プロローグ 2
その日も見舞いを終え、
いつものソファーに座り、声もなく静かに灯が泣いていると、
灯の目の前を人が通る気配がした。
灯は思わず顔をあげると、
そこには腰の曲がった老婆が一人
静かに灯を見下ろしている。
この廊下には突き当たりに茜の病室しかない、
普段なら医療スタッフか、灯か両親しか通らないが、
両親は随分と見舞いに来てない。
突如現れた老婆の
その冷たい目線に驚きと恐怖で身動きできない灯。
老婆が低い声で告げたのは、
灯には到底、理解しがたい言葉だった。
「妹を助けたいか?」
老婆の言葉に驚き目を丸くさせる灯に老婆は続ける。
「その為の覚悟はあるか?」
この老婆についての噂を
灯は耳にした事があった
いわゆる、
町一の嫌われ者の老婆である。
だが灯は、
茜を救える可能性があるという事実だけで心が揺れた。
「ここで話はできない」
「知る覚悟』と信じて実行するだけの決心がついたならば、私の家に来い」
言い残して老婆は出口へと向かった
老婆が去った後、
残された灯は、暫く放心していた
老婆の言葉を深く考えながら帰路についた。
茜を救える可能性
可能性があるなら妹を、
茜を何としても助けたいという想い。
諦めかけていた灯の心に
一筋の希望の光が差し込む
しかし
老婆が繰り返した〃覚悟〃という言葉。
〃助ける為の覚悟と知る覚悟〃
それに加えて
町でも噂の嫌われ者の老婆の言葉を信じるという事。
高学年とはいえ
まだ小学生の灯の心は大きく揺れていた。




