ぼっち火の守護者と出会う
「リリア、辛くはないか?」
この言葉が教会に来てからのクリスの口癖になっているようだった。
「兄さんは心配性だなぁ大丈夫だよ、部屋もあるし眠れるベッドもある、勉強も楽しいし自由時間だってあるもの!辛いことなんてないよ?」
クリスは座っているリリアの前に跪き手を取る。
「辛いこと、困ってること何でも良い、何かあれば私に言うんだ」
「うーん…強いて言うなら毎日お勤めの浄化をしてるけど、それの結果がどうなってるかイマイチわからないところが不安かな」
にへへと苦笑するリリア、クリスはかける言葉が見つからず申し訳無さそうな顔をした。
ある日、大司教エルディアスに大聖堂へと呼ばれたリリアとクリス、2人並んでエルディアスの前に立つ。
「お二人をお呼びしたのは、間もなく火の守護者がこちらに到着するということで来ていただきました」
リリアとクリスは一瞬2人で顔を合わせ、エルディアスを見る。
「火の守護者が…」
「元々ある国の騎士団長をしていたと聞いております…おや到着したようですよ」
リリアとクリスは2人で後ろを見ると、颯爽と歩いてくる人影が見えた。
太陽のような赤い髪にオレンジの瞳、髪型は短くさっぱりと整えられている。
体格はクリスより大きくがっしりしていて、胸と肩、腰に甲冑をつけ、腰に帯剣しているのが見えた。
「ようこそ火の守護者バルト・グラントリア長旅お疲れ様でした」
エルディアスはお辞儀をする、するとバルトは腰に手を当てリリアを睨んだ。
「ひえっ」
思わず小さく声をあげてビビるリリア、ササッとクリスの後ろに隠れる。
「お前が聖女とかいうやつか、子供じゃねぇか」
バルトは開口一番にそう言った、そして一歩前に出る。
「俺はお前みたいな子供のお守りなんてゴメンだ、ココに来るのも納得してんじゃねぇ。仕方なく来てやったんだ」
(わー初っ端から好感度マイナスじゃないこれ、無理無理)
リリアは心の中で愚痴る、ザ・不機嫌というオーラを全身からだすバルトに後ずさる。
「だ、だったら無理に来なくても良かったんじゃないでしょうか」
「あ?」
リリアからぽっと出た言葉にすかさず不機嫌そうに答えるバルト。
クリスはスッとリリアの前に立ち、守るようにバルトの視界からリリアを隠した。
「初対面で随分な言い方だ、どこぞの国の騎士団長というより、盗賊団の首領の間違いじゃないか」
「なんだと…?お前は誰だ」
「人に名を聞く前に自分から名乗ってほしいが…まぁいい、私は水の守護者クリス・ライドル、聖女リリアの兄だ」
「あにぃ?」
バルトは頭の先から足の先までクリスを見定めるように視線を動かす。
「守護者ってのはこんな弱そうな奴でも務まるんだなぁ?ますます俺じゃなくても良さそうだな」
「ほう…」
クリスとバルトの間にバチバチと火花が散った、ようにリリアは見えた。
「ちょ、兄さん!どうしたの!」
いつも冷静で淡々としている兄クリスの額がビキビキしていて慌てて止める。
「そこまでです」
そんな険悪な2人な間をパッツリ割るように入ったのはエルディアス。
「火の守護者バルト殿、後で言いたい事は聞きましょう、まずは部屋への案内をさせてください」
案内役が静かに現れる、バルトは不服そうに舌打ちをした。
「チッ、わかった後で話をさせてもらうからな」
そう言って案内役とともにバルトは大聖堂から出て行った。
「クリス殿、貴方も1度落ち着く時間が必要そうです、部屋に戻って下さい」
「…わかりました、リリアまた後で」
そう言いクリスもまた大聖堂を静かな足取りで去って行く
残されたリリアはため息をつく。
「子守…だなんてそんなつもり無いのに…」
リリアはバルトから言われた言葉が頭に響く、ぎゅっと手を握りしめた。
「リリア様、気になさらぬように、バルト殿も長い旅で疲れて気が立っているのでしょう」
「…そうでしょうか……あの…守護者って拒否できないんですか?」
「できません」
きっぱりとエルディアスは答える、いつもの笑みは無く、真面目な表情だ。
「各守護者と聖女である貴女とは相性があります、聖女である貴女が生きている限り守護者は変更がききません」
「私が生きている限り…」
「後は守護者本人が何らかの原因で死亡した場合には欠員という形になります」
「そう…ですか」
「あまり深く考えなくて良いのです、貴女は今のままで生きていてくれれば」
「…」
リリアはエルディアスに言われて自分も部屋に戻ることにした。
(それにしても子守とか傷つくなぁ…お勤め頑張らなくちゃ…聖女らしく!聖女らしく!よし!)
ある夜、火の守護者バルトは見回りついでに教会内を散策していた。
「しっかしこの教会広いな…教会っつーか城だな」
独り言を呟きながら静かに廊下を歩く、夜の静かな時間もあって足音が響く。
「ん?あいつは…」
バルトの視線の先にはリリアが歩いている、足取りはふらふらしていて危うい。
(あれか?、勤めとかっていうやつか?)
リリアの浄化の事、話には聞いていたが実際その現場を見たことがなく、どうやって何をやっているのかは知らなかった。
(はぁ…ちょっと…頑張りすぎたかも…)
リリアはふらふらと歩く、いつも以上に浄化に力を使ったことは自分でもわかっていた、体に力が入らない。
『子供のお守りなんてゴメンだ』
リリアの頭の中にはバルトに出会った時に言われた言葉が離れない。
あれから数日、毎日ふらふらになるまで浄化をしていた、ちょっとした意地でもあった。
「!」
ふらついたリリアは何もない床で躓き、転ぶ。
「あいつ…!」
リリアが転ぶ姿をみたバルトは思わずリリアに駆け寄った。
「おい、大丈夫か」
リリアは声をかけられ、横を見ると目の前にはバルトがおり、こちらを見ていた。
「大丈夫です大丈夫です…!声をかけてくれて…有難うございました」
(ヘロヘロなの見られちゃったよ!私のバカヤロウ!)
ぱっと身を引いて答えるリリア、ゆっくりと立ち上がり、バルトに深々とお辞儀をするとふらつきながらも足早にその場を去っていった。
「大丈夫なのかあいつ…」
その後姿をバルトは見送るしか無かった。
別の日、近頃のリリアは午後からの自由時間の大半を剣術の鍛錬に使っていた。
基本動作から始まり、最終的には兄であるクリスとの打ち合いをする。
「あれは…打ち合いしてるのか」
バルトはその日リリアとクリスの打ち合いを離れた所から眺めていた。
リリアの動き、剣技の出し方、立ち回りはクリスから習っているだけあって美しい。
ただリリアの剣技は習ったもので実践で培ったものではないお手本のような動作だった。
(あれを見るに相当鍛錬を積んでいる、でなければあんな風に自分のものにできない…か)
バルトは素直にリリアの努力を認めていた、数ヶ月でできる立ち回りではない。
何年も積み重ねてきたから出来る動き、騎士のバルトには理解できた。
とある日、リリア、クリス、バルトはエルディアスに呼ばれて集まっていた。
「リリア様には浄化のために東南にある街に行っていただきたいのです」
エルディアスは一枚の地図を広げて行き先の街を指で示す。
「この街にも世界の宝珠があります、この教会の物と同じものです」
「その街の宝珠を浄化しに行けば良いんですか?」
リリアはエルディアスの顔を見て聞く、エルディアスは頷いた。
「リリア様とクリス殿、バルト殿それと教会騎士団から二名ほど連れて行っていただきます」
その話を聞いてバルトは口を挟む。
「大事な大事な聖女様の護衛が四人だけで良いのか」
「あまり仰々しく行動することは避けたいのです、教会はどの国、街からも歓迎されているわけではありません」
申し訳無さそうに苦笑するエルディアス、色んな事情があるのだろう。
「今回、表向きは教会の視察と言う事になっています」
「視察…ねぇ…」
バルトは腕を組み不満そうに呟いた。
「こちらで全て準備をします、準備完了次第出立してもらいます」
リリア達三人は東南にあるビスタの街に行くことになった。