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黒い家  作者: そら07F
134/187

知るという事 ④

新年明けまして、

おめでとうございます

(遅すぎ勘弁です( T∀T))


個人的なもので言えば

早いもので、書き始めて二年を数えてしまいました


今年には本編だけでも完結の予定ではいますが


・元々予定になかった展開


・そもそもボツったゲームシナリオの為

 プロットの作成の際の作り込み不足


・元々文才たるものがない


・仕事がブラック過ぎ


などの理由で、遅々として進んでいていません

「それでもいいよー」

という、心が海の様に広い方がいましたら

今年もまた、お付き合いいただけたら幸いです





暗い地下道に

再び、三人の足音だけが響く


今や、藍人はおろか

葵でさえもが、一言も声にする事はない


その口を固く閉ざし、ただ

敷辺の背中だけを追い


まるで、

そうする事だけが正しいが如く



その足を

前に進めるのみー



もう、これ以上、

迂闊な言葉を吐く気には、

到底なれなかった



先程、

敷辺が氷の様な冷たい視線を

藍人に向けて送った時


藍人は、文字通り

心臓を射抜かれたような

そんな錯覚に襲われた


叱咤や叱責でもなく、

また、詰るわけでもない


無言の圧力とでも言うべきか


何にせよ敷辺が、

その視線を藍人へ向けていた時間は

どれ程長く見積もった所でも


凡そ、

数秒といったところ


だが

その視線からは

何とも形容し難い、だが

それでも敢えて言葉にするならば、

それは底知れぬ怒りであり


ともすれば殺意とすらもとれる様な


明確な敵意を

肌でも感じたのだった


“眼は口程に物を語る”

とは良く云ったものである


それは、

どんな言葉を用いて叱責されるよりも

恐ろしい物であった




ともあれ、

藍人の何気ない呟きは

意図せず敷辺の琴線に触れた


これだけ間違いない


彼女が何も言葉にしない以上

一体、どの部分が彼女の逆鱗に触れたのか?

そう藍人は考えたが、直後


最早、

そんな事は無意味だと気付く


例え、その答えが解った所で

時間は巻き戻らない


つまり、

藍人が吐いた言葉が

消えてなくなる事は


決して、ないのだからだ



ゴクリと喉が鳴り

自ずと藍人はゆっくりと俯く、


幸いにも

敷辺は未だ、ゆっくりとした速度で歩いている

そして、敷辺との距離は一定であり

目線を落とした藍人の視界にも、彼女の足元が

しっかりと確認できる


それに、今更、

ここに捨て置かれる心配など皆無だった事だ



何せ、彼女にその意志があったなら

先程の間でそうしていただろうし

それは可能であったからだ



それでも、その口が閉ざされるのは

必然的だったわけなのだが



さて、敷辺の背中を

ただ追っていた藍人と葵


敷辺が進む以上、そして、

それに藍人達が追従する以上は


ゆっくりとした速度ではあるが

着実に前には進んでいる


それも

敷辺の語った“真実”

そこに向けて、一歩づつ


着実にー



それを物語るように



辺りの景色も、

程なくして変わった




それに気付いたのは勿論

しっかりと前を向いていた葵が先であり

葵は思わず「ぁ……」と小さく漏らす


そして、

彼女の声をきっかけに

一瞬の間を遅れて藍人も顔を上げる


その眼に飛び込んで来た光景に

思わず感嘆の声を漏らすのだった


二人の視界に映った物



それは、

【廊下】であったのだ


ただの【通路】ではない


紛れもなく

【廊下】であった



あれだけ高いと感じた天井

広かった幅員でさえも

とある一点を境とするように収縮を始めていて


洞は先細りの形状、まるで、

漏斗のような形状とでも云うべきか



そして、何よりも

二人の眼を惹いたのは

ある一定の狭さまで収縮した洞の先の造りにあった


先程までの

岩肌剥き出しだった天井や壁の材質は

一転して板張りへと変わる



俯いていた藍人は元より

葵までもが

ここまでの環境の変化に

直前まで気付かなかった要因としては


その両の壁や、天井の木材の

色合いにある


それらは、

異様なまでに黒いのである


無論ではあるが、

断じてカビなどが由来しての

不衛生な壁ではない


それは、わざわざ確認せずとも、

それは臭いからも想像が出来る


ここに来て

階段の時に感じた生臭さは完全に消えて

寧ろ、どこか煙の臭いと

酸っぱさのある匂いとでも言うべきか


そんな独特の匂いへと

変化していたのだ


そこからも

何かしらの意図さえ感じられ


恐らくは、

壁や天井には防腐や防虫の効果がある何かが

塗布されていると考えるのが自然であろう


壁や天井の異様なまでの黒さも

それに由来していると思われた


何よりも、細部まで確認したわけではないが

一見して痛みのある箇所は

見受けられなかった事も


仮説の裏付けとしては

十分であったと言える


また、先程まで歩いて来た道中の

暗く、湿り気の多かった洞との対比も合間って、

更には、地下にこんな空間があるとは

想像だにしなかった事もあり


ここに一歩でも足を踏み入れて

実感できるものとして


深い感動にも似た感情を

抱かずにはいられなかった



そこはまるで、地上にある敷辺宅

その廊下を思わせる程に、立派な物であった



敢えて、

地上部と違う点を指摘するならば

ここが地下という特性上


窓がない点である


無論、

通常であれば換気や採光の為にある窓は

この地下空間では無意味であり

また、その構築は不可能である


代わりといっては何だが

壁には、四季折々の様々な美しい

風景画が飾られていて


それらは、

ここが地下にあるのであるとの認識を

疑わせるに、一役買っている


また、照明の問題は

今は灯ってはいないものの

必要な時には、床に等間隔に置かれている

小さな瓦灯で賄われているのだろう


換気の問題も

この地下に降りた時からも感じてはいたが

奥から絶えず冷たい風が吹いている


その事から解るように、

どこかに空気を取り込む為の

通風口のよう物、


或いは

別の出入口があるのだと、


今更ながら想像する


床だけは

流石に板張りとはいかないまでも、


石を削り出した造りとでも言うべきか

ともすれば神社仏閣の参道を思わせるような

石畳の造りとなっていた


それは、まさに

【廊下】と言って差し支えない造りである



何も知らない者がここだけを見たならば、

下手をすれば、ここが地下であると

思わない者すらいるかもしれない


そう、錯覚してしまうほどには

ここは立派な造りであった



そして、

この環境の豹変ぶりに藍人が

意識を奪われ、上下左右に視線を動かし

状況の把握に追われている最中


ここに来て再び葵がある物に気付き

不意に足を止める


だがこの時ばかりは

足を止めたのは藍人もほぼ同時であった


気付けば

忙しなく動かしていた藍人の視点もまた

葵と同様の、一定に注がれている


一瞬の間を置いて、

気付けば、二人の足はどちらともなく

その場所に吸い寄せられるように向かっていた



彼らの向かった先

その壁には一枚の扉があった



勿論、それ自体は

特段驚く事ではない



繰り返すが、

ここは【通路】ではなく

【廊下】である


先程、改めて

藍人達がそう認識した背景には

この扉達の存在があった為だ


そう、藍人達は

壁が板張りに変わった時には

扉の存在に気付いていた


何せ扉は、左右に等間隔にあるのだから

否応なしに目に入るものだ


だが、ここまで藍人達が敢えて

どの扉にも近づく事がなかったのは


そのどれもが、

固く閉じられているように感じ

且つ、恐らくは長い間開かれる事のなかった痕跡が

少なからず感じ取れるのだ



だが、この時藍人達が無意識に近づいた

この一枚だけは違った



ここまでで唯一

僅かに開かれた扉



その隙間からは

一筋の弱々しい光が、

漏れ出していたのだった



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