表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い家  作者: そら07F
6/187

木山 ②

「さて、どこから話したもんかねー」


木山(きやま)は緑茶を一口飲むと湯飲みをちゃぶ台に置き

俯いて暫く考え込む。


それからゆっくりと顔を上げ灯を見やると


「私はこの町では変わり者として知られている、聞いた事があるかい…?」


木山は、少し悲しげな表情を浮かべ

灯にそう尋ねてきた。


灯はコクリと頷き


「木山さん…ですよね…」


灯の返事を確かめる様に聞いて、さらに木山は灯に尋ねる。


「あんたは灯ちゃんで間違いないかい?」


名前を呼ばれた事で、

灯は(たたず)まいを正すと

小さな声で「はい」と返事をした。


木山はふわっと優しい表情になり、

手をひらひらさせ


「そんな固くならなくてもいいよ、ゆっくり聞いておくれな」


と言った。


それから木山は立ち上がり部屋の奥から数冊のファイルを持って戻り

その中の一冊を開いて


「この町が村だったのは知っているかい?」


と灯に尋ねた。

灯は、


「はい…ある程度は調べました…。学校の授業でですけど…」


と答えた。


それを聞いた木山は


「そうかい、ではこれは見た事はあるかい?」


そう言って灯に見せたのは古い地図だった。

上には

『昭和元年 色彩村全図(しきさいむらぜんず)

と書いてあった。


灯は目を丸くし、

驚きを隠せない様子で


「い、いえ、見た事ないです。でもこの時代の書物は先の大戦全て燃えたって図書の先生が…」


それを聞いて木山は、

「そりゃあそうだろう」

と笑う。


「この地図も、ここにある書物も、村の記録は全てここにある。」


灯は木山の言った言葉の意味がわからず混乱した


そんな灯に構わず木山は続ける。


「この四季彩町、いや色彩村は昔から人が存在ごと消える土地なんだ。だから消えた事は誰も気づかない。神隠しのようなものと思っていいだろう。」


普段ならばこんな意味のわからない話は誰も信じない。


しかし、


この木山の話には、

何故だか不思議な説得力が感じられた。


その為、灯は何も反論はしなかった。


「信じられないかい?」


そう言って木山が次に取り出したのは

真新しい1枚の写真だった。


それを見て灯は困惑した。


そこに写っていたのは、紛れもなく(あかね)だった。


隠し撮りの様なアングルで撮られた写真には茜と、

もう一人、

茜と同じ位の年齢の見たことのない男の子が公園で仲良く遊ぶ姿が写っていた。


「この写真は何ですか!?この写真はいったい…」


灯のその様子を見て

木山は変わらない優しい口調で灯に質問を投げ掛ける。


「この写真は私が撮ったものだよ。それよりこの男の子に見覚えがあるかい?」


思いもよらない質問に、

灯は「知りません」とだけ答えた。


それを聞いた木山は続けて尋ねる。


「本当に知らないのかい?年の頃は茜ちゃんと同じ位に見える。恐らく同じ学校だろう。という事は灯ちゃんとも同じ学校という事になるがね」


確かにそうである。


灯は茜の教室には何度か行った事がある。

同じ年齢ならば、その教室で一度は見た事があるはずだ。


そもそもこの町には学校は一つしかなく、

クラスも学年に一クラスだけという閑散ぶり。


茜と同じ学年でなかったとしても

一度も見た事がないというのはおかしな話だ。


それよりもこの後に木山が告げた事実に、

さらに灯は混乱し、思考は完全に止まってしまった。


「この写真に写っている男の子の名前は、水戸野(みとの) 優翠(ゆうすい)くん。そう、灯ちゃんの家の真向かいの家の子だよ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ