の剣をふんだんに使用しても庇いきれない量の弾丸が。その連射のおかげで煙は消え失せた。そして露わになった、やはり智鷹の腕は機関銃になっている。

急いで対策を考える。ひとまず視線と銃口を見て隙を見つけ、盾を創り出した。だがその盾も十秒持てば良い方ですぐに壊れてしまった。

あまり創り出し過ぎたらいつ限界が来るか分からない。左手はろくに使えない状況だ。幸い弾は避け切れたがいい加減大きな一撃をぶち込まなくてはいけない。


「とりあえず!」


レジ下に入り込んだ。だが智鷹はニヤニヤと笑いながら近付いて来る。


「そんな所行っても無駄だよ~」


左手をピストルにでも変えたのだろう、数弾横をすり抜けた。絶対に当てる気は無かったはずだ。だがその行為が苛立ちを促進させる。

そしてすぐそこまで来た。智鷹が上から覗こうとしたその時、棒に顎を突き上げられた。と思う間もなく傀聖は立ち上がり重いハンマーを持ち上げる。

そのままフルスイングを行った。思っている以上に威力が高かったようで周囲にあったものが全て吹き飛んだ。


「おっと、強いね」


これなら簡単に殺せるはずだ。だがそれで良いのかだろうか、見ているだけでも反吐が出るような人間を簡単に殺して良いのだろうか。

駄目だろう。

求めるのは最大限の苦痛、負けるならば最大限の屈辱を味合わせた後だ。少しでも後悔してもらなわくっちゃ気が済まない、そんな気分だ。


『五十』


そう言いかけた時だった。口が貫かれる。音も無く。


「残念、言わせ……」


爆発音によって遮られた。驚いた。詠唱が中断されても効果を発揮するようだ。当人も少し出来るとは思っていなかったようで動きが鈍くなっている。

その隙を突くようにして超静音サイレンサーの付いたピストルが五発放たれた。傀聖からすると硝煙の中から音も無く五発の弾丸が飛び出して来るのだ。

しかも右頬が貫かれている。言葉を口にする事も、ましてや息をする事にも痛みを伴う。そんな状態なのでまさか銃弾が五発も飛んで来るとは思ってもみなかった。


「あっ……」


半分諦めたような声を出しながらハンマーを振った。何とか四発は弾く事に成功した。だが一番重要な心臓部に向けて撃たれた弾は他の弾丸より遅くに撃たれたようで遅延があった。

ハンマーは重く咄嗟に動かす事は至難の技だ。しかも寸前のスイングによって左手の傷口が完全に開き、ろくに使えなくなった。回避する術はないようだ。

覚悟を決め、弾丸を体で受けた。明らかに駄目だと脳が信号を出して来る。だが挫けずにハンマーを投げ捨てた。そして再び剣を創り出す。

痛みが引かない左手をポケットに突っ込んで何円残っているか確認する。非常にマズイ展開になった、百円が一枚、五円が一枚だけだ。しかもこれ以上創造するのも限界が来そうで怖い。

ジワジワと追い詰められている事に今更気付いたのだ。息をも忘れながら精神を研ぎ澄ます。そして消えかけている煙から銃弾が放たれているのが分かった。


「そこだ」


計四発の銃弾。全て正面から飛んできている。四肢を狙っているのだろうと見え透ている位置だ。だが避ける気はみじんも無かった。両手両足に綺麗に弾丸がめり込み、貫通した。

智鷹は間髪入れず次の銃弾を放つ。だが違和感を覚えた。全く音がしないのだ、近付いて来ている音も弾丸が何かを貫いた音も、何も聞こえないのだ。

だが鼓膜が破れたわけでは無いのだろう。何か違和感があるわけでもないしほんのりと外野の声が聞こえて来る。ならば何故聞こえない。

理解、それと同時に驚愕した。


「僕が……恐れてるのか」


あまりの恐怖畏怖の感情によって五感が狂い出しているのだ。実際手は銃に変化しても一般人と変わらないのだが妙にゴツゴツしているように感じ取れる。視覚は全ての物体に虹色の影が重なっているように見える。

このようにおかしくなっている。原因は明白だ。


「人の死による絶望、重なる死による覚悟、絶対的強者との戦闘による高揚、そして!! 殺意による強者への完全昇華か。本当に最高だ、逸材過ぎる!!」


そう叫びながら銃を構えた。そこには無表情のように見えて顔の所々から溢れ出す明確な殺意、恐らくだが本人は自覚していない。強者の面持ち。

振りかざした剣は機関銃を切り落とした。智鷹にも初めての事であった。あまりにもずば抜けている、半端じゃない。もう舐めてなどいられない。余裕は無くなった。


「行くぞ!!」


再び機関銃を生やし、今度は両手を機関銃に変えた。予想の域を越えないが傀聖はそろそろ限界を迎え動けなくなる。そこまで粘っても良い。だが楽しくない、智鷹が求めているのは楽しい戦闘だ。

言葉と同時に弾を放つ。


「死ねぇ!!!」


耳をつんざくような音。それに合わせるようにしてなる金属音。傀聖は全ての弾を防いでいる。たった一本の剣で。だが連射は止まらない。その内折れるだろうと思っていた。

ただいつになっても折れる所か刃こぼれを起こす気配も無い。その間もどんどんと距離を詰めて来る。勝機が見えたその時だった。


「バリエーション、これだけだと思ってないかい」


その瞬間智鷹の口から非常にゴツい銃口、いや銃口と呼ぶに相応しいかも分からない物が生えて来た。傀聖は死を悟った。だが最大限防御できるよう構えを取ったその時放たれた。


「ロケラン、どっかーん」


超巨大な爆発が起こった。それと共にコンビニは吹っ飛び沢山の人を巻き込んだ爆風を発生させた。

智鷹はボロボロだ。ほぼ自爆の様な距離だったので威力は抑えめにはしておいた。それでも左眼破裂、左腕損傷、おまけに体全体に少し火傷もだ。だがまだ戦える、すぐに標的を補足する。

ガッカリだ。うな垂れ、がれきに衝突して動かなくなっている傀聖の姿があった。


「でもやっぱりこの程度だよね。まぁ楽しかったよ、お疲れ様」


トドメの一撃を撃ち込んだ。それでも動かなかった。完全に勝ちを確信し、背中を向けたその瞬間心臓が貫かれた。剣によって。


「まじか!!」


ニヤリと笑いながら振り返る。やはり立っていた、死体が立っているかのように不安定だが何とか立ち尽くしている。息も絶え絶えで顔をあげるのもままならない。四肢は残っているが折れているようで左手以外使い物にならない様子だ、かと言って左腕も折れているし手の甲の傷もある。

剣を投げるだけでも激痛だっただろう。ろくに戦えもしない、さっさと終わらせようと右腕のピストルを向けた。すると何かブツブツと言っているのが聞こえた。


「何を言ってるんだい」


そう訊ねると聞こえる程度の声で言い直してくれた。


「ありがとう。ここまで有利な展開にしてくれて」


顔を上げた。上手く行き過ぎたせいか笑っている。智鷹はすぐに銃を撃った。当然回避は出来ず再び左胸に穴が出来た。だが回避は出来ずとも、最強の反撃は出来る。

傀聖は槍を創り出した。そして手に取り、投擲のような構えを取りながら唱えた。


円百五(えんひゃくご)


逆さ詠唱。


「五百円はもうないんだろう!? あったら爆発を先に起こして距離を取ったはずだ!!」


そしてもう一発撃ち込む。やはり回避は行わず、槍を構えたままポケットから二つの硬貨を取り出した。智鷹は真意に気付く事となる。

まずおかしかったのだ槍の尾が異様に細い、そして先端は丸い型がある。何とか止めようとしたが既に遅かった。


「お前は弱い…」


先端に百円、尾に五円が取り付けられた。そう、何度も行っていた爆発の衝撃で飛ばすのだ、槍を最高速度で。その間に何発も撃たれているが全く怯まない。

逆さ詠唱の先にあるのは、勝利だった。


「…いや違うな」


爆発音と共に槍が速度を速め、智鷹に突っ込む。そして智鷹の心臓に刺さった後、百円が爆破する。その威力は偉大なるものであった、生身の人間、ましてや瀕死寸前の人間が耐えられるはずもない。

傀聖の勝利を告げる言葉


「僕が強者だ」

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