ぼっちだってやるべきことがある
翌日アネットに案内されて教会敷地内の施設の説明を受けた、広すぎてそれだけで昼までかかってしまった。
「1度に覚えられないよ…」
「何時でも聞いて下さいね!」
笑顔のアネットと疲れた顔のリリアが2人並んで歩く。
一日の予定はこうだ、午前中は学ぶ時間とされ、本を読んだり学んだりする時間。
午後からは自由時間で、教会から出なければ何をしてもいいらしい。
そして夕方からはお勤めの時間と説明された。
二日目の夕方、大司教に呼ばれてリリアは教会の奥に出向く。
(何させられるんだろう…)
薄暗くなってきた教会はちょっと不気味だ、まだ来てから2日という日数のせいもあるだろうか、慣れていないのでどこへ行くにもおっかなびっくりだ。
「こんばんわ、リリア様」
「こんばんわ…」
エルディアスが立っている所だけ光が降りてきてるんじゃないかと思ってしまう雰囲気だ。
「緊張されていますか、大丈夫です聖女である貴女ならできることですから」
ゆっくりと促され案内される先に転移魔法陣があり、その中央に立つと一瞬のうちに移動ができた。
「ここは…?」
明かりが灯された場所に立っているリリア、眼の前には扉があった。
「ここは教会の一番高い塔のほぼ最上階です、こちらへ」
重厚な扉をゆっくりと開く。
「っ!?」
思わずリリアは自分の体をぎゅっと抱きしめる。
「気持ちが悪いですか?」
大司教エルディアスがリリアに問う。
「な、なんかぞわってして…」
「その感覚大変結構、少し我慢して奥へ」
2人並んで大きな部屋の奥へと進むと、一段上がったところに台座があり、その上に球体のものが置いてあった。
「これは…?」
リリアが聞くとエルディアスは答える。
「これは世界の宝珠と言われている物です」
「世界の宝珠…?」
確かに置いてある土台や部屋の作りからいって特別感はあった、続けてエルディアスは説明をする。
「この宝珠はこの教会やその周りに出来ている街、そしてその周辺の森や平地などの
魔粒子を吸収する物です」
「まりゅうし…?」
聞いたことの無い単語が出てきたので思わず呟いてしまう。
「人間の負の感情や、魔物などから漏れ出る負のエネルギーと言われる物、それを魔粒子と呼びます
魔粒子が溜まっていくと、新たに魔物が生まれたり、瘴気となり病気を発生させたり、人々の心が乱れやすくなります」
リリアはちらりと宝珠を見ると、色は濁っており黒に近い灰色をしている。
「魔粒子を吸い込んだ世界の宝珠を、浄化するのが聖女のお仕事という事です」
「ずっと吸い込んだ場合どうなるんですか…?」
ありきたりな質問だと思ったが気になったので問いかけてみた。
「宝珠が吸いきれなくなった場合、魔粒子はその場に留まります、蓄積すると人々の心が乱れ争いが起き、魔物が増え街を襲うようになります」
「そんな…」
教会に来る道中、何度か魔物に襲われた事があったが、教会や街が見えるようになってから魔物の襲来は無かったなと思い出す。
「今まではどうしてたんですか?私より前に聖女いたんですよね」
エルディアスは首を軽く横にふり口を開いた。
「いらっしゃいましたがそれはもう100年以上昔の話です」
「ひゃく…?!」
思ったより長い期間放置されていたようで驚きを隠せないリリア。
「宝珠は大きな街などに設置されていて、通常は重要な施設や場所などにあり、宝珠の浄化範囲が限られています、先代聖女様はご存命の間、各地をまわって浄化を続けていたという記録が残っています」
「じゃあ私も…?」
「それはその時になれば…と言っておきます」
(そんな過去話されても困るよぉ…これで浄化できないってなったら私どうすれば…)
リリアはがっくしうなだれる、やる前から心折れそうだ。
「ちなみに…私が浄化できなかったら…」
「リリア様が聖女なら問題なく浄化できますから大丈夫です」
笑顔で言うエルディアス、有無を言わせない圧があった。
「1度に浄化できる物ではありません、まずは少しずつ浄化という物に慣れていただきます、さあ宝珠の前で祈って下さい」
リリアは恐る恐る宝珠を見上げる形で座り、両手を組み祈る。
(よくわからないけど浄化浄化浄化!)
暫く祈っては見たが全く反応がない、リリアはほら見たことか!とエルディアスを見る。
「リリア様、今まで不思議な力を使ったことがありませんか」
「ふ、不思議な力…」
ふと思い出したのは小さい頃にラヴィータの小さな怪我を治した時。
いたいのいたいのとんでいけーなんて、子供じみたおまじないをしたら怪我が治ったのだ。
「む、昔…1度だけ…」
「その時の事を思い出してください、貴女はどういう気持ち、想いの時にその力が発揮されましたか
それを宝珠の前で思い出し、同じようにやってみてください」
リリアはもう一度座り祈る。
(まだピンとこないけど、きっと浄化されない時が続くと皆が困る…争いとか嫌だし
痛いのも怖いのも皆嫌に決まってる…嫌なもの…痛いもの…そんなのはどこかへいってくれればいい
あの時みたいに、悪いの駄目なの飛んでいけ…!)
ぎゅっと目を瞑ってリリアは祈る、すると宝珠がうっすら光りキラキラした粒子が天に登る。
「素晴らしい…」
エルディアスは呟く、リリアがそのまま祈りを続けていると。
(あれ…なんか気持ち悪くなってきた…)
なんとも言えない体の奥の気持ち悪さを感じたリリア、その時。
「そこまでです」
そうエルディアスに声をかけられリリアはハッと顔を上げた。
「あ、あれ…」
視界がぐらりと揺れ思わず両手を地面についた。
「浄化には貴女自身の力、生命力のようなものを使います、やりすぎは厳禁です」
エルディアスはそう説明する。
「じゃあ私でも浄化できてるって事ですか…?」
「えぇ、最初から言っているではありませんか、浄化できると」
「よ、よかったぁ…」
エルディアスはリリアの肩をぽんと軽く叩いて。
「お疲れ様でした、立てますか?立てないなら人を呼んで運ばせますが」
「た、た、たてます!大丈夫です!」
リリアはシャキッと素早く立ってみせたが、足取りがふらついてしまった。
「おっと」
エルディアスがリリアの腕をつかみ、ふらついたリリアは支えられ、ふわりと包み込まれた。
「屋敷前までお送りしましょう」
そう言ってリリアを支えながらエルディアスは歩く、リリアはなるべく迷惑をかけないようにぎこちなく歩いて、自分の部屋まで帰っていくのであった。
リリア:銀髪、赤瞳、腰までのさらさらストレート
エルディアス:金髪、碧眼、サラサラツヤツヤのロングヘア腰下まである
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