第五話 きっかけ1 後編
敵の攻撃を受ける間一髪のところでグリムは、ネイルに助けられた。一瞬のことでグリム自身、困惑していた。グリムの無事な姿を見てサウロスとニーナは安堵した。
「良かった...生きてた。」
ニーナが涙を流しながら我が子の無事を喜んでいた。
確実に仕留めたと思った魔導士の子供が、突如現れた老人に助けられ生きている。そんな状況に敵魔導士は、ネイルに対して、最大の警戒をしつつ、問いかけた。
「じいさん、魔導士か?どうやってその子供を助けた?」
その問いに対してネイルが答える。
「確かにわしは魔導士じゃよ。どうやってと言われてものぉ、普通にとしか答えられんな。」
その答えに、少し苛ついた男は、
「答える気は無しか、ならもういい...死ね。」
そう言い、ネイルに向けて炎の魔法を放った。すると、ネイルは自らの前に水の壁を作り出した。そして炎を防ぐと、グリムを抱えながら、サウロスとニーナの方へ飛んだ。
「グリム、お前さんはここにいるのじゃ、魔導士の戦いを見せてやろう。」
ネイルはそう言うと、敵の前に戻った。
「グリム!!無事でよかった!!」
ニーナがグリムを強く抱きしめる。そしてサウロスも二人を抱きしめた。するとサウロスがグリムに聞いた。
「グリム、あの人が前に言っていた師匠か?」
「そうだよ。ネイル師匠。」
グリムの師匠を初めて見て、サウロスが感じたのは、強者の気配だった。騎士として優秀なサウロスは相手の力量を多少なり把握できた。そんなネイルの戦いをグリムと共に見つめるのだった。
再び敵の前に戻り、ネイルは話しかける。
「今度はちゃんと相手をしてやろう。」
「じいさん強いな。さっきの魔法、かなりの実力だな。」
ネイルの実力を感じ、簡単な相手ではないと悟った敵は杖に魔力を集中させ始めた。
「いくら強いといっても、この魔法は防げまい!」
そう言うと、自分の前に大きな炎の鳥を作り出し、ネイルに向け飛ばした。するとネイルは、
「やれやれ、まだまだ修行不足じゃのぉ。」
そう言って両手を前へ出し、手を上下に構えた。すると、ネイルの魔力が龍の形に具現化し放たれた。ネイルから放たれたその龍は、敵の炎の鳥を飲み込み、そのまま敵の魔導士に向かい進む。男は自分の渾身の魔法を喰らい自分に飛んでくる龍を見てふとある事が頭をよぎった。そして、
「この力っ!?まさか、りゅう...おっ!?」
ネイルの放った龍は、敵の魔導士に食らいつき爆発した。ネイルと敵の実力差は圧倒的だった。その戦いを見てグリムは、ネイルの強さに驚きながら同時に自分の弱さを感じていた。
敵のリーダーである魔導士を倒し、村を襲っていた賊もサウロスと仲間の騎士たちのおかげで全員捕らえられた。村の襲撃事件は、ネイルの参戦により、多数の怪我人は出たものの死者は一人も出ず、解決した。
その夜、村人たちの無事と助けてくれたネイルや騎士たちへの感謝を込めてささやかな祭りが開かれた。村人たちが生還を喜び合っている中、ネイルは、グリムに元気が無いのに気づいていた。
中心の祭りから少し離れたところでネイルは、暗い表情のグリムに話しかけた。
「元気なのを装っているが、浮かない様子じゃのぉ。」
気付かれていたことに一瞬驚いた表情を見せるが、再び表情が曇り、ポソポソと話し始めた。
「今日は助けに来てくれてありがとうございました。僕では誰も助けられませんでした。」
いつも修行の時に見せる好奇心に満ちた顔とは全く違う表情だった。
「今まで僕は、魔法が楽しくて、いろんな魔法を覚えて、将来世界中を冒険したいって思ってました。魔法があれば何でもできるって思ってました。でも違った...」
グリムは心から言葉を吐き出しながら、涙を流していた。
「何でもなんてできません...。僕は...弱いっ!!僕の魔法が通用しなくて、自分の身もお父さんもお母さんも守れなかった。お父さんに魔法が向けれたとき、すごく怖かった。今の僕じゃ誰も守れないっ!!」
修行の時は、弱音なんて言わず、ただ純粋に魔法を楽しんでいた少年が、村の襲撃で魔法の怖さを知った。その姿を見て、
「強くなりたいかのぉ?グリム。」
ネイルが聞くと、グリムは涙を拭き、真剣な目で答える。
「はいっ!大事な家族を守れるように、強くなりたいです!!」
「ならば、わしの旅に同行するか?」
その提案にグリムは驚いた。
「旅に...ですか?」
「そうじゃ、強くなるために必要なことは経験を積むことじゃからな。わしと共に旅をして修行しながら経験を積むのが良いじゃろう。」
その言葉に、グリムは旅に出ることを決意する。そんな二人を家の陰から覗き、話を聞いている人影があった。