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黒い家  作者: そら07F
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木山 

四季彩町(しきさいちょう)の嫌われ者。


これは木山(きやま)という老婆の事を指す言葉である。


灯達の部屋が荒らされた日の翌日


今にも崩れてしまいそうな家の前に灯は立っていた。

家の周囲にはゴミがうず高く積まれ

蝿が飛び交っている


灯は酷い悪臭で思わず鼻を手で覆った


積まれたゴミの間

一人がやっと通れる位の通路が玄関まで続いていた。


通常の精神ならば誰も近寄る事はしないだろう。


しかし、

灯に迷いなどなかった。


灯は意を決して

ゴミとゴミの間を通り玄関までたどり着いた。


玄関を見渡した所呼び鈴はなく、すりガラスの()まったサッシの扉を叩いて、灯は呼びかける。


「木山さん…灯です、関根…灯です」


中からの返事はない。


暫くしてゆっくり足音が近づき、

カラカラと音を立て扉が小さく開くと木山が顔を半分ほど覗かせる。


木山は灯を足元から頭の先まで舐める様に見ると、

相変わらずの低く恐ろしい声で


「覚悟はできたのかい?」


木山の当たり前と言える質問に、

一瞬の間をあけて、灯は小さくコクリと頷いた。


灯の意思を確認した木山は先ほどより大きく扉を開いて、

灯を屋内へ招き入れる仕草をした。


開かれた屋内から漏れ出る悪臭に一瞬の躊躇(ためら)いはあったが、灯は覚悟を決め、屋内へと足を踏み入れていった。


屋内に入ると屋外とは比べ物にはならないほどの悪臭が漂い、

思わず吐き気まで催すような有り様である。


「履き物はそのままでお上がり」


ゴミだらけの土間を抜け靴を脱ごうとしていた灯に木山はそう促した。


躊躇いはあるものの家の主人の申し出は従うしかない。

その申し出に内心ホッとして、灯は土足のまま足を踏み入れた。


土間を抜けた先、長い廊下にもゴミが溢れ

足元に注意しなければ積まれたゴミに飛び込むように転んでしまいそうだった


廊下の途中の開かれたままの扉からは

部屋の中にもゴミが高く積まれているのがわかる。


前を歩く木山が廊下の突き当たりの部屋の扉を開けると、

その部屋は灯の予想を裏切る異質な部屋だった。


ゴミが一切ない部屋

先程までの悪臭は一切感じられなかった。


代わりに部屋の壁という壁全面にお札や金色に光る鈴、

注連縄(しめなわ)や用途が分からない、お守りの類の物がところ狭しと置かれていた。


「そこでは履き物脱いでおくれな」


木山が指をさした足元に目をやると、

簡素ながら靴を脱ぐスペースが設けられていた。


木山の指示どうりに灯が靴を脱いで部屋に上がる

木山は灯を部屋の真ん中に置かれた小さなちゃぶ台の前に座る様に促し、灯と対局の面に腰を下ろした。


敷かれた座布団はふかふかしていて、まるで新品のような座り心地だった。


「悪いね…こんなゴミ屋敷に招くような真似をしてしまって」


木山が灯に話かける。

その声は先程の低くさもなく柔らかで優しい口調だ。

態度にも恐ろしい要素などはない。


「い…、いえ、私こそ突然訪ねる様な事をしてしまって…」


突然の態度の急変に、

灯は面食らってしまったのか精一杯、丁寧な言葉で返す。


ゆったりとした動作で用意した2つの湯飲みに緑茶を注いでいた木山は、灯の言葉を聞いても動作を止める事なく灯の言葉を一蹴した。


「そんな(かしこ)まった言葉遣いは子供がするもんじゃないよ、私はただの死にかけの婆さんだ」


そう言いながら、木山が灯の前に差し出した緑茶は湯気とともに優しい香りが漂ってくる。


暫く2人は向き合ったまま言葉なく時間が流れる。


間をおいて、湯飲みに入った緑茶を一口飲むと木山が口を開いた。


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