第四話 きっかけ1 前編
「ほれほれ、まだまだじゃよ。」
ネイルが意気揚々とグリムに言う。初めての修行から一週間程の時がたち、グリムにとって、ネイルとの修行が日常になりつつあった。
「組み手も最初よりできるようになったなぁ。」
修行として組み手と魔法の練習を繰り返す日々。そんな日々でのグリムの成長速度は目を見張るものがあった。
「才能があるとは思っていたんじゃが、一週間で中々できるようになっておる。そろそろ他の魔法も教えていこうかのぉ。」
「はぁはぁ、お願いします。」
グリムは息を切らしながら、新しい魔法という言葉に喜んだ。
「グリムよ、お前さんの成長はものすごく早い。じゃから、修行の後のことも早めに考えておくべきじゃと思うとる。」
ネイルはグリムが、思ったよりも早くに一人前になると考え、修行の後のことも早めに考えようとグリムに提案した。
「お前さん、将来は何をしたいんじゃ?」
ネイルの言葉にグリムは
「僕は、将来世界中を冒険したいです!!」
と即答した。
グリムの真っすぐな瞳に“若いってええのぅ”と思っていた。
「冒険か、それなら、仲間が居たほうが楽しいじゃろうな。」
ネイルがそう言うと、グリムは、
「仲間ですか?どうしたらいいんでしょう。」
ネイルに聞くと、
「わしにも分からん!!居たことないからのぅ。」
グリムはその言葉にがっくりした。そんな会話しながら、修行を続ける二人だった。
「ありがとうございました。」
辺りが暗くなり始めた頃、今日の修行が終わり、グリムは帰宅した。
グリムが帰宅すると、ニーナが食事の準備をしながらグリムに声を掛ける。
「そろそろ、夕飯にしましょう。」
「お父さんは?」
グリムが聞くと、
「今日は仕事で帰ってこないらしいわ。」
とニーナが教えると、“そうなんだ”とグリムは食卓につく。そのまま夕飯を二人で済ませた。
朝、ニーナとグリムが朝食をとっていると、なんだか外が騒がしい事に気付く。すると、村人が家のドアを荒々しく叩いた。
「大変だ!村が襲われてる!!」
慌ただしい村人の言葉にニーナが慌ててドアを開ける。するとその村人が
「早くっ!!あんたらも逃げたほうがいい!!」
ニーナが村人を横目に村の方へ視線をやると、近くの村の家から煙が上がっているのが見えた。
「グリムっ!逃げましょう!!」
ニーナは、グリムの手を取り家を飛び出した。村とは反対方向へ逃げようとしたとき、目の前に馬に乗った騎士風の男たちが道を塞いだ。
「おっと、逃がさねぇぞ。」
「ッ!?」
逃げ道を塞がれ、次の瞬間、敵の男が剣を振り上げ斬りかかった。すると、敵の男に向かって火魔法が飛んできた。
「なんだっ!?」
敵が驚いて向けた視線の先には、魔法を打ったグリムの姿があった。
「あのガキ!!魔導士か!?」
敵の男達とともに、ニーナも魔法を使ったグリムに驚いていた。
「グリム、あなた...」
ニーナがグリムに驚いていたら、後ろから村人と共に押し倒され拘束された。それを見たグリムは、魔法を打とうとするが、突進してきた男に蹴り飛ばされてしまう。
「脅かしやがって、魔導士といえど所詮はガキか。」
敵の男たちがニーナと村人を連れ去ろうとした時、馬に乗った騎士が助けに入った。
「賊めっ!!二人を放せっ!!」
グリムが立ち上がり見たのは、助けに来た父サウロスだった。村襲撃の知らせを受け、仲間の騎士と共に助けに来たのだ。
サウロスは、ニーナたちを押さえている敵二人をあっという間に切り伏せる。そして、ニーナたちの縄を切ろうとした時、サウロスに向かって岩が飛んできた。直撃して飛ばされたサウロスを見て驚くグリム。
「お父さん!!」
岩の飛んできた方向を見ると、そこには魔導士がいた。
「辺境の騎士にしては優秀だな。到着が早いうえ、実力もある。想定外だった。」
魔導士は、ゆっくりとサウロスに近づき杖を向けた。
「それに、一番の想定外は、魔導士が居たことだ。子供とはいえ、厄介だからな。」
そう言いながら、グリムの方へ視線を向けた。
「ただの賊に、魔導士が居るとは考えにくい。お前たちは、帝国の人間だな。」
サウロスが傷に苦しみながら立ち上がり、問いかけた。
「さぁな。どちらにせよ、関係ないな。」
魔導士は、そう言うと、魔法で岩を作り出した。
「やめろぉ!!」
グリムが叫び、魔導士に向かって、火魔法を放った。すると、魔導士の作った岩が消え、グリムの魔法を魔力の壁で防いだ。グリムは驚いた、岩の魔法はフェイクで、魔法を誘われたのだ。
「言ったろう?厄介だと。」
次の瞬間、魔導士はグリムに向かって魔法を放った。グリムの火魔法比べたら大きすぎる炎の玉だった。
『グリムッ!!』
サウロスとニーナが叫ぶ。そして、魔法が爆発した。二人は、目の前の出来事に言葉を失い、涙を流す。すると、
「やれやれ、中々姿を見せないと、心配になって来てみれば、ピンチじゃのぉ、グリムよ。」
「師匠!?」
爆発とは反対側に、小脇にグリムを抱えたネイルが立っていた。