救える可能性 ②
「茜ちゃんは恐らく取り戻せるんだよ…」
すがり付いてきた灯を
木山は優しく抱き締めながら続ける。
「常ならば消える人間は1人づつのはずなんだよ。でもごく稀に2人同時に消えてしまう事があるんだ。その場合は何の為かわからないが、1人は普段と同じく存在ごと喰われ、もう1人は何故か外側は空っぽになり返されるんだよ…。」
それを聞いて灯は
「じゃあ…どうすれば…?」
木山はまた灯の頭を撫でながら続けた。
「方法は【もののけの領域】に茜ちゃんを迎えに行くしかない。【領域】に入る方法は残された書物か、だいたいわかってるが…」
ここまで話すと木山は突然口を閉ざしてしまった。
灯が不安そうに
「どうしたんですか…?」
と尋ねると、木山は言いにくそうに問いに答える。
「【領域】に茜ちゃんを助けに入るのは、灯ちゃん1人だよ…」
灯は木山のその返答に、さほど驚かなかった。
木山が繰り返し言った『覚悟』という言葉が頭にあったためだ。
灯は木山に抱き締められたまま返答する。
「はい…何となくわかってました…」
その灯の返事を聞いて木山は「すまないね…」と呟いた。
「いえ…大丈夫です…」
涙を流し精一杯強がる灯の震える体を抱き締め続ける木山。
その2人の姿はまるで、本当の祖母と孫のようだった。
暫く続く優しい時間。
ゆっくりと木山は茜を救う方法を語り出す。
「『もののけ』に囚われた茜ちゃんは、恐らく領域の最深部に囚われている。そこまでたどり着ければ何とかなる。私は外側から脱出の為の準備をしなくてはいけない…」
「領域まで行く方法は、書物から幾つも残されているんだよ…しかし、出る方法は…その最深部の中からと外からと心で同時に呼び合う他ない…」
「私を信じてほしい…茜ちゃんを見つけたら、必ず私を心から呼ぶんだよ…」
木山は茜救出と脱出の方法を語る。
灯はそれに終始「はい…はい…」と返事をする。
茜を取り戻す為の、灯と木山の打ち合わせは暫く続いたのち
その間に木山が何度となく「信じてほしい」と「すまない…」を繰り返した。
準備に暫く時間が掛かると言う木山の提案で、決行は一週間後という約束となった。