第1話:神々のセカイ
フィアは昂る気持ちを抑えることが出来なかった。名誉ある大役を与えられたのだ。
老齢の最高神達の前で真剣な表情を保ちながら、彼女は右の拳を握り締めた。
ここは神々の世界。最高神達が一堂に会する議会である。若い女神であるフィアが唐突に呼び出され、「新世界の創造を君に任せたい」と告げられたのが今しがたのことだった。
最高神の一人がフィアに問いかける。
「責任ある役目ですが引き受けてもらえますか、フィア」
「勿論です。やらせて頂きます」
普段の物静かな彼女を知る者からしたら信じられぬほど溌剌とした声だった。というのも、世界の創造は彼女の長年の夢だったからだ。今まで多くの書物を読み漁ってきたのはこの日のためと言っても過言ではない。
別の最高神が言う。
「世界の創造にはいくつもの規則がある。それは知っているかな」
「はい。全て把握しております」
「よろしい。知識の泉との噂は本当だったようだ」
「そんな……滅相もありません」
フィアは顔を赤くして否定する。不釣り合いなあだ名で持ち上がられるのは気恥ずかしかった。書庫の守り人という呼び名の方が地味な自分にはよっぽど合っている。
また別の女神がフィアに話しかける。
「これも知っていることかもしれませんが、世界を創造するにあたって、現存する世界の住人を召喚して力を借りるのが決まりになっています」
「彼らの柔軟な思考を取り入れるために、ですね」
「まさしく。あなたにはまずその人選から始めてもらうことになるでしょう。フィア、これを」
最高神の女神が手を開くと、何も無かったはずの空間から光と共に透き通った球が現れた。彼女が手を一振りすると、それがふわりと浮かんでフィアの元までやってくる。
フィアが慌てて両手で受け止めると、それは見た目の割にとても軽かった。水晶などの透明な鉱石より軽く、手触りに温かみを感じる。
「それが、あなたに託す世界です」
と最高神の女神が言う。
この手の平に収まっているのが、世界。今ある世界は全て、透明な球体の形で保存、管理されている──そんな記述を読んだことをフィアは思い出した。
「必要となる道具は全てその中にありますが、それ以外はまだ何一つ存在していません。あなたが創るのです。神の遣いとなる者達と共に」
私がこの手で、0から世界を創る。ようやく、ようやく夢が叶う。
フィアの胸は歓喜に溢れ、内側から無尽蔵にエネルギーが湧いてくるようだった。
「フィア、どうか良い世界を創り上げてくださいね」
「はい……!」
絶対に素晴らしい世界を創ってみせる。フィアは固く心に誓った。