第六話 旅立ち
襲撃から一夜明け、村に平和の日常が戻った。そんな中、グリムは両親と共にテーブルに着いているが、家の中には只ならぬ空気感が漂っていた。そして、グリムが話を切り出した。
「お父さん、お母さん、僕は師匠の旅について行きたいんです。」
グリムの急なお願いに驚きを隠せない様子のサウロス。しかし一方で、ニーナは落ち着いている様子だった。
「ついて行くって、どうして急にそんなことを?」
たった一晩で自分の息子が今まで見たことのないような決意に満ちた表情で旅に出たいと言ってきた。サウロスの驚きは、親として当然の反応だった。
「昨日、お父さんやお母さんが襲われたときに、僕は何もできなかった。それがすごく悔しい!だから師匠について行って、強くなりたい。」
グリムの思いを聞いてサウロスはなだめつつ話した。
「何もできなかったのはお前だけじゃない。情けないが、グリムの師匠が来てくれたおかげで事なきを得た。騎士として不甲斐ない。でもお前はまだ子供だ、強くなることをそんな急がなくたっていいんじゃないか?」
ー強くなりたいーそんな我が子の男としての気持ちも理解しつつも、まだ小さい子供を旅に出したくない親心の混じった言葉だった。
「お父さんの言う通り、あなたはまだ小さい子供、でも...あなたがどれだけ、本気で強くなりたいと思っているか、旅に出たいと思っているのか、お母さんは知っているわ。だから、親としては行かせたくは無いけど、私はあなたの気持ちを尊重するわ。」
先ほどからやけに落ち着いている様子だったニーナの口から予想外の言葉を聞いた二人。驚きながらサウロスがニーナに聞いた。
「いつもの君なら、俺以上に反対すると思ったけど、どうして?」
サウロスの疑問はもっともだった。普段からグリムを小さい子供と、過保護なほどに守ってきたニーナがグリムの旅立ちに反対しなかったのだ。
「実は昨日、グリムと師匠さんが話してたのを聞いてたのよ。」
それを聞いてドキッとするグリム。
「二人の会話を聞いて、グリムがどれだけ本気で強くなりたいと思っているのかが分かったの。その時のグリムの顔を見たとき、この子の気持ちを尊重してあげようって思ったのよ。」
それは、行かせたくないと言う心を押し殺して、我が子が自ら決めた道を歩もうとする成長の、我が子の背中を押してあげようという母親としての苦渋の選択だった。
その気持ちを悟ったサウロスは、これ以上の反対は野暮だと思い、口を出さずにちゃんと見送ってあげようと決めた。
「それじゃあ、今日はグリムの旅立ちを記念してパァーッとお祝いしましょうか!!」
ニーナそう言うと早速夕飯の準備を始めた。それを見たサウロスは、少し出掛けてくる、と言い村の方へと向かった。自分の急な旅立ちを受け入れて祝ってくれる両親に心から感謝しようと思ったグリム、その目には少し光るものがあった。
「お母さん、これから師匠に一緒に行く事を伝えに行ってきます。」
そう言って家を飛び出して行った。
グリムと初めて会った河原にテントを張り、野営の準備をしているネイル。そこへ旅の同行を伝えにグリムが走って来た。
「師匠っ!!両親から旅の同行を許して貰いました!だから師匠の旅について行きます!」
グリムが力一杯声を出して嬉しそうに報告してくる姿を見て、ネイルも笑みをこぼした。
「そうか、そりゃあ良かった。これで心置きなく修行に専念できるな!」
「はいっ!!」
それからグリムは、ネイルへの報告を済ませると家へ戻った、そしてその日は家族3人でご馳走を囲み、グリムの旅立ちを盛大に祝わうのだった。
旅立ちの朝、グリムはマントを羽織り、荷物を背負い、腰に短剣を下げ、その姿は7歳の少年とは思えぬ程に逞しく見える。そんな我が子を見てサウロスとニーナは涙を浮かべつつ、誇らしく思っていた。そして見送りに言葉を掛ける。
「何があっても、前を向いて頑張りなさい、頑張ってなりたい自分になって来なさい。」
「俺達はいつもお前を想ってここにいる。強くなってこいっ!」
二人の言葉は、グリムの心にストンと落ちて、頑張る勇気をグリムに与えた。両親の言葉に、
「お父さん、お母さん、行ってきます!!」
グリムは力強く応えた。そしてその足で、ネイルとの旅路、世界へと歩み出した。