黒神
本堂の暗闇より黒い【それ】は、
ゆったりとした動きで複雑に組まれた梁に絡み付きながら
灯の上空を、悠々と移動する。
ズルズルと怪しい音を響かせ動く【それ】は、
灯に大蛇を想像させた。
人の中身を食い物とし、
悠久の時を生きた【それ】は
茜の真上から、
ゆっくりとその顔を覗かせた。
「あ………あ………」
その禍々しい姿に気圧され
灯は言葉を失った。
天井を埋め尽くす程長い体には、
深く黒光りする大きな鱗、
大きく広がる漆黒のタテガミ、
悠久の時を生きた事を感じさせる立派な二本の角と、
白く鋭い牙の並ぶ大きな口と、太く長い二本の髭、
灯を睨み付ける鮮やかな赤く光る眼。
その姿はまさに……
「黒い……龍………?」
その姿を目の当たりにし、
灯は全身が脱力するように、
膝まづきポツリと言葉を溢す。
『如何にも……儂はこの色神宮の主、黒神だ…【シキガミ】とも呼ばれたがな…まあ…好きに呼ぶがいい』
黒神と名乗る黒龍は、穏やかな口調だが、
抵抗など無意味だと感じさせる威圧感があった。
膝まづいたままの灯の大きく見開かれた瞳は
目の前の異形の者を捉えたまま、
灯は恐怖で身動き一つ取れずにいた。
『さて……、話をしよう、小娘…名を名乗りなさい…』
黒神はそんな灯の様子に構わず、
問いかける。
灯は黒神の急な問いかけに、
ビクッと体を跳ねさせ、
慌てて佇まいを正すと、
おずおずと頭を下げ、小さな声で返答する。
「は、はい…、私は灯です…、そこの…茜の…姉です…」
灯の返答を聞いた黒神は、
大きな口で小さく笑うと
『…ほう……茜の…、わかった…ところで灯よ、儂が恐ろしいか?』
「え…?…あ…あの……」
黒神の唐突な質問に灯は、
しどろもどろになり返答を迷ってしまった。
『そんな畏まっていたら、まともに話もできん…』
『…なに、捕って食ったりはせんよ…、もちろん返答しだいだがな…』
灯の慌てる様子を見た黒神は、
一部恐ろしい事を話しながら、
『どれ………、仕方ないのー……』
黒神は静かにそう呟くと、
茜の真上で天井いっぱいに広がる体を、
シュルシュルと一ヶ所に集めると、
体の鱗や凹凸、龍の頭は消え、
漆黒の大きな球体状の物となった。
その後、
球体はだんだんと小さく萎み、
だがその黒さは濃度を増していき、
極限まで小さな、
しかし、どこまでも深く黒い物体になると、
そのまま、ゆっくり茜の真横に降りてきた。
その濃い黒色をした球体は、
床まで降りてくると、
ゆっくりと人の姿を形取り、
最後には、
黒い羽織と袴を着用した髭の長い老人が姿を現すのだった。




