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COLORS  作者: 和泉 兎
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日常

日が昇る前には、物音をたてないように寝床へと戻る。

家畜小屋の隅の、汚れて破けたぼろ布が私のベッドだ。

臭くて湿ったその布を頭からかぶって、つかの間の睡眠を得た。


それから少しして、フライパンを打ち鳴らすけたたましい音が響いた。

この音を合図に今日も一日が始まる。


目を開けて素早く起き上がると、フライパンとお玉を持った叔母さんが家畜小屋の入口に立っていた。

すぐに立ち上がり、ぺこりと頭を下げて挨拶をする。

頭を上げたときには、もう叔母さんはお屋敷の方へ歩き出していた。


ここより少し高い位置に建てられた、煙突の付いた大きなとんがり屋根のお屋敷が叔母さんの家だ。

補修もいき届いていない家畜小屋とは違って、手入れされたオレンジの屋根と白い壁が、晴れた空によく映えた。


叔母さんがお屋敷に入るのを見送ってから、身体を伸ばして深呼吸をした。朝の冷たい空気が身体に染み渡り、とても気持ちがいい。

身体もすっかり目をさませば、今日も仕事をするために腕をまくった。


まずは家畜小屋の掃除をして、それから家畜たちに餌をやるのだ。

自分の頭よりも大きなバケツを短い腕で抱えて小屋を出た。

川でなんとか水を汲み上げて、重くなったバケツを引きずるように運ぶ。

小屋へ戻ると背丈よりも長いブラシを両手で握りしめ、バランスを取りながら床を磨いた。


家畜の世話が終わる頃には、いつの間にか食事が用意されている。

小屋の入口に置かれた使い古されたバスケットには、少しのかたいパンとひとかけのチーズが入っていた。

私は自分で汲んできた水で流し込みながら、今日唯一の食事を楽しんだ。


叔母さんが焼くパンは、とてもおいしいと思う。

でも、私が話し掛けようとすると怯えた顔をさせてしまうので、残念ながら伝えることはできなかった。


食事が終わると菜園の草取りへ行く。晴れが続けば、また水を汲んできて撒くのも私の仕事だ。

土を触るのは面白いと思う。

植物は毎日成長を見せてくれるし、珍しい虫や花を見つけながら働いた。


菜園の手入れが終われば、もう私の一日の仕事はおしまい。

家畜小屋に戻って、空を眺めたりして過ごした。


その頃になるとティナが帰ってくる。

ティナは叔母さんの娘で、今年から学校というところに通っている。私とは従姉妹というものらしい。

ティナは私が嫌いなようで、いつも学校から帰るとすぐに家畜小屋にやってきては私をいじめた。

でも、私はティナが嫌いではなかった。


ティナは私の知らない私のことをたくさん教えてくれたし、話し掛けてくれる唯一の人だったからだ。

だから、痛かったけれどティナが来てくれるのは嬉しかった。


叔母さんは私のお母さんの妹だということ、お母さんは私を生んだときに死んでしまったこと、そしてその原因は私だということ。みんなティナが教えてくれた。

お父さんのことだけは誰も知らないようで教えては貰えなかったけれど、ティナは私のお父さんは悪魔に違いないと言った。

叔父さんも私を悪魔の子と呼ぶから、それは本当なのかもしれないと思った。


だから、私の髪はこんな色なのかもしれない。

だから、お母さんを死なせてしまったのかもしれない。

そう思った。


日が傾いてくると、ティナはお屋敷に帰る。

私はまたひとりきりになり、赤く染まる空を見つめて過ごした。

すっかり暗くなると、お屋敷からは叔父さんと叔母さんとティナの楽しそうな声が聞こえてきた。

ほのかにおいしそうないい匂いがして、私のお腹は鳴き声を上げる。

それを合図に、私はこっそり家畜小屋を抜け出した。


これはもう晴れた夜の日課になっている。

私は星を眺めに出掛けた。


お屋敷へ近付くことと、村の人に会うことは禁じられていたが、小屋のまわりは自由に出歩くことを許されている。

家畜小屋の裏へまわって、もはや私の特等席となった岩に腰掛け、足をぶらぶら揺らしながら空を見上げた。


星の瞬きは、まるで会話をしているみたいに見える。

同じ色の私も、それに混ぜて貰うのだ。


叔父さんは、私が口をきくことを許さない。だから、叔母さんやティナに話し掛けることはない。

叔父さんは仕事の指示をするときだけ、少しお話してくれる。

でも、私からは返事をすることも、質問をすることも許されなかった。

それでも、ずっと前に叔母さんに話し掛けてみようとしたことがあったが、叔母さんの恐怖に歪んだ顔を見たら、そんな気はなくなった。

伝えたいことはあったけど、我慢するのだ。


その分、この夜空の星が聞いてくれる。

声には出さなくてもちゃんと届いていて、返事のかわりにいつも瞬きを返してくれた。

そして時には、きらりと流れて私を喜ばせてくれるのだ。

星たちは、私の友達だった。


たくさんの話をして過ごす夜は、私の宝物。

楽しくて、楽しくて、いつも明け方までそこにいた。


記憶のある限り、これが私の日常だった。

そして、私はこの毎日を繰り返していくのだと、そう思っていた。

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