幼なじみはギャルである。頭は良くない。
「決めた。アタシ、アイスクリーム屋さんになる」
「……は?」
「あ゛あ゛ん?」
幼なじみはギャルである。
頭は良くない。
でもここまで突拍子もないことを言う子だとは思わなかった。
「学校祭の出し物?」
「コレだよ、コレ!」
彼女がぐい、と突き出してきたのは進路希望調査の紙。
第一志望の欄に丸い文字で「アイスクリーム屋さん」と書いてある。
「小学生女児でももっとマシなことを書くと思うけど?」
「なによ。そういうヒカリはどうなのよ!」
私の手から奪い取られた進路希望調査の紙は名前以外未記入。
それを見て幼なじみのルリはため息をついた。
「……仕方ないでしょ。私立はダメだとか文系はダメだとか、家から通える範囲でとかいろいろ言われて――」
「ヒカリはそれでいいの?」
「う……」
ルリの言うことはもっともだと思う。
親の言いなりになって、選択肢を潰されて。
そんな私と比べればアイスクリーム屋さんになりたいという目標を持っているルリの方がよっぽどしっかりしているのかもしれない。
「そうだ!」
ポンと手を打つと、ルリは私の進路希望調査用紙の第一志望の欄にでかでかと「アイスクリーム屋さん」と書いた。
「ちょっと!」
「いいじゃん。ウチで働かせてあげるよ?」
ルリはにこりと笑っているけれど、どこまで本気で考えているんだろう。
「あのね、ルリ。お店をやるって大変なんだよ?」
「えー? ほら、アタシバイトでジェラートとかソフトクリームも作ってるからさ。巻くのは上手いよ!」
「そういうことじゃなくて……」
肝心のアイスクリームは誰が作るのかとか、お金関係の管理をどうするつもりなのかとか現実的な話をしていくほどにルリの顔は険しくなっていった。
「ヒカリのそういうとこ嫌い」
それだけ言って、ルリは他の友達のところへ行ってしまった。
あれから少ししたある日、アイスクリーム店の看板娘としてルリがテレビに出ているのを目にして驚いた。
ルリ、頭は良くないけど顔は抜群にいいからテレビ映えしている。
リポーター役は今大人気のイケメン俳優兼モデルのヒロトだ。
ルリが現役JKというのを印象付けるためか二人とも制服っぽい衣装を着ていて、二人が並ぶとドラマのワンシーンのようだ。
「ルリちゃん、目標とかあるの?」
「アタシの夢は~、自分のアイスクリーム屋さんを作ることですッ!」
ビシッとポーズを決めたルリが手に持っていたアイスクリームをヒロトがパクリとかじる。
「美味いっ!」
ニコっと笑顔を見せたヒロトに、画面外にいたらしいたくさんの女性の黄色い悲鳴が上がる。
ルリも顔を真っ赤に染めてヒロトに見とれていた。
番組を見ていた同級生たちが大盛り上がりしているのか、私のスマホは絶え間なく通知を受け取っている。
それを横目に眺めながら、私は決めかねていた進路希望調査の紙を提出する決心がついた。
第一志望はルリが書いた「アイスクリーム屋さん」そのままで。
第二志望のところにはちょっと離れたところにある大学の経済学部を書いた。
親はきっと反対すると思うけど、今日のルリを見ていたらそんなことを気にしていた自分がちっぽけに思えてきたから。
経済学部に行って、いろいろ資格も取って、そしてルリのアイスクリーム屋さんを手伝おう。
あの子はきっと難しい手続きなんてできないから。
幼なじみはギャルである。
頭は良くない。
しかし。人一倍の行動力を持った彼女なら夢を叶える日もそう遠くはないのかもしれない。