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COLORS  作者: 和泉 兎
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変化

鵺はどういうことかと目だけでネロに説明を促した。


「あの銀竜、調べてみたら魔力を封じられてたみたいなんだよ」


やはり、もうそこまで知られているのか。

鵺は小さく舌打ちした。


通常、あまりに危険で扱いが難しい竜は素材を剥がしたらすぐに始末される。

アルファルドの魔力が封じられていることに気付いているということは、すでに鱗は剥がされて制作者の元にあるということだ。

それはつまり、もう手に掛けられているということ。


結局、間に合わなかったのか。

自分の無力さ加減に、表しようのない苛立ちが募る。


「あ、主が制作者に鱗を加工させようとしたら、この鱗からは魔力を感じないって言いだして。それで、その制作者に銀竜を見せたら、銀竜自体に魔力が無いって言うんだ」


ネロの恐る恐る紡がれる言葉にかすかな希望の灯が見えて、鵺は目を見開いた。


魔物も鵺も竜も、死ねばその身に宿る魔力は失われる。

銀竜を制作者に見せるということはアルファルドが生きていなければ意味のない行為だ。


「そしたら主が怒って、どういう事だって問い詰めたら、これは魔力を封じられてるんじゃないかって」

「……いま、銀竜はどうなってる?」


鵺は小さな声で訊いた。

ネロは鵺の様子を伺いつつ答える。


「主が捕らえてるよ。魔力が戻ってからじゃないと、鱗を剥がしても意味がないからね」


アルファルドは生きていた。


欲の深い主は数枚の鱗では満足できず、全ての鱗を手に入れようとした。

しかし待ちきれずに始めに剥がした鱗をすぐさま魔具にしようとしたところ、そこで運良く魔力が無いことに気付き、アルファルドは鱗を残した状態で生かされることになったという。


主はアルファルドの魔力を戻すつもりらしい。

目の前に伝説の銀竜がいて、それを諦めるなど主にはできるはずもないだろう。

きっと今頃、あらゆる手段で魔力を取り戻そうと躍起になっているに違いない。


鵺から殺気が消えて、ネロはほっと息を吐いた。


「主は鵺が何か知ってると思ってる。突然姿を消した鵺を疑ってるんだ」


一度力を抜いたネロだったが、再び緊張した真剣な表情を鵺に向ける。


「制作者が言うには魔力を封じる魔術はないから、もしかすると鵺がその力で封じたんじゃないかって」


鵺の魔力はまだまだ未知のものだ。鵺自身も全てを焼き尽くす紫の炎の他に、己の血にどんな力があるのかは知らない。

そう思われても何ら不思議はなかった。


制作者のその勘違いは鵺にしてみれば好都合だ。

向こうから呼ばれているなら難なくアルファルドに近付くことができる。


「案内しろ」


鵺はネロの案内でスズ平原へ向かうことにした。


そうと決まれば、二人はすぐに洞窟から軽やかに飛び降りた。

ちょうどそこには男たちが乗ってきた馬がいる。それで向かう方が早いと考え、鵺は木にくくられた手綱を解いた。

馬は血の匂いを纏って近付くネロに、恐怖を抱いて嘶いた。鵺はその首を軽く叩いて落ち着かせてから飛び乗った。


馬は鵺を恐れなかった。

竜も鶏も馬も、鵺に対して畏怖の念は抱かない。ただ人だけが鵺を異質なものとして見る。

ネロはそんな鵺の様子を黙って見ていた。そして自らも馬に跨がると、小さく呟いた。


「鵺、なんか変わったね」


鵺は何のことだかさっぱりわからず眉を寄せたが、ネロは何も言わずに馬の腹を蹴って先へ行く。

鵺も後を追って森へ入った。


ネロは森を駆けながら、後ろを走る鵺のことを考えていた。

そこまで長い付き合いではないが、あんなに感情を表に出した鵺を見たのは初めてだった。

いつも何に対しても無関心。全てを諦めているような動かない表情。必要最低限の言葉。

それがネロの知る鵺だ。


しかし、さっきの鵺はまるで別人のようだった。

激しい感情を露にしたかと思えば、どこか優しさを宿した目で馬を見ていた。

ネロはその姿を思い出して、心なしか寂しげな表情を浮かべていた。




しばらく走って、途中で馬を休ませるために休憩をとった。


「罠だよ」


二人も休むべく倒木の端と端に並んで腰を下ろしたところで、不意にネロが口を開いた。

鵺はおそらくそんなことだろと思っていたが、それを俺に言っていいのか、とネロに訝しげな視線を向ける。


「僕、腕は買われてるけどあんまり信用されてないし、別にいいよ」


淡々と言うが、ネロは間違いなく主の右腕だ。

もとより主は自分以外の誰をも心から信じてはいないのだろうが、ネロをそこまで信用していない訳がない。


「魔弾用の弾を無断で手配したり、こっそり鵺の仕事に手を出してたのがばれちゃってね」


鵺は少なからず驚き、目を丸くした。


「鵺には、僕のサポートなんかなくても何にも問題ないだろうけど」


ネロはいつもの笑顔を浮かべることもなく、自分の足元に視線を落としている。


「でも僕は鵺に借りがあるから」


下を向いたネロの表情は見えなかったが、消え入りそうな声は不思議とよく聞こえた。


鵺には心当たりがなかった。

ネロに何かしたこともなければ、与えたこともない。


「鵺には何でもないことが、僕には救いだった」


顔を上げて、眉を寄せた鵺の表情から疑問を読み取ったネロは、静かに笑った。それが、何かは言うつもりはないようだ。

鵺も追求はせず、ただ体力の回復を待った。


「主は、鵺が平原に来たら捕縛するつもりだよ」


しばしの沈黙の後、またネロが口を開く。


「すごい数の魔術師を用意して、準備してる」


鵺は横目でネロを見た。


「鵺の迎えに行かせて、僕にもそれを隠してるつもりみたいだけど」


あんまり侮らないで欲しいよね、と見慣れた笑顔でくすりと笑った。


「銀竜の魔力を戻させたら、鱗と一緒に鵺の血も手に入れる気なんだ」


主の考えそうなことだと、鵺は妙に納得する。


「ねぇ、本当に鵺が魔力を封じたの?」

「いや、できない」

「だよね」


ずっと思っていた疑問を投げ掛ければ、簡潔な答えが反ってくる。

まるで確信を持っていたようにネロは頷いて、でも、と続けた。


「何か知ってるのは本当だよね」

「……ああ」

「やっぱり」


ネロはまた小さく笑った。

鵺は、今までネロとこんな風に話をしたことはなかった。

他人に対して興味もわかなかったし、ネロはただ単に仕事をこなす上でのパートナーでしかなかった。


しかし、鵺はいつしかネロに対して自らの考えを口に出していた。


「銀竜を助ける」


ネロはあまりに予想外だった言葉に驚きを隠せなかった。


「助ける?」

「ああ」

「鱗が欲しいんじゃなくて?」

「そんなものに興味ない」

「そう、だよね」


そうだった。

鵺は魔具や素材に興味を示さない。

洞窟での鵺の反応を、ネロはようやく理解した。


洞窟で、鵺は銀竜を探していた。

それは敵や獲物を求める目ではなかった。


しばらくして、ネロは、控えめな声を掛けた。


「なんで助けたいのか聞いてもいい?」


鵺は慣れない会話に言葉を探すも見つけられず、素直に答える。


「……わからない」

「でも、助けたいんだ?」

「ああ」


今度はきっぱりと肯定すれば、ネロは深く頷いた。


「それって、僕もわかるかも」


鵺が目を向けると、ネロは微笑んでいる。


「だって僕が鵺に思うのと同じみたい」


鵺は複雑な表情を浮かべて考えていたが、ネロの強い呼び掛けに目を向けた。


「鵺」

「なんだ」

「僕も手伝っていい?」

「は?」


思わず変な声が出たが、ネロは気にしない。


「銀竜を助けるの」


鵺は少し考えて、しっかりとネロと目を合わせた。諜報のスペシャリストであるネロのその瞳からは、簡単に真意は読めない。

でも。


「利用するぞ」


いい、と言わずにわざとらしく嫌な言い方をする鵺に、ネロは吹き出した。


「うん。利用して」


声を上げて笑うネロに、深く頷いた。

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