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英雄狩り

 ワイワイガヤガヤと雑音賑わす荒れくれ者に混ざって、小汚ない初老の男がテーブルに座っていた。向かいには使い古された黒いマントの黄桜が座っている。

 目に最早生気は感じられない。されど生物学的に生きてはいる。


 チョーさんに負けたあの日から、何故か傭兵を出来なくなった。左手も怖くて使えないままだ。


 初老の男は情報屋だ。だから情報を提供する。情報の内容は高価な荷物が運ばれる道のりについてだ。


 黄桜21歳、山賊をしている。

 しかし黄桜は山賊として異質だ。

 荷物に興味は無くて、寧ろその護衛に興味があるのだ。


 高価な荷物には強力な護衛が付く。

 その護衛を左手を使わず、殺さずに倒す事を奪うよりも目的にしていた。


 殺す事も出来ない、本気になる事も叶わない、欲望に身を任せる事も出来ない。

 自分をそう思っていて、そんな人間の成れの果てがこの姿だ。

 あらゆる事の自分に対しての問いに答えない人間の成れの果てだ。

 殺そうと思えば自分に命を奪う権利があるのかと問いがある。

 本気になろうと思えば、この力はそんな事の為に存在するのかと言う問いがある。

 欲望に身を任せようと、荷物に同行していた女を陵辱してやった、しかしここぞと言う時に焔の、そして七海の笑顔が横切って冷めてしまう。

 何の為に生きているのか、俺が何をしたと言うのか。

 問えども答える者はおらず、只、情報屋の耳障りな声が頭に入ってくるだけだった。


 舗装もされていない土の道があった、両脇には森があり、舗装しようにも木材の権利が入り組んでいる為に中々うまくいかない。

 だからこうして山賊に襲われるのに最適な環境が出来上がった。


 本日、荷物の護衛をしていた人間は某国で英雄と呼ばれていた人間だ。

 文章が過去形なのは、それが既に倒されてしまって立つ事もままならない状態だから。


「アーデルハイト・ベーレンドルフ……僅か15で頭角を出し、18で英雄。現在21か……」


 意識があり、気丈な光を宿した瞳で睨み付けるアーデルハイトを、死んだ魚の様な目で上から眺める黄桜は、情報屋から得た情報を言ってみた。


「くそっ、貴様が『英雄狩り』の黄桜か!」

「ああそうさ。運が無かったな、英雄狩りをする前に会っていたら勝てたかも知れないな。経験が薄かったから」


 『英雄狩り』とは、黄桜の異名であり、彼の起こす独特な行動だ。強者とは英雄である事が多い、故に付いた異名である。

 最も、黄桜の様に力があっても英雄になれない人間は沢山居るが。


「何故だ、何故そこまでの力を、たかが山賊に使う。神はそうは望んでいない筈だ」

「……山賊意外に使ってみたら、こうなった。どうも神様ってのは俺が嫌いらしくてな」


 フゥと息を吐いて、貨物馬車に近付く。

 その時、やや高めの更に高ぶった大声がした。


「うわああああぁ!」


 それはアーデルハイトが黄桜に向かい渾身の力で起き上がり、短刀で突進する為に気合を入れる為の大声。

 何かの記念品だろうか、飾り気のある短刀は、黄桜の直ぐ近くに迫っている。


 黄桜に迫る短刀は、まるで予知されていたかの様に軽く避けられて、短刀を持つ手首を掴まれた。

 呆然唖然と目を丸くするアーデルハイトに、黄桜は答える。


「動けない時、なるべく力を使わず素早く起きれる様に重心を後ろにズらしていたろ。

こんな事やってるから俺自身似た状況になるのが多くてな」


 淡々と説明される頃には、短刀が落ちて乾いて澄んだ音が地面に伝わった。しかし、アーデルハイトの目には絶望の色は見えない。奥の手がある訳では無いのにだ。


「何故、諦めない。最早お前には何も無いのだぞ。もしかしたら犯されちゃうかも知れんねーぞ?」


 余談だが、アーデルハイトとは女性名である。

 勿論男性のパターンもあるので、どちらにも使える名前だが。


「では、絶望したら強くなるのか。諦めたら進展するのか。

私は僅かな希望に懸けようと思うのだ。それに、お前は私を犯せない」


 絶望どころか、挑発的に笑いかけるアーデルハイトは言い合うだけ意味が無いと判断した無表情の黄桜に言葉を続けた。


「私は知っているぞ。お前、粗チンで不能らしいな」

「……は!?一体誰がそんな事を」

「おやおやぁ、冷酷無比の英雄狩りが耳まで赤くするとはなぁ。

お前、陵辱しようと服を破いて自分も脱いだまでは良いが勃たなかった上に粗チンだったと被害者の女達は言っていたぞぉ」


 目を弓にしてウケケと憎たらしく笑うアーデルハイトは、年相応の愉快さがあり、顔を赤くして目を丸くする黄桜は年相応の純粋さがあった。


 手首を掴んだまま顔を赤くしている黄桜にニヤニヤとしているアーデルハイトは、最早敵を見る目をしていなかった。

 だから彼女は英雄足りうる存在なのかも知れない。

 倒すのでは無くて、勝つ事が出来るのだから。


 彼女は雰囲気をゴロリ変え、出来る限り優しい表情と声で言う。

 きっと自分がそうされたら嬉しいだろうから。

「もう、『英雄狩り』なんて止めないか?私の方からも言ってみる、上手くいけば城の兵士に出来るかも知れない」

「今更、引き返せと」

「引き返すんじゃない、はじめるんだ。終わりは、はじまりなのだから。

君はそんな事を本当は望んでいない」


 今まででも何べんも同じ感情に見舞われたが、今回は特別それだ。

 コイツはもしかしたら、お人好しなのかも知れないと言った感情が高ぶり、怒りを通り越して呆れが湧き出る。

「ふん、お前に俺の何が解るんだ。所詮は正義気取りの偽善者ではないか」


 するとアーデルハイトはニカリと笑い、黄桜は難解さに頭を抱えたかったが体制的にそれは出来ず、只薄気味悪さが背筋を走る。


「そうかも、知れない。だが、自らの正義を肯定出来ないより遥かにましだ。

己も信じられない人間が正義を語るべきでは無いだろう」


 薄気味悪さは、そのまま氷柱になり、心臓をグサリともチクリとも、或いはその両方が一気に貫く。


「……」


 アーデルハイトは、目を見開いている黄桜の顔を見て正しさを肯定すると、沈黙と言う回答に答えた。


「君は、まだそうして誤りに傷付く事が出来る。

まだ、笑う事が出来る。

人の立場を考えて話す優しさがある。

やり直せない訳無いではないか」


 それは何故だが必死で、背景を感じられずに得なく、もしかして15で英雄になるにも大層な理由があるのかも知れない。


 しかし黄桜も理由があるのは同じだった。

 目の前の少女と同じく、此処に在るには大層な理由があった。

 結局は同じ年齢の同じ人間で、環境が違うだけなのだ。

 だから黄桜には黄桜の大層な理由がまた脳裏を横切る、そこには七海の笑顔があった。アーデルハイトのダイヤモンドの様に固い意志の目と重なっている。


「私も許してもらう様に必死に懇願する!絶対だ」


────貴方は次期里長で無ければ十分過ぎる戦力になる。


 何処からもなく声が聞こえる、そして黄桜の深層心理は従えと言う。


「それまで護ってみせる、人を護れない英雄に価値など無い」


────じゃあ、私も貴方の旅に付いて行きます


 重なる、重なるから自然と手が動く。左手が動く。


「『ごめんな』」


 誰に言った言葉だろう。

 彼が何をしたと言うのだろう。


読んで頂きありがとう御座います。

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