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黒い家  作者: そら07F
133/187

知るという事 ③

敷辺は意味深な言葉だけを残し

説明の言を切り、二人に背を向けると

再び歩きだした


その敷辺の不自然な言動に

藍人と葵は、互いに顔を見合わせるも


藍人と葵は、声なく同意し

どちらともなく互いの手を取り合い

多少、急ぎ気味に敷辺の後を追ったのだった


二人がすぐに敷辺の後を追った理由


それは、


ここで幾ら考えたところで

藍人や葵の中に浮かぶ無数の疑問の答えは

出るはずもないのは明白だった為


と言えば、

幾分か聞こえは良いかもしれない


だが、

何よりもは


言わずもなが

この場は地下である


そして、その場で唯一の灯りといえば

頼りないとは言えども

敷辺の持つ行灯のみ


当然の事だが

敷辺が行ってしまえば

訪れるのは、真の暗闇であり


この場には陽光は勿論

月明かりさえ差すことはない


灯りを失くした場合

この場での視界は零に等しい


そして、恐らくは、

この場所を知る者も決して多くはないだろう


つまりは、

助けを待つなどは無意味である


何よりも、

そんな状態に捨て置かれたならば

たとえ救助まで体力が保ったとしても


また、たとえ

一人ではなかったとしても


耐え難い不安と、絶望から

精神に異常をきたしてしまう事は

必至である


従って、

この時、藍人達がとれる行動として

黙って敷辺の後を追う以外


他に選択肢など、

なかったとも言えるだろう


ともかく

藍人達は、少しだけ急ぎこそしたが

難なく敷辺に追い付いてみせた


それ事態は、当然といえば

当然の事ではあるが、


敷辺が、

不自然に歩く速度を

抑えていた事も幸いだっだと、

付け加えておく


さて、

無事、敷辺に追い付いた事で

一先ずの心安を得た藍人と葵


敷辺は、すぐ目の前であり

彼女は未だゆっくりとした速度で歩を進めている


はぐれる事など、まず以て心配はなく

また、たとえ少し遅れたとしても

今の彼女の歩行の速度であれば


また少し急げば追い付くとの

心に多少の余裕が出来た事から


藍人は、改めて

この空間を見渡す



敷辺はこう言った

「後で説明する」と


そして、

「じき解る」とも


それを

藍人はこう解釈する

「推測してみせろ」

と、そして

「後には、ちゃんと答え合わせをする」

とも



とは言え、



先程の狭い階段

異様な生臭さと、酷い歩き難さこそあれ

それだけである



そして、階段を抜けた先にあった、

この空間も、広さこそ圧倒されたが

ここも、それだけである


加えて、

まるで想像もつかない程の広さを持つこの空間は

敷辺に持つ行灯の灯りでは

とても細部までは照らしきれなていない


試しに、改めて見渡したところで、

ここは一本道の広大な洞にしか見えない


天井は高く、暗さも相まってか

先は果てなく感じる


しかし、


ただ、それだけである



まるで何の手がかりにもならない



その時だった


「あっ…、あれはー」


突然、

葵が声をあげる


突如として発せられた、その声に、

藍人は多少、驚きはしたものの


その声からは

危機や恐怖などは微塵も感じられなかった


さながら、

年相応の子が自宅の近所で

多少の珍しい物でも見つけた

といった、そんな声色である


そして、藍人が葵へ視線を移すと

彼女は今しがた自分達が来た道を振り返り

自分側の壁の一部を指差していた


葵の指摘した物、それは

一見すれば何の変哲もない、

ただの壁だった


「何も……!?」


「何もない」藍人はそう言いかけたが

よく目を凝らしてみてから、漸く気付き

思わず言葉を失った


葵の指差していた先の壁

その壁には、ひっそりと

横穴があったのだ


そして、

それは一個見つけたら最後

左右の壁にはまるで等間隔に

また、無数にある事に気付くのだった


一つ一つの横穴は小さく、

人一人が【隠れる】のが

やっとといった大きさである



【隠れる】



この時、そう藍人が想像したのには

明確な理由がある


ほぼ等間隔であるところから

人工的だと思えるのが、まず一つ


他には、

横穴の向きだ


見える横穴は全て

藍達が入って来た入り口からは見えない方向へ


つまり、

この洞の奥から

入口の方向へ向かい、斜め方向


さながら釣り針に於いての

返し針の方向といえば解り易いか



そして、

それは相当数確認できるのだ


それだけでも異様な光景なのだが、


決定的なのは

その中に置かれている物にあった


当然、

近づいて確認したわけではないので

正確な所は、解らないのではあるが


揺らぐ灯りで

一瞬、確かに見えたそれはー


それが、仮に見違いでなければであるが、

弓矢であったからだった


ここで藍人は

ある一つの仮説を立てては、

思わず、背筋を凍らせた



仮説はこうだ



その横穴に隠れるのは

間違いなく人間である



目的は恐らく

防衛の為



ここは

【避難豪】

そう考えれば辻褄が合うのだ


ここまで下る階段が

滑り易く、酷く歩きにくかったが


恐らく足止めの為か、

壁と床には何かが塗られている


仮に階段を越えられた者が居たとしても

待ち受けるのは


無数に造られた横穴に隠れた者達に依って

矢の歓迎だ


只でさえ暗闇から射られる

無数の矢


しかも、

奇襲的に行われる、その攻撃により

攻略側が体制を立て直すまでは、

情勢は一方的にならざる終えない


しかも、ここが地下だと言うことから

相手は松明などの灯りを持っている可能性が高く


そんな者は射る側にとっての、

格好の的となる


また、灯りを手にしていない場合も

全く問題はない


何故なら、攻略側よりも

暗闇に長く潜んだ防御側の方が

暗順応により、視界は明瞭であるからだ




次に、

横穴に着目する


相手からは射る者の姿が見えにくいように

横穴は掘られている


その効果は

射る者の姿を隠す他にもある


それは、たとえ、

その姿を発見されたとしても


横穴は遮蔽物となり

攻略側からの遠距離攻撃は、

まず通り難い


加えて、

仮に横穴の幾つかを奪われた所で

その横穴の口の方向から

攻略側にとっては、遮蔽物とはなり得ない



何よりも

横穴が左右の壁に造られている事から

十字砲火が有効となる点、それに

攻略側には、ろくな遮蔽物がない点も


防衛の成功率を跳ね上げる要因となる



突破は

容易とは言えないだろう



その用意の周到さには

恐怖さえ覚える




だが、



たとえ突破が容易でないとは言え

何も不落ではない


足を滑らせないように

相当数の人員が掛けられれば

階段の攻略は不可能ではない


仮に足を滑らせ階段を滑落する者が居たとして

その時は間違いなく有事である


猛り、人間性を欠落させた者達は

滑落した者を踏み越える事に躊躇はないだろう


仮に無数の矢の歓迎といっても

放つ矢は無限には用意できない


矢の残弾が無くなった時が

突破され、この防御陣地が陥落する時だ



もっと根本的な点を言うならば、

この地下を発見されると言うことは

地上部は制圧された後の事を意味する


即ち防衛の為の兵が全滅

或いは、敗走したと考えて間違いなく


抵抗の全てが終わった後なのだ



それから言っても、


ここは、

その性質上、さながら



【最後の砦】



だからこそ

疑問に感じる



それは

思わず藍人の口を突いて出る



「どう、して…、そこまでして

 ここに固執するんだ…?」


ポツリと小さく吐き出された

藍人の疑問


当然の疑問である



ここが仮に、

藍人の考える通り避難豪であるならば


ここに逃げ込むのは

最善手ではない



それならば、いっその事

里を捨てて逃げ出すべきではないか?


その為の退路はある

シキサイ村の方向


つまり、

藍人が育った集落の方向だ


寧ろ、

あたら無謀な対抗戦に兵を死なせるくらいなら

その兵力を以て

“あの集落”を制圧するべきではないか


そもそも、あそこならば

敷辺もそこそこの権力を有している


あの集落に住む者達の性格上

敷辺が少し煽れば徴兵は容易なはずである


そうして、

少しでも戦力を拮抗させて

長期戦に持ち込んだ方が

僅かでも、勝率は上がるはずだ



それでも拮抗しない場合、

最後の手段としてはシキサイ村さえも

巻き込んでしまえば良いのだ



藍人は、

そう考えた



だが、その瞬間

聞こえなくても決しておかしくなかった

その呟き程の小さな疑問に


敷辺は

足を止めて


ゆっくりと振り返る



この時、言わずもなが先頭を歩いていたのは

敷辺、その人であり


その彼女が立ち止まったのだから

藍人達も自ずと立ち止まる


そして、

意図せず彼女の顔を見上げた時


藍人は、

思わず戦慄する


見上げた敷辺の表情は

今まで見た、どんな人物のどんな表情よりも




底知れぬ闇を孕んだ




酷く冷たい物だったのだった




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