拒否権のない生徒会執行部
入学式後、俺は生徒会室前にいた。
すると2人の女の子が声をかけてきた。
「日野君だよね?私は沢城咲。よろしく」
長い黒髪をたなびかせ、大和撫子というのだろうか、綺麗な整った子だった。
「小松怜。よろしく」
沢城さんの後ろから、小柄な銀髪のボブカットの女の子がひょっこりと顔を出しながら言った。
「2人ともよろしく。俺は日野悠。悠でいいよ」
ふたりともきょとんとした顔をしていた。
初対面の女の子に下の名前で呼んでいいよ、なんて言ったら軽薄なやつだと思われてしまうかもしれないと頭を抱えていると、
「じゃあ私は咲って呼んで」
「怜は怜で」
と二人とも言ってくれた。
内心ほっとした。
「なんで俺たち呼ばれたんだろ。なんも悪いことしないのにな」
「何も思い当たらないなぁ。まぁ、考えてもわからないからとりあえず入ってみよ」
と咲が言いながら生徒会室のドアをノックしていた。
「どうぞ」
中から声がした。さっき聞いた生徒会長の声だった。
中に入ると広い部屋の中に6人の学生がいた。
部屋は多くの本棚、机とソファが中央にあり、正面奥には会長用であろう立派なデスクがあった。
「よく来てくれた。ようこそ生徒会へ。別名、統治学科へ」
会長は不気味な笑顔をしながら歓迎してくれた。
そして僕は気づいた。
「ようこそ」と「統治学科」という2つの単語で、何かにハメられたと。
というか統治学科ってなんだという疑問が浮かんだ。
入学式では聞かなかった学科だ。
「話は長くなる。ソファに腰を掛けてくれ」
会長に流されるまま3人ともソファに座った。
俺が発言しようとするとそれを遮るかのように会長が話し始めた。
「ダラダラ話すのは嫌いなんでね。簡潔に話させてもらうよ。君たち3人は入試の上位3人だ。首席日野、次席沢城、三席小松だ。3人はこの生徒会、統治学科に入ってもらう。これは決まりでね。入試の上位3名は強制的に、ここに入ってもらうことになっている」
俺は頭が真っ白になった。
今この時をもって、理工学科に入れないことが決まったからだ。
「統治学科って何なんですか?入学式に聞きませんでしたよ」
怜がすぐに聞いていた。
「切り替えが早いね。しっかり説明するよ。隠さずに素直に言おう。10の学科はとても仲が悪い。学園のシステム上、学科同士の中が悪くなるのは必然的なんだよ。学科には毎月順位が出される。その順位は、各学生の毎月のテストの得点の各学科内平均得点で決める。順位によって、ボーナスとペナルティーが発生する。どの学科だってボーナスは欲しいし、ペナルティーは受けたくない。そのため争いが起きる。しかし入学式で説明したように、この学園にいかなる法律は意味をなさない。最悪の場合、殺人が起きたりする。そこで登場するのが統治学科である。この統治学科は将来、人の上に立つ人間の育成、例えば政治家になったり、すごい時には王族になる者だって過去にいた。しかしそれは表向きの姿だ。実際は、争いごとを最小限に抑えるために暗躍するのが仕事だ。警察のような正義だけで動く集団ではない。最小限に抑えられるのであれば手段は問わない」
会長は何を言ってるんだ、と思った。
「冗談ですよね?」
と俺が聞くと、
「冗談ではない」
と即答された。
この学園は狂っている。
普通ではない。
心からそう思った。
「統治学科へ入ることの拒否権は?」
と聞くと、
「そんなものはない。もし拒否した場合、今この場で首が飛ぶぞ」
と言われ、後ろに立っていた生徒会執行部役員らしき男がナイフを俺の首元に持ってきた。
どうやら、入る以外の選択肢はないようだ。
正直乗り気ではなかった。
それはそうだ。
こんな頭の狂ったような奴らの中にいたら、自分までおかしくなってしまう。
「わかりました。入りましょう」
俺は決心した。
というか、それしか生きる道はなかった。
隣の2人を見てみると、頭が真っ白だという顔をしていた。
しかし2人ともこの状況を理解したのだろう。
入るしか選択肢はないと。
「私も入ります」
「入ります」
咲も怜も返事をした。
「よし。それでは正式に歓迎しよう。ようこそ生徒会執行部統治学科へ」
会長のこの言葉から俺の黒色の学園生活は始まった。