4 裸で添い寝
再び目が覚めた時、一番に目に入ったものは透けるレースのカーテンだった。
私の部屋、こんなレースのカーテンつけてたっけ?
いや、よく見ると違う。
私はふかふかの大きなキングサイズのベッドに寝ていた。
レースはその天蓋から垂れている。
すごい豪華なベッドだ。
お嬢様の部屋よりゴージャス。
広ーい部屋に高そうなソファーやテーブルが置かれて、壁際の棚には綺麗な花の入った花瓶が置かれていた。
棚の上の壁には大きな飾り縁の鏡がかけられている。
その隣の大きな掃き出し窓からは綺麗な青空が見えていた。
ああ、もう朝なのね。
てか、よかった。
ライオンの姿はどこにもない。
あれは夢だったのか。
それにしてもここはどこだろう?
起きあがろうとして私はギョッとした。
(私、服着てない!)
かろうじて下着は付けていたが、上半身はなんてこったい裸じゃんか。
「んぎゃっ」
慌ててシーツを引っ張ろうとして、さらに目が飛び出るほどに驚いた。
ちょっと待て。
ベッドがデカすぎて気付かなかったけど、誰かが一緒に寝てる。
布団に埋もれて頭が見えていた。
この金色の髪はもしや……
昨日の出来事をじわじわと思い出す
生誕祭の祝宴会場から連れ去られて、馬車に乗せられたところまでは覚えている。
馬車の中でもフェザード侯爵に抱えられたまんまで、緊張しすぎて気持ち悪くなって、そしたら従者の人が薬をくれてそれを飲んだ。
うん、そこまでは思い出した。
でも、そこから先の記憶がない。
ダラダラ冷や汗を流していると、金髪の主が身じろぎしてこちらを向く。
(ああ、やっぱり……)
私の予想通りの美貌が気だるげに目を開けた。
「おはよう、姫」
そう言って彼は手を伸ばして腕を引っ張り、私の頭を裸の肩に抱き寄せる。
ひえええっ、甘いっ、甘すぎるわ!
恋愛経験ゼロの私にこれは刺激が強すぎる。
真っ赤になって固まった私に、侯爵は不思議そうに尋ねた。
「どうしてシーツを握りしめているんだ?」
そう言って額がつくくらいに顔を覗き込む。
(近い!)
私は、あわあわしながら目をぎゅっとつむった。
「こっ、侯爵様!」
「レオンと呼んで」
「レ、レオン様……本当に私、何が何だかわからなくて……」
「まだ私の事を思いださないのか?いつもこうやって一緒に寝ていたのに」
いえいえいえ、全く、全然、記憶にございません!
誰のことよ、間違ってるってば。
お願いだから離して欲しい。
首を横に振る私に、彼は切なげなため息を吐く。
「やっと見つけたのに。ずっと探していたんだ」
そう言って彼は猫のように私の耳をペロリと舐めた。
ううっ、心臓がばくばくするっ。
ダメだ、負けるな、流されるな私!
「私を伯爵家に帰して下さい。私はランファール伯爵家に雇われた者です」
「嫌だ、帰さない」
私の嘆願を侯爵はあっさりと拒否した。
目に留まった侍女を一夜の遊びの相手に選んだにしては、どうも彼の様子は初めからおかしい。
冗談にしては侯爵の態度は真剣すぎる。
本当に私はこの人と過去に何か関係があったのだろうか。
でもこんな美形、会ったら忘れるわけないじゃん。
「では、せめて私とどこでどのように会ったのか、教えてくださいませんか」
「……やっぱり忘れているんだね」
彼はほんの少し悲しそうに笑った。
「思い出すまで教えない」
早く思い出してくれ、そう耳元に囁いて彼はベッドから起き上がり、ガウンを羽織る。
朝食の準備をさせて来る、そう言って侯爵は部屋を出て行った。
私は彼の姿が消えた扉を呆然と眺めて呟く。
「いやマジで初対面だって……」
訳わかんない。
こっちは会った事ないのに、あっちは私を知っているという。
しかもかなーり親しいみたい。
ソファーに置かれていたガウンを羽織って、私は窓の方へ近付いた。
王都の侯爵邸は敷地も広く、塀も見えない。
こりゃ逃げ出すのも苦労しそう。
ふと壁に掛けられた鏡を見る。
鏡の中の私の首筋に、赤い鬱血痕がついていた。
(これはいわゆるキスマークというものでは)
うーん……これは、やっちまったのだろうか。
しかし、どこも痛くないし別に身体に変わった事はない。
前世でも経験がないものでどうにもわからないけど、何もされてない気はする。
でも、裸ってなんだ?
こちらを見る私の顔は心底困った表情をしていた。