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黒い家  作者: そら07F
93/187

助ける理由 ②

「守るための…力…?」


突然の敷辺の言葉を

疑念を含み繰り返した藍人に対し


敷辺は、さも得意げな笑顔で

「そうだ」と二人の側に腰を降ろしながら

藍人へ返事を返し、そのまま言葉を続ける


「暫くは傷の治療の為に体を休める事が重要だが

 傷がある程度まで癒えた後、

 お前はここに残り、

 誰かと生きる為の術を学ぶといい」


「生きるための術って……?」


疑問が深まるばかりの藍人に

敷辺が藍人に足りないとした物は

「体術と学問、それと人里での生き方」だと

説明をした


確かに藍人の持つ知識には酷く偏りがある

その大部分は老親が教えてくれた知恵


具体的には食物や薬になりえる植物の知識や、

簡易な狩猟の方法、獣の性質や危険度など


つまり、それらは〃森や人里でない地〃で

あくまでも〃一人で〃生きていく為の知識である


「酷い言い方をするならば」と前置きした上で

敷辺は現実を語る


「今回、お前がこうして死にかけた事も

 お前の大事にする女を人殺しにした事も

 全てはお前の力不足だ…」


「ーっ!」


淀みなく語られる敷辺の言葉には

一切の反論の余地もない


〃悔しかった〃


それは何も言い返せない事が、


ではなく


自らの弱さが、無力さが

なんとも許せなかった


藍人は全てを噛み締めるように口を閉ざし

力なく俯く


そんな藍人に更に追い討ちをかける様に

敷辺は強く語る


「お前は決定的に判断を誤った

 逃げるべきだった、勝てる相手ではなかった

 その結果がこれだ!

 自らの命を危険にさらし

 守りたい女の命を危険にさらし

 お前はその大事に思う相手に

 自らの尻拭いをさせたのだ!」


敷辺の語気が強まる

しかし、その言葉はまるで

どこか母親のような

強さや優しさを含んでいる気がした



そして



「その上、今、お前はその女を

 自分の命を賭けて、お前を救ってくれた女を

 お前が目覚める事を誰より祈り、

 目を覚まさないお前の側を片時も離れず

 その瞬間を何より心待ちにしていた女を

 お前は突き放そうとしている…」


一転して静かに語られる敷辺の言葉は

容赦なく藍人の心を深く抉る


何も言い返せない

言い返せるはずがない


瞬間

「私の側にいて」

と必死に訴えた葵の顔が思い出される





葵は、彼女は





一体どんな気持ちで、

あの言葉を口にしたのだろう?








どんな気持ちで…ー








「藍…人…?」


次の瞬間、

不安を帯びた葵の声が絶望の淵にいた藍人を

一瞬にして現実へと引き戻す


気づけば藍人は葵の手を握りしめていた


藍人の瞳に映った葵は少しだけ不安げな表情を浮かべている

藍人の脳裏に、必死に自分の目覚めを祈る葵の姿が浮かぶ



葵は一体どんな気持ちで引き金を引いたのだろうか?


そして葵は果たしてどんな思いで藍人の側にいたのだろうか?




葵は、今どんな気持ちなんだろうー?





俺は、この健気な女の子に


一体何をしてあげられるだろうー?








「………ってみせる……」








考えるより自然に言葉になっていた








「え……?」


それはすぐ側にいた葵にすら聞きとる事が難しいほど小さく

けれども、確実に吐き出された覚悟の言葉




「俺が、命に換えても葵を守ってみせる…」





藍人の言葉を聞いた葵は

信じられないという様子で言葉を失っている

そして、その瞳からはとめどもなく大粒の涙が溢れていた






敷辺はそんな二人を見つめながら

ポソリと呟き、足早に部屋をあとにする


「これで、いいんだろう?」


そのあまりに小さな呟きは

藍人達に決して届く事はなかった

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