ぼっちは仮病を使う
「う~…」
ベッドの上で毛布をかぶり、唸っているのはリリア、昨日ラヴィリスから告白されてから定期的なため息と唸り声をあげていた。
「昨日あんな事があったのに、睡眠ばっちりとれる自分のメンタルに拍手したい…」
悩みすぎて寝不足になる…事もなく、気がついたら普通に爆睡し、朝になっていた。
「でも悩まないわけではなーーいっ!」
ガバッと毛布を頭からかぶって丸くなると、そのままベッドをゴロゴロと転がる。
コンコンコンと部屋のドアが鳴り、部屋に入ってきたのはアネットだった、朝食を運んできたのだ。
「リリア様具合はどうですか?朝食は部屋で召し上がるという事でお持ちしました」
部屋のテーブルに朝食の準備を始めるアネット。
「う、うん、大丈夫ちょっと、その…風邪っぽくて、皆に感染ると…ね!?」
単純にどんな顔して会えばいいか理解らなかったリリアは、具合が悪いと言い、食堂に行くのを回避した。
「準備できました、ゆっくり召し上がってくださいね、何かあればお呼び下さい」
そう言ってアネットは部屋からでていく、のろのろと椅子に座り朝食を前にするリリア、大きなため息を一つついてから朝食を食べ始めた。
朝食も終え、机に向かって魔術書を開くが当然頭に文章が入ってこなかった。
「そもそも私前世ぼっちだよ…?こっちで生まれて、学校で友達…はできなかったけど、普通に会話はできるようになって…ここでは皆と普通に話をして、でかけてってできるようになったのに」
ゴッというまぁまぁ痛そうな音を立てて机に頭を置くリリア。
「こ、告白って…す、好きって言われても…どうすればいい…のよぉ…」
考えないようにしていても、ふと思い出すラヴィリスの言葉、あの時の表情、そしてキスをされたこと。
「頭爆発しそう…ちょ、ちょっと考えるのやめ…やめよう…」
「バルト、少し話があるんだけど」
朝食後、バルトを呼び止めたのはラヴィリスだった、バルトは振り返りラヴィリスを見る。
「どうしましたか、ラヴィリス様」
「昨日、リリアに何か…言ったよね」
ラヴィリスの瞳は詰問するかのように、少しの鋭さを帯びていた、バルトは首を傾げ、首に手を当て考える素振りをする。
「あー…言いましたね、それがどうかしましたか」
「…僕は自分の気持をリリアに伝えた」
一瞬バルトの瞳が驚きで開かれたが、すぐに元に戻り。
「そうですか、思い切った事しましたね」
「返事はもらってない…ただ僕の気持ちを知って欲しかったのと、リリアに僕という男を意識して欲しかった」
「それで、俺になんでその話を?」
バルトはラヴィリスに言った。
「バルト、君も僕と同じ気持ちなんじゃないのか」
ラヴィリスは真っ直ぐにバルトを見つめ言う。
「どうでしょう、人の気持ちの意味、重さなんてものは測れないモンですよ、結局はその思いを受取る側の判断です」
「……」
無言でラヴィリスはバルトを見つめた。
「良いんじゃないですか、ラヴィリス様は素晴らしい王子です、俺みたいなその辺の兵士でもない、粗暴なわけでもない、…あいつも実際ラヴィリス様に好意を持っているのは確実でしょう」
ぽりぽりと頬を指先でかくバルト、ラヴィリスは一歩前に出て口を開く。
「君だって王族の血を引く者だろう、バルト・グラントリア」
「何代前の話ですか、代々仕えてた騎士と当時いた王族の娘とが結婚して取得した家名と血筋ですよ、今となっては何の意味もないです」
「じゃあ君はリリアの事、諦めてくれると?」
ラヴィリスがそう言うと一瞬の静寂が訪れる、バルトは髪の毛をかきあげてラヴィリスを見る。
「諦めはしませんよ、俺は俺であいつとこれからも仲良くさせてもらいます、その結果あいつがダレを選ぼうかは本人の自由ですから」
ニヤリと笑ったバルトはその場から立ち去っていく、それを見送るラヴィリス。
「…その言葉は宣戦布告と同じじゃないか…」
ラヴィリスはそう小声で呟き、バルトが去っていった後を暫く見つめているのであった。
昼過ぎ、リリアは昼食を食べた後、ソファに座ってクッションを抱え考え事をしていた。
「何日もこうやって避けれないよね…明日か…明後日か…それくらいで何時も通り過ごさないと怪しまれちゃうよ…」
そんなぼやきが口から漏れていると、部屋のドアが鳴った、一瞬ビクッとしたリリアは恐る恐る答える。
「は、はい、誰でしょうか!?」
「リリア、私だ具合が悪いと聞いたが大丈夫か?」
聞こえてきた声はクリスだった、ほっと胸をなでおろしたリリアはドアへ歩いていくと、そっとドアを開ける。
「兄さん…どうしたの?」
「どうしたって、心配だから様子を見に来たんだよ」
「そ、そう…とりあえず入って」
そう言ってリリアはクリスを部屋に招く、ソファに二人並んで座ると、クリスがリリアの額に手を当てる。
「熱は…無いみたいだな、体がだるいのか?頭痛か?診てもらったのか?」
クリスは純粋にリリアの体調が悪いと思っているようで、リリアに細かく調子を聞き始めた。
「大丈夫大丈夫ちょっと調子がよくないかな…?くらいだから、ごめんね心配かけて」
(でも兄さんの顔を見たらちょっと安心したな…)
リリアはそう思いながらクリスの顔をみる、きれいに整えた髪に心配そうにリリアを見つめる瞳と視線が重なる。
「何か…悩み事か?」
クリスがリリアの小さな異変に気づかないわけは無かった、いつもと少し違う雰囲気に思わず言葉が出たのだ。
「え…あ…そう…だね…悩み事もある…かな」
視線を逸らしてリリアは言うと、クリスはリリアの手をそっと握る。
「何か相談事があれば私に言えばいい、愚痴でもなんでも聞く…私はお前のためにあるのだから」
そう言うクリスにリリアは押し黙る、クリスに握られた手をそっと離す。
「…でも何時までもそうやって兄さんの手を借りてられないよ、私は私で考えなくちゃいけない事だってあるんだし…」
その言葉を聞いたクリスはぐらりと視界が揺れた気がした。
「今…なんて言った…?」
クリスは微かに震える声でリリアに問うた。
「え?だから何時までも兄さんの助けばっかり借りてられないって言ったんだけど…?」
「…そう…か」
クリスは俯き言葉を失っていた、リリアの肩にそっと手を置き。
「…何かあれば頼ってくれて良いんだ…とりあえず体調が悪いならちゃんと休むんだ…」
「うん、有難う兄さん!」
笑顔でいうリリアだったが、その笑顔をクリスは見えていなかった。
クリスはリリアの部屋を出て廊下を歩く、暫く廊下を歩いた後、壁に手をついた。
「…リリアは…私を必要としなくなる…?そんな…まさか…」
壁についた手をぎゅっと握りしめる、指先が白くなるほどに。
「リリアは私のものだ…私はリリアのものだ…それは変わらない、変えられない…」
クリスの瞳が仄暗い色を帯びる、クリスの頭には幼い頃から今のリリアの顔が浮かんでは消える。
「リリアは私の全てだ…誰にも…誰にも」
そう呟きながらクリスは歩き始めた。
リリア:銀髪、赤瞳、腰までのさらさらストレート
クリス:銀髪、緑瞳、後ろで髪を束ねて前に流している
バルト:赤髪、橙瞳、
ラヴィリス:クリーム色髪、茶瞳
----------------------------------------
いいね、ブクマ、評価、有難うございます!
----------------------------------------