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黒い家  作者: そら07F
183/187

暗闇に染まる

激遅筆

すいません

陽が落ちてしまえば

途端、気温は急激に冷え込む

冷たい風が、気温以上に

体感的な寒さを

更に助長させる


目の前で燃える

パチパチと小さく爆ぜる

焚き火は、あまりにも心許なく

暖を取るには勿論

獣避けとしても

不十分とさえ感じられる


不意に見上げる

夜空は

多くの木々の枝葉に遮られ

月も、星さえ凝らさなければ見えない


幼少期、森で過ごした経験上

通常であれば

こんな闇夜であれば

少し大きな焚き火を起こし

暖を取るのが賢明だが


碧の指示で

この規模にしたのが現状だ


“凍死”という

この時代に於いても

珍しい言葉が脳裏を過るも

彼は決して愚かではなく


何処からか

雪駄と、もう一つ

動物、恐らくは熊の毛皮で拵えた

身の丈以上もありそうな

黒い、大判一枚の“何か”を

こちらに差し出してきた


藍人が戸惑いながら

受け取るも

用途は査として知れない


雪駄もまた、初めて目にする物であるも

その形状から、履き物である事は

辛うじて解る


実際に履いてみて分かった事だが

中には防寒の為か

脛の当たる場所から

足の指先の当たる場所まで

内側全体に暖かな毛皮が

満遍なく敷き詰められている


この事から察するに

この毛皮も、恐らくは

防寒の為だということが

考えられる


一体、

どう使う物なのか


藍人が、

あれこれ思案していると


ふと

碧の姿が目に留まり

その様態に、藍人の口からは

「あぁ…」と納得とも驚愕ともとれる

そんな声が、思わずと漏れる


それもその筈

目の前の碧、と思われる物体は

頭の先から足先まで

全身をすっぽりと毛皮に覆われ


文字通り、

黒い塊へと変わっていたからだ


瞬間、理解する

この黒い毛皮は

暖を取る為、

これは間違いないのだろうが

多分、それが主なる目的ではなく


もっと優れた目的として

暗闇に於いて

【身を隠す為】だろう


人が生きていく上で

“食事”と“睡眠”敢えて加えるなら

“排泄”は欠かせない


そしてその時間は

一般的には

【人が無防備になる瞬間】となる


その中でも、

“睡眠”は特に無防備な瞬間だ

加えて、一定期間であるなら

睡眠は取らずとも

人は行動可能だが


それも限界は確かに存在する


その一線を越えれば

集中力や判断能力は低下し、

更に進行すれば、幻覚症状などが表れ

肉体活動にすら支障をきたす


最終的には

死に至るとすら言われている


たかが睡眠、と

侮る事など決して出来ない


余談にはなるが

自然界にも、一つの例として

烏と梟の関係が有名だろうか


互いに天敵同士の両者は

睡眠時間を襲われない為に

夜、休む烏は闇夜に紛れる為に黒く

また、

昼に休む梟は木々に紛れる為に木目調に

と、なった

とする一説も存在する


勿論、それは

あくまでも一説に過ぎないが


人は自然界に於いては

事実として、

食物連鎖の頂点に位置する

と言われている


だが、それは

他種の動物より

身体能力が優れていたから

では決してない


賢しい知略、

それから生まれる幾多の道具が

人間を他の動物よりも

強者足らしめる


それによって、

人は擬態など

身体を変換させる事なくとも

今日まで淘汰される事なく

種として続いている


話を戻そう


これまでの話は

あくまでも対獣

という目線で話をしたが


さて、

人対人、であればどうだろうか


他の動物は

多少賢しい個体は

確かに存在するも

残念ながら本来的に

生まれながらの本能に縛られる


そして

人も本能を持ち合わせるも

それを抑制する理性をも

持ち合わせる


ある程度だが、

本能に縛られない

加えて、

他の動物よりは知性が発達している


と、いう事は


狩りなどとは

比べられない難度の策が必要となる


上記に戻ろう


自然界には

肌色の物は存在しない

特殊な事態を除き

火は存在しない


それを隠す事


それが自然だ


藍人は碧の姿に倣い

頭の先から足先までを毛皮で隠す


そうしてみれば

決して完全とは言えないが

風は防げ、暖は取れる

これで、一先ずは凍死はない


まだ夜は長く

朝は遠いが

今夜はこうして過ごす他ないだろう


そうしてすぐ

こんな状況ながら

瞼が重くなる


そんな瞬間の事


「安心しろ」


そんな碧の声が耳に届き

不意に顔を向ける


黒い塊の隙間から

いつの間にか

二つの眼がこちらを向き


その恐らくは口に当たる部分から

言葉が続いた


「今夜はゆっくり休め

 俺は頭の半分を覚醒させたまま

 寝る事が出来る

 危険が迫れば声を掛けるから」


「は…い…」


後に考えてみれば

それこそ人間離れをした

物凄い事を言っている事は

明白な事だが


この時の藍人には

最早、凡そ判断能力が欠落してしまっていた


そして

数秒後には

眠りに落ちてしまっていた


後に

その方法を尋ねてはみたが


「これは生半可な訓練で

 何とか出来る物ではない」


と、


一蹴されてしまった事は

勿論、言うまでもない事だろう


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