ぼっちだって体を動かしたい
リリアが教会で暮らし始めてから2ヶ月が過ぎた、最初は慣れなかった浄化の勤めも加減というものを知り自分で倒れないように力の使い方を学んだ。
「いいなあ…」
リリアは柱の陰に隠れながらじっと見つめる、その視線の先には教会所属の騎士団の鍛錬場があった
見習いから熟練まで様々な者が鍛錬しているのが見える。
「ここに来てから剣握ってない、散歩も飽きてきたし…ちょっとだけ混ぜてもらえないかなあ」
チラリチラリと鍛錬場を見る、今までにも通り過ぎた時に気にはなっていたが声をかけれずにいた。
「せっかく兄さんに教えてもらった剣術だもん、毎日は無理でもたまになら!!」
ザッと一歩前に足を踏み出し、一直線に監督役の騎士の元へ歩いていく。
「あの!」
声をかけられ振り向く騎士、リリアの姿に一瞬驚いたような素振りを見せた。
「これは聖女様、このような所に来られては危のうございます、何か御用でしょうか?」
ぱっと見顔を見たことがある騎士だった、ここに来る時に護衛としてついてきてくれていた騎士だ。
「お願いがあって来ました」
リリアはまっすぐに起立し騎士の目を見て話す。
「なんでしょう?」
小首をかしげ不思議そうにリリアに言う騎士。
「剣を貸してはもらえませんか、鍛錬したいんです!」
「駄目ですね」
にっこりと営業スマイルで返されるリリア、引き下がらずリリアはパチンっと手を合わせて頭を下げる。
「お願いします!ちょっと隅っこで素振りさせてもらえれば良いんです!」
騎士は頭に手を当ててうーんと唸る。
「そう言われましても…危険ですし何かあっても…、聖女様なぜ鍛錬をしたいのですか?」
聖女という立場からはあまり結びつかない剣術の稽古を希望するリリアに騎士は尋ねた。
「兄に子供の頃から剣術を教えてもらってたんです、教会にきてから剣に触れてなくて…気分転換にもなるし運動にもなるので…お願いします!」
騎士は顎に手を当てて悩む素振りを見せる、しばらくして、ポムっと手を叩くと。
「では刃を潰してある練習用の剣でいかがでしょう」
「良いんですか!?」
リリアの表情がぱっと明るくなる。
「怪我には十分注意してください、後こちらで大司教様に許可を取らせていただきますが良いですか?」
リリアは笑顔で頷き、深く頭を下げる。
「はい、もちろんです!有難うございます!」
こうしてリリアは鍛錬場の邪魔にならない場所で、1人で素振りができるようになった。
兄クリスに教えてもらったことを思い出し、兄の美しい剣技を思い出し、ひとつひとつの動作を大切にしながら体を動かす。
「やっ…ハッ…!」
剣での突きや、斬り、ステップを踏んでの斬り上げ、斬り下げ、軽く地面を蹴り走り込んでから斬りなど、確認するように練習をする。
30分ほど体を動かした時。
「な、なまってる…凄いなまってる…体が動かしづらいよ!?そんな引き籠もってたつもりないのに!」
剣を持ったまま息荒くひとり愚痴るリリア、明日の筋肉痛が怖くなって初日を終えた。
「…父さん母さん兄さん元気かな…」
空を見上げ、同じ空を下にいる家族を想いながらリリアは鍛錬場を後にしたのだった。