急転
次の興業が決まると、さっそくポスターを作って貼った。
今度の街は魔術師もよく立ち寄る場所で、伝説の銀竜を一目見にきっと多くの人がやってくることが予想された。
その予想通り話題は街を駆け巡り、近くの村や別の街まで広がっていった。
私たちは話し合って、私が銀竜に化けることはお客には伏せることにした。
捕らえた銀竜を、特別な魔術で魔力を封じて操っているというシナリオを作った。
お客を騙すことにはなるが、私の安全を考えてみんながそうしてくれたのだった。
サーカスの初日を迎える日になると、街にはお祭り騒ぎになるほどの人が集まり、みんな期待混じりにチケットを買い求めた。
チケットはすぐに完売して、私たちは喜んだ。
講演が始まると、まず私は空中ブランコを披露してお客さんの喝采を浴びた。
ひとりでの演技には寂しさを感じながらも、だいぶ慣れてきた。
演技が終わって拍手を受けながら、控え室に戻る。
次のプログラムであるクリスのナイフ投げが始まったのだろう。
ステージの方からは、悲鳴と歓声が聞こえてきた。
私は衣装を脱いで薄い布一枚だけを羽織り、打ち合わせ通りフローラの待つ舞台裏へ向かった。
ステージでは、今はミアが音楽に合わせて蛇たちを操り、お客の手拍子を集める音が聞こえる。
次のポポとゾゾの曲芸が終われば、私たちの番だ。
打ち合わで決めた合図に合わせて、フローラに従って動けばいい。
特別な芸はなくても、銀竜がいてそれを操るというだけで物凄いことなのだ。
私はフローラの横に立って、今更ながら素朴な疑問を投げ掛けた。
「私は本当に銀竜に化けられるのだろうか?」
フローラは花のように微笑んで、低い声で教えてくれた。
「ええ。黒髪の人を猫化すれば黒猫に、赤髪の人を竜化すれば赤竜になるそうよ。たから、あなたは銀竜になれるの。あなたしか、なれないの」
私はなるほどと手を打った。
忌み嫌われてきたこの髪色が、みんなの役に立ってとても嬉しく思う。
「代わってあげられなくて、ごめんね、アルファルド」
だからフローラがそう言っても、私は笑顔で首を横に振った。
ついにポポとゾゾのプログラムが終わり、私たちの出番がやってきた。
フローラは私に向けて右手に付けた指輪をかざすと、ゆっくり力を込める。
私は身体が熱くなっていく感じがして目を閉じた。
心臓がどくどくいって、少し気持ちが悪い。それでも我慢して呪いを受ける。
うっすら目を開けると私の身体は銀色に輝いていた。
手は次第に長く伸び、後ろへ反っていく。
視界もどんどん高くなって、背の高いフローラの頭が視界の下の方に下がっていった。
光はゆっくり収束するとすっかり消え失せ、いつもの薄暗い舞台裏には目を皿のように見開いたフローラと、白銀に輝く竜の姿に化けた自分がいた。
「すっごく綺麗……」
フローラは口を開いたまま呟いた。
そこへ出番を終えたみんなもやってくる。
みんながみんな、見惚れて声も出ない様子に、私は唸り声を上げて笑ってしまった。
「うわ、すげぇ重低音!」
クリスがぎょっとして私を仰ぎ見た。
「でも、ほんとに綺麗だねぇ」
「うん、素敵……」
ミアとマールがしみじみと呟いたのを聞いて、私は低い声でお礼を言った。
「「喋れるんだ!」」
ポポとゾゾがひっくり返るほど驚いた姿に、またみんな笑顔になった。
「さぁ、アルファルド。出番だよ」
団長に促されて頷き、慣れない大きな身体を動かしてステージへ向かう。
フローラが横に寄り添って、足をぽんぽんと叩いてくれた。
「「「アルファルド、頑張れ!」」」
声を受け長い首を捻って振り返れば、みんなが笑顔で送り出してくれる。
最高の家族の最高の笑顔を竜の目に焼き付けて、私はステージへ歩いていった。
ステージに姿を現すと、地響きするほどの歓声に迎えられた。
フローラが客席に挨拶をして、打ち合わせ通り音楽がかかる。曲に合わせて翼を動かしたり、頭を動かしたりを繰り返した。
フローラを背に乗せてステージを歩けば、会場は大騒ぎだった。
最初で最後の銀竜でのステージは見事大成功。
お客はみんな満足げで表情はきらきらと輝き、興奮と熱気は膨れ上がる一方だった。
最後にフローラと一緒に頭を下げて礼をすれば、もう終わり。
あとは裏に引き上げるだけだ。
しかし、後ろに向きを変えようとしたその時、突然照明が落ちてステージは闇に包まれた。お客はこれも演出と思ってか拍手を送る。
だが、こんな演出は予定にない。
機材のトラブルかと思いながら裏へ再び歩き出そうとしたところで、身体が動かないことに気が付いた。
隣にいるはずのフローラですら、暗くてその姿は見えない。
なんとか動こうとするが、まるで石にでもなってしまったようにびくともしなかった。
視線だけは動かせたので、足もとに目をやってみた。
そこには不思議な青い光が見える。
その光は私を囲うかたちで円を描き、その中は何やら綺麗な図形にぎっしりと埋め尽くされていた。
いつの間にか拍手は聞こえなくなっている。
その模様が強い光を放ち、私はあまりの眩しさに目を閉じた。
そして次に目を開けたとき、そこはもうステージではなく、薄暗く広い無機質な部屋だった。




