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Op.03 "Third Strike"

 玲和四年三月十日になると、Tu-22Mの損耗を恐れたからか、それとも反転攻勢から守勢への方針転換があったのか、ロシア軍機による北海道から日本海側へ至る地域への空襲は低調となった。

 また、ロシア軍潜水艦によるウルフパックも、在日米軍を通じた位置情報の通報を活用した対潜水艦戦により封殺され、オホーツク海深部に閉塞しているであろう戦略弾道ミサイル潜水艦以外、「公式には」太平洋に配備されているロシア軍潜水艦はゼロとなった。

 統合任務部隊司令部はこの機を逃さず、樺太・千島攻略作戦の決行を決定。

 千島列島(北方四島)へは、大規模噴火に見舞われたトンガ王国への国際救援活動後に行方を眩ませていた輸送艦と、空路進出させた第一空挺団による強襲を。

 樺太島へは、苫小牧港より出撃する「はくおう」を始めとする輸送艦艇からなる揚陸部隊に、横須賀を出撃した一個護衛隊群プラスアルファの護衛を付けての、上陸作戦を命じた。

 これに先立ち、十日深夜から十一日未明にかけて、百里基地を根城にする「特別な」F-15JやF-2による激しい空襲が、樺太・千島のロシア軍基地に対して敢行され、開戦初日の奇襲攻撃の反省から活発に活動していたロシア軍各種レーダーサイトの類を、虱潰しにしていった。

 この動きは、特に樺太攻略については戦意高揚のため敢えてオープンにされており、当然乍らOSINTによってその動きを察知したロシア軍も、「はくおう」の様なロールオン・ロールオフ船が接岸可能な港湾がある、樺太南岸の亜庭湾はコルサコフ(旧日本名:大泊)を上陸地点と見込み、機雷の敷設や市街地からの市民の退避、更には樺太の中心都市ユジノ・サハリンスク(旧日本名:豊原)目前での防御陣地構築を急いだ。

 が、上陸部隊がコルサコフ沖合に出現した十二日未明、コルサコフ市市長は無防備都市を宣言。同地守備隊は市長に従って白旗を掲げた為、上陸部隊であった「北鎮師団」第七師団主力は無血上陸を果たした。

 徴発され臨時に航空自衛隊旭川飛行場となった旭川空港に前進した「私」達シーグルズ小隊の任務は、コルサコフからユジノ・サハリンスクに続く一本道を打通し、ユジノ・サハリンスク市街南端に位置する同空港に陣取るロシア軍樺太守備隊主力を撃滅せんとする第七師団の上空を警護し、またロシア軍に対する空爆を適宜加えることだった。


「過重労働だわ……」

「国家公務員に労働基準法は適用されないんだよ?」

「米軍だって八時間以上の勤務はパフォーマンスを下げるって言ってるのに」


 旭川からコルサコフまでは、イーグルの巡航速度では一時間どころか三〇分も掛からない。出撃回数は既に本日三回目を数えている。増槽無し、〇四式空対空誘導弾が四発に、AGM-65が四発、五〇〇ポンド無誘導爆弾が六発。やや武装が心許無いのは、旭川に回された弾薬が在庫ゼロだったからだ。

 一応、この攻撃から帰還する頃には補給がやってくる手筈にはなっているが、果たして本当かどうか、内心疑問に思っている。

 何しろ、自衛隊は本来、字義通りに守備するのが本分であって、こんな風に能動的に外征して攻撃するのを前提とはしていない。昨今の情勢変化に伴い、大分改善されてきた所ではあるが、それは途上なのであって、完成している訳ではないのだ。

 じゃあ何故に態々、樺太を攻略することになったのかと言えば、それはユジノ・サハリンスクからのロシア軍根拠地の距離が関係している。

 ロシア軍次期主力戦闘機と言われるSu-57が開発・製造されている、コムソムリスク・ナ・アムーレは、ユジノ・サハリンスクから直線距離にして六〇〇キロに満たない。ハバロフスクまでも六〇〇キロ。初手の奇襲と潜水艦戦、機雷戦により封鎖したので今は無視しても構わないが、軍港や造船所があるソヴィエツカヤ・ガヴァニやワニノに至っては三〇〇キロ圏内だし、ニコラエフスク・ナ・アムーレにしても七〇〇キロ圏内。これは「特別な」F-15Jにとって、余裕の戦闘行動半径の中である。

 逆に言えば、ユジノ・サハリンスクは旭川からは三〇〇キロ余り、千歳にしても四五〇キロ余りだから、ここに敵航空基地があるのは軍事的に言って、()()()()()()。故に開戦した今、敵の前線基地になり得る飛行場は、占領出来るのなら占領してしまった方が良い。


(まあ、多分にロシアに対する意趣返しが含まれている気はするけど)


 七十七年前の対日侵攻の恨み、如何に晴らさでおくべきか。という日本国の指導者層の本音が透けて見えるが、「私」はそっと心の裡に仕舞っておくことにした。

 そうこうしている内に、イーグルは海岸線をサッと飛び越え、眼下の道沿いにユジノ・サハリンスク空港へ向けて北上する。既に上陸部隊はユジノ・サハリンスク空港に取り付いており、空港施設に立て篭もるロシア軍相手に、九〇式戦車が砲撃を加えていた。LANTIRN越しにその様子を見ていると、装弾筒付徹甲弾が命中し、管制塔が派手に倒壊する。


「あーあーあー、僕達が使う時に苦労するやつじゃん、アレ」

「こっちとしてはここが基地として使えなければいいんだから、オッケーじゃない?」


 と言うか、そもそも開戦初日に真っ先に滑走路を潰したんだから、今更な話ではある。やられる側にしたら堪ったものではないだろうが。

 と、


『上空のイーグル! 滑走路の北端に戦車を始めとする陣地がある! 支援攻撃を要請する!』


 地上部隊からの支援要請。掘り込んだ上に土嚢を積んだ塹壕から、砲塔だけ出してトーチカになっている戦車が十輌ほど居るのが見える。九〇式戦車の能力を以てすれば撃破出来なくもないだろうが、上空から攻撃した方が遥かに楽だ。


「ツーとフォーで殺れ、ワンとスリーは警戒待機、手段は任せる」

「ラジャ、行くわよ!」

「コピー!」


 スロットルを開き、緩降下に入る。J/APG-2は対地攻撃モード、後席の兵装選択は、五〇〇ポンド通常爆弾。トーチカ群に照準が合わさる。全弾投下、同時にチャフ・フレアをばら撒き、フォーも「私」に続く。計十二発の五〇〇ポンド爆弾の齎す結末を待たずに、イーグルは緩い回避機動に入ろうとして、


「ブレイク!」


 上空警戒していた隊長機からの警告に従い、急旋回。フォーと二手に分かれた「私」達の機体のバックミラーに、機影が映る。


「フリースタイル!?」


 製造数僅かに四機のみの試作機、ロシアはモニノ空軍博物館にしか現存しないはずの、超音速VTOL戦闘機、Yak-141。どこに隠れていたのか知らないけれど、どうやら員数外の機体が、樺太に配備されていたらしい。

 まあ、我が国も他人のことは言えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ミリタリーパワー・マックス、アフターバーナー・オン。心地良い衝撃と共に、イーグルは後ろに付いた二機のフリースタイルを引き離しに掛かる。


「ミサイル!」

「はいよっ、と!」


 アフターバーナーを切り、フットバーを蹴っ飛ばし、更にその方向にサイドスティックを捻り込む。グン、とGメーターが振り切れ、速度計が一瞬にして一〇〇キロ以上も上下する。

 瞬間、見えない巨大な手にデコピンされたかの様に、まだAGM-65を四発も抱えて重たいはずのイーグルは、フライトコンピュータの理解の埒外にある巨大な揚力、または妖力を受けて、放たれたR-73の爆発危害範囲から逃れる。

 カウンターを当てれば、目の前には無防備に背中を晒すフリースタイル達。

 言わずとも、後席の相棒バディは〇四式空対空誘導弾を選択してくれている。長音、ロックオン。リリース。


「フォックス・ツー!」


 左右の主翼パイロンから各一発。発射と同時にブレイク、結果は見ずに視線を周囲に巡らせば、フォーが上手く誘った別のフリースタイルを、隊長のイーグル達が危なげなく撃ち落とす所だった。他に敵影は無し。

 地上に目を巡らせれば、即席のトーチカとなっていた戦車達の居た場所には無数のクレーターが出来て炎上していて、半ばから倒壊した管制塔の上に、大きな白旗が上がる所だった。どうやら、あの戦車達とフリースタイルが、ロシア軍守備隊の切り札だったと見える。


 スロットルをアイドルに戻し、燃料の続く限り上空警護に戻るが、その後は戦闘が起きることもなく、第七師団はユジノ・サハリンスク空港を占領し、同市は市長が無防備都市を宣言して、無血開城となった。

 統合任務部隊は直ちに施設大隊を投入してユジノ・サハリンスク空港の滑走路の復旧に当たり、パトリオットや中SAMを配備して前線基地化。日本国は、コムソモリスク・ナ・アムーレやハバロフスクを空襲圏内に収めた。

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