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Op.07 "Seventh Strike"

 四月第一週に生起した関東沖邀撃戦に於いて撃墜された、Tu-160の残骸を在日米軍が浚った結果、核弾頭装備のKh-55が発見された事は、日本国の政財官民を震撼させると共に、改めてロシアがならず者国家であることを国の内外に知らしめる結果となった。

 撃墜位置から帝都東京は十分に射程圏内だったにも拘らず、Kh-55が発射されなかった理由は不明だが、結果的に発射されなかったとは言え、世界唯一の核兵器実戦使用の惨禍を受けた国である日本国にとって、核攻撃未遂はトラウマを呼び起こさせるのに十分な出来事であり、従ってそれに対する報復を叫ぶ大規模デモが発生して永田町周辺を取り囲み、日本国政府は対応に苦慮する羽目になった。

 幸い、日本国政府が統合任務部隊(JTF)-ウクライナを編成し欧州派兵を正式決定すると、大規模デモはやや鎮静化したが、一度ブチ切れた日本人を宥めることは容易ではなく、これは後にロシアに対し、苛烈な降伏条件を突き付ける遠因になっている。

 そんな喧騒を尻目に、エンジンを酷使した上に超音速でフラットスピンに陥った「私」達のF-15Jは、双垂直尾翼の方向舵が一枚吹き飛んでいたり、主翼パイロンが脱落していたり、エンジンが二基とも交換になったりした為、厚木基地で応急処置が施された後、小牧基地に隣接するメーカー工場送りとなって、精密検査が行われる事態に発展していた。

 幸い、機体構造に重大な破損は認められず、「特別な」F-15Jは速やかに運用復帰することが出来たのだが、今までのフライトに於いて生じた戦闘機動を記録したレコーダーを再生したメーカー技術者達からは、


「これで空中分解せず、機体構造も破壊されて居ないのは一種の奇跡」


と、「私」達は言われた。少なくとも「私」は普通に飛ばしているだけなのに、解せぬ。


 そんな一幕を挟みつつも、新品のF-110-IHI-129ターボファンエンジンに換装し、試運転がてら百里基地までフェリー状態で帰還した「私」達は早々に、遣欧任務部隊の一員に選ばれたことを告げられた。

 まあ、今航空自衛隊で一番対地攻撃の経験が豊富で、いざとなれば自衛出来るだけの空対空戦闘の技量も持つ飛行隊と言えば、「特別な」F-15Jを装備している連中以外に居ない訳で。


「……と言う事で、我々は米軍の空中給油を受けつつ、一旦、アラスカ・エルメンドルフ空軍基地を目指す。

 エルメンドルフで補給・整備の後、米軍より供与される新装備を受領後、北極圏を縦断してイギリス・レイクンヒース空軍基地を最終目的地とする。

 以上、何か質問はあるか?」

「はい」

「何だ、シスター」

「二点あります。

 先ず一点、新装備とは何でありますか、飛行隊長殿?」

「我々に相応しいものだ、とだけ言っておく。見てのお楽しみだ」

「では二点目、丁度我々はアナディリを横目にする訳でありますが、先日の核攻撃未遂のツケは取り立てないのでありますか?」

「……お前みたいなカンの良いガキは嫌いだよ。まあ、そう言うことだ」

「納得いたしました、ありがとうございます」


 それは詰まり、恐らくはエルメンドルフで受領するのはAGM-158 JASSM。それも恐らくは射程延伸型のJASSM-ER。そして受領早々に使い切るつもりだ。成程、実に気分が良い話だ。と、「私」の機嫌は急上昇する。

 何しろ、エルメンドルフからアナディリまでは僅か一七〇〇キロに満たない。米国領空を北極圏へ抜けてから攻撃するにしても、余裕で攻撃圏内だ。ウクライナへ向かう行き掛けの駄賃には、丁度良い。


「ご機嫌だねえ、シスター」

「これが上機嫌にならずに居られるものかってのよ。態々敵地奥深くに分け入って爆撃なんて神経使わなくても良くなるのよ?」


 私がそう言うと、相棒は呆れた様に肩を竦めた。


「上手く事が運ぶと良いけどね……」




 そんな相棒のセリフがフラグになったのか、否か。

 想像通りエルメンドルフ空軍基地で一機につき一基のJASSM-ERを受領し、一旦北極圏へ出てからUターンしてチュクチ海をアナディリへ変針した所で、「私」達「特別な」F-15J部隊は、アナディリから上がった邀撃機(インターセプター)の出迎えを受けた。

 尤も、


「とっくにこっちの間合いだけど、ね!」


 アナディリ基地の座標をセットした、機体の首尾線上のハードポイントに抱えていたJASSM-ERをドロップ。重量変化で機体が浮き上がるのを抑え込み、対空捜索モードにセットしていたJ/APG-2レーダーを見遣る。

 Su-27、シベリアの広大な領域を守る為長大な航続距離を与えられた、ジュラーヴリクが八機。レーダーロック、フラットな長音。リリースボタンを押し込む。


「フォックス・スリー!」


 翼下パイロンに携えていた各一発の九九式空対空誘導弾が、ランチャーから飛び出す。同時に排気炎を吸い込まないようにしながらブレイク、一八〇度反転して遁走に入る。敵機撃墜はこの際、重要ではない。

 大事なのはアナディリを攻撃すること、そして残存する「特別な」F-15J部隊を全機、イギリス・レイクンヒース空軍基地、引いてはウクライナまで送り届ける事だ。




 果たしてその戦果を、私達はレイクンヒース空軍基地の食堂のテレビが流す、BBCのニュースで知ることになった。

 曰く、ロシア国防省によれば、アナディリの飛行場は軍事的帝国主義に毒された日本によって破壊されたが、我が国(ロシア)はこの謂れなき暴力的破壊行為に決して屈さず、断固たる態度で懲罰に臨む、とのことだったが、それこそ「私」達日本国の思うツボだった。

 日本国にヘイトが向けば向くほど、ウクライナへの圧力は中途半端になる。それは謂れなき暴力に晒されるウクライナへの側面支援となり、また近日に迫ったウクライナ戦線での攻撃の、良い欺瞞になるからである。

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