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決別

 海賊を討伐した次の日の事だ。


 広大な青空の下に大平原が広がり、その大平原の上に、虫がポツンと有るのかと思う位小さな人影が立っていた。

 大平原の中ではギルル族の時期里長『だった』黄桜も、そこら辺の木より存在感の薄いチッポケな存在に過ぎない。


 彼は里を追放されていた。


 実は精霊の加護の能力と言うのは、実は前例があるのが当たり前で、ギルル族はそれを長い歴史の中で記してきた。

 だからグングニルのように名前も使用法も解る。


 その中には持っているだけで追放されるように定められているような危険なものまで混ざっている。


【煉獄桜花】


 それが黄桜の精霊の加護の名前で、能力は記憶破壊。そして追放の原因である。

 黒い炎で相手に火傷させると、相手の記憶を燃やす(火の粉でも可)大変優秀な能力だ。


 が、それは周りも巻き込んでしまうと言う事でもあった。

 確かに火力が僅かなら申し分無い。

 しかし里長たるものが、僅かな火力でやっていけるものか。


 何より黄桜の自力は神に愛され過ぎた。

 その潜在能力の高さから、もし全力を出して戦うなら一国全ての記憶を破壊してしまう程に成長してしまうかも知れない。


 戦いが生業の職業だ、人生に全力を出さない事なんて無い。

 あのまま里に残っていれば、何時か黄桜は全てを破壊するだろう。

 故に黄桜は海賊討伐を境にギルルの里に戻る事は無かった。


 さて、これからどうしようか。

 ふと上を見上げれば鳥が空を飛んでいた。

 ついこないだの様に、それを自由だとも羨ましいとも思わないが。


 ◆


「マントをなびかせる俺も中々イケメンじゃねーか。ガッハッハ」


 港町で仕入れた旅のマントをなびかせて、誰に聞かせるわけでもない高笑いを上げて歩いていた最中の事だ。

 かなり遠くだが、歩む先に誰かが居た。


 気が付かなかったのは遠かったからなのか。

 はたまた虚無の念に駆られて上しか見れなかったからなのか。

 もう少し近付くと、それが見慣れた姿だと解る。


 赤みがかった黒髪に赤い神官服。

 焔だ。


 彼女は腕を組み、肩幅程に足を広げて実に威風堂々としている。

 その表情たるや、何かに耐えるかのように苦しそうで険しいものだった。


「ん、焔じゃねえか。おはようさん」

「……バカ。そんな事言ってる場合じゃないじゃん、黄桜様」


 黄桜の作り笑いを見ておられず、益々焔は顔に影を落とす。

 それを見たら黄桜は苦いを浮かべるしかなかった。


「もう様は付けなくても良いんだぜ?今の俺は次期里長どころか、どっかでのたれ死ぬのがお似合いの只の旅烏さ」

「いや、黄桜様は海賊との戦いで敵のボスを道連れに勇敢に散ったと伝えられているんだ。つまり、黄桜様の扱いは追放者ではなく死人。

だから、黄桜様は何時までも黄桜様だよ」


 そうか、と、サッと利休に純粋に感謝の微笑みを浮かべる。

 それを見たら、焔が口を楕円に、目を丸く開けた。感情に流された顔だ。


「ねえ、悔しく無いの?

人生を費やして尽くしてきた物に裏切られたんだよ、少しは怒ろうよ!」


 しかし黄桜は相変わらず微笑んでいて、寧ろ目を弓にして微笑みを深くしている。


「お前は、誰かに言われてこの死人に会いに来たのか?」

「独断だよ。黄桜様が海賊なんかにやられる筈無い。だから利休様に粘着して聞き出た」

「……そうか、そんなにお前は俺の事を想ってくれていたんだな。嬉しいな、有り難う」


 その壮大な器の人格は、まるで里長の様である。


 そして暫く無言。

 しかし張り詰めた物では無くて寧ろ心地好い空気が続き、それを崩したのは焔だった。


 彼女は黄桜に歩み寄り、優しく抱いた。


 え。と、黄桜は目を見開く。

 良い臭いの髪の毛、温かい掌、華奢で柔らかい腕を身体全体で感じる。

 黄桜は思わず抱き寄せてしまった。

 そこに感じるのは花の様に細い腰があり、しかし身体の体温から生を感じる。


「……黄桜様、ちょっとこっち見て」


 再び、え。と、無意識に焔を見る。

 するとそこには、長い睫毛の整った顔があり目を奪われた。


 その隙に来たのは、唇への柔らかい感触だ。

 口内に入る熱い気体と、続くヌメリから唇と唇をくっ付けているのだと気付く。

 永遠とも感じる約3秒後に、焔は唇をヌラリ離して抱き締める腕を解く。


 黄桜も恐るおそる同様にした。

 頬を赤く染め上げる焔は、何時もと裏腹に艶やかな声を出す。


「そ、その……、望むならこれ以上も……」


 肩を萎めて、指をモジモジ絡めるその様はまるで小動物の様で、全てを奪いたいと官能的な気分になる。

 しかし黄桜は、下腹に痛みを感じるのに何故だかそれを抑えた。


「スマンな、もう俺は行かなきゃいけないんだ」


 そして焔の隣を、サラリ歩いて横切った。

 焔は敢えて向きを変えず、故に黄桜は背中と言う近所に居るのに見えるのは何も無い大平原だ。


「もう二度と言わないんだからね、このバカ!バカ!オタンコナス!」


 彼女はそう、地面に向かって叫ぶと地面に向かって涙を落とした。


「……元気でね」


 聞こえない様に小さな声で最後の一声を落とすと同時に両膝も地面に落とす。それでも黄桜は振り向かない。

 黄桜、焔。それぞれ十五歳と十四歳の時だった。


読んで頂きありがとう御座います。

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