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COLORS  作者: 和泉 兎
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贈り物

霧の谷の手前にある森に、小さな家が建っていた。

丸太を積み重ねて組んだだけの、シンプルな平屋の家。

その家の前に、玄関ドアをノックする一人の少年がいた。


その少年は、金色の美しい髪にアクアマリンのように透き通った明るい瞳を持ち、まるで天使のような容貌をしている。


「あいている」


間を置かずに、中から涼やかな高い声が聞こえた。

少年はドアをあけ、片手を上げて軽い挨拶をした。


「久しぶり」

「ああ。久しぶりだな、ネロ」


銀色の髪を肩の上で揺らせて、アルファルドは客人を出迎えた。


「元気にしていたか?」

「うん。主にちょっかい出しながら楽しくやってるよ」

「お前らしいな」


挨拶まじりの会話を楽しみながら中へ招き入れると、アルファルドはお茶を入れに作り付けのキッチンへ向かう。

短い銀色が揺れるのを目にとめて、ネロはぽつりと呟いた。


「髪、切っちゃったんだ。もったいない」

「どうせ、またすぐに伸びるだろう。金が必要だったので売ったのだ」

「お金が?なんで?」

「この家」

「あぁ、材料を買ったの?……言ってくれれば、僕が手配したのに」


ネロは、本当に残念そうに言葉をこぼした。


「ありがとう。でも、どうしても自分たちの力で手に入れたかったのだ」


そう言われてしまえば、ネロはそっか、と呟いて室内を見回した。


「いい家だね」

「鵺が意外に器用で助かった。私には才能がないらしい」


アルファルドは己の手のひらを見つめて、悔しげに息を吐き出した。


「そうなんだ」


ネロは思わず吹き出して笑う。


「鵺は?」


そういえば鵺の姿がないと思い、聞いてみた。


「仕事に行っている」

「仕事?」


また殺し屋でも始めたのだろうかとネロが首を傾げると、アルファルドはこくりと頷いて教えてくれた。


「ああ。なんでも屋をしているのだ」

「なんでも屋?あの鵺が?」


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「マリーが瞳の色を変える魔具を作ってくれたからな。今日はトラハの宿屋の紹介で、美術品の輸送の護衛だ」

「へぇ!」

「もうそろそろ帰るはずなのだが。会っていくだろう?」

「うん。待たせて貰ってもいい?」

「もちろん」


アルファルドは笑って、ぜひにと勧めた。

会話が途切れて、ふたりはお茶に口を付ける。

それからさらに少しの間をおいて、躊躇いがちにアルファルドは話し出した。


「それに、ちょうど私もネロに相談があるのだ……」

「相談?」


ネロは瞬きをして繰り返した。


「乗ってくれるか?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」


あまりに早いネロの返事に、アルファルドは笑みを深める。


「実は、鵺に贈りたいものがある」

「贈りもの?いいね、協力するよ」


ネロは、鵺にたくさんのものを貰っていた。それは物などではなくて、ネロにとって最も欲しくて、でもずっと手に入らなかったものを。


ネロはこの容姿のせいで、親には売られ、男にも女にも邪な目で見られ続けてきた。

いつも好奇の視線に耐えながら、時には自ら利用したりもした。

自衛のために身に付けた力は己をさらに異質なものとし、いつしか自分でも他人と区別するようになっていったのだった。


そんな時、鵺に出逢ったのだ。


人ではないのに、人である自分に似ていると思った。ネロはその圧倒的な力に惹かれ、孤高に生きる姿に憧れた。

だから、ネロは裏から手を回し自分と組ませ、一番近くでずっと見てきたのだった。


鵺は誰にも興味を示さなかった。それは、もちろんネロに対しても。

しかし、ネロはそこで初めて自分が欲しかったものに気付いた。意外なことに、それは普通の人間と同じ扱いだった。

鵺が、自分の容姿に何の興味も感情も示さないことが、嬉しくて仕方なかった。

鵺にとって、それは本当に何でもないことだろう。

でもネロにとってみれば、それはあまりに大きなことだった。


そして、だからこそ自分も何か返したいと、ネロはずっとそう思っていたのだった。


「何を贈るの?」


ネロが問うと、アルファルドは穏やかに微笑んで、言葉を紡ぐ。


「名前」


ネロは目をみはった。

そうだ。ずっと、当たり前のように呼んでいたが“鵺”は名前ではない。

鵺には名前が無かったのだ。


「一緒に、考えてくれないだろうか」


アルファルドの提案に、ネロは悩む間もなく応えた。






予定より仕事が長引いた鵺は、帰り道を急いでいた。


マリーが作った魔具によって、人間から瞳を隠す必要はなくなり、おかげで殺し屋以外の仕事ができるようになった。ただ、鵺の瞳の色を変えるというのはかなりの力が必要だったため、あまり長い時間は使うことができなかった。

ここまでくればもう隠す必要はないと考え、森の途中で魔術を解いた。

瞳は本来の色を取り戻し、光を放つ。


アルファルドと一緒に建てた家が見えてくると、帰ってきたという実感がわいた。

力が抜けるような、逆に湧いてくるような慣れないな感覚は、不思議と心地好い。


ふと違和感を抱いて意識を研ぎ澄ませると、家からもうひとつのよく知る気配がした。

今日は珍しい客が来ているようだ。

鵺の足は、さらに速度を上げて我が家を目指す。

妻と友の待つ家は、もう目の前だ。


鵺は笑みを浮かべて、玄関ドアを開けるべく手を伸ばした。




─完─

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

感想などいただけるととっても嬉しいです。

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