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黒い家  作者: そら07F
169/187

ある日の出来事 灯と茜 番外①

「嫌、嫌!絶対…ぜーーッたい、嫌!!」


目の前の妹

うっすらと涙を浮かべた茜は


部屋の隅々まで響くような

金切声をあげる


その声は、

一階にいる両親や引っ越し業者の人は勿論

窓を開けているので

両隣の隣家や

下手をすれば向かいの家まで

聞こえてしまっているかもしれない



キンキンと

耳の奥、鼓膜を震わせるだけじゃ足りず

易々と頭の奥まで届く

幼子特有の高音に振り切った声は

常人でも不快極まるものがある


その発生源が

目の前ともなれば

思わず耳を塞ぎ、目を細めてしまうものだ



こうした時、

灯は、大抵の場合

早々に茜の口を“塞ぐ”


もちろん、

物理的ではない


【姉の寛容さ】でもって

譲って【あげる】のだ


しかし、

こと今回だけは

易々と譲りたくはない

いや、本音を言えば

譲れない理由があった


「だって、茜

 寝る前にトイレ行かないでしょ?

 茜が上に寝て、前みたいに

 お漏らししたら

 下で寝てる私の所の上に染みて

 漏れて落ちてくるかもしれないじゃない…」


「嫌!茜、おねしょしないもん

 ちゃんと寝る前、おトイレ行くもん

 だから、茜が上で寝るの!」


そう言って

茜も断固として譲る気はない


そう、私達は

二段ベッドで

上下どちらで寝るか、

を争い言い合っている


………しょうもない、

なんて思わないで欲しい


実際、茜は、

この前まで、まだ

“おねしょ”をしてしまっていた


灯の懸念は、

切実なものである




とは言え、

この点については、勿論、

茜の言い分も

多少なりとなら

理解出来る点もある


ここに引っ越す前の自宅だが、

築年数を重ねた古い木造の家だった

昼間は日の光も入る

一般的な家なのだけど


夜、電気を消してしまえば

その様は一変して

言い方は少々悪いけれど

どこか、お化け屋敷のようにも見えた


その不気味さは

たとえ尿意を催したとしても、

それが皆が寝静まった夜中なら


灯りでさえも

トイレに行く事を

少しばかり躊躇してしまう程だった


そんな中で、

まだ幼い茜が

夜中にトイレに行けるはずもなく


そのまま、

我慢の限界を迎えて

あえなく漏らしてしまう


そんな調子であった



今回超してきた

四季彩の家は

格段に新しい


比べるまでもないが

不気味さは微塵も感じない


この家なら

茜も、夜中にトイレに行く事自体は

一見、問題ないと思える



それに、

茜がここまで言う以上

正直、灯には


最早

【選択肢はない】


そう思った通り

階段から聞こえてくる

足音が二つ


父と、母のもの


同時に

「何をそんなに

 騒いでいるの?」と

徐々に近づく声は

母のものだ



この瞬間が

灯は何より嫌いだ



一見すれば、母の

優しい声なのだが


この先の展開は

判を押したように決まっている




「灯は、“お姉ちゃん”なんだから

 譲ってあげなさいよ」



……これである



大して事情も聞かず

あまつさえ、知ろうとすらしない


この場の安寧だけを考え

さっさと問題を解決する事

だけを考えた方法



灯は、

その言葉が

何より嫌いだ


【姉】だから、とは

意味を還元すれば

【数年早く生まれた】だけだ



更に言えば

【姉】として生まれる事を

【望んだ】わけではない


母の言葉を引き出した事で

茜は勝利を確信したのか

母の腕に抱きついた


灯は

茜と母から視線を外し

後ろに控えている父に

無言のまま、目だけで

助けを求める


こんな時、父が

何かを言ってくれれば

灯にとっては光明なのだが


それはつまり、

母との意見の対立を意味する



父は母に頭が上がらない訳ではないが

母は俗に言う、

【難しい性格】をしている


普段は灯と茜を何より愛する

そんな母性に溢れた

優しい母なのだが


一度、機嫌を損ねようものなら

途端に、ヒステリックを起してしまう

そんな一面を持つ



しかも、更に悪い事に

母の逆鱗の場所は

灯は勿論、父にさえ

計りかねていた



決して父が頼りない訳ではない

だが、この場での援護は

到底期待できない


これ以上は

無意味なだけでなく

寧ろ、母と対立するのは

有害とさえ言える



灯は、三人から視線を外し

漏れそうになった重たい溜め息を

母に悟られないように飲み下す


それから、

一言、ただ無機質に

「わかった」とだけ口にしたのだった






箸休め的な番外編です


数回続きますが


これについては

読んでも読まなくても

大丈夫な内容になっています



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