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黒い家  作者: そら07F
114/187

甘やかな時間

東の空が白みだした頃

ひんやりとした空気に

藍人に抱き締められながら眠っていた葵は

重たい瞼を、ゆっくりと上げ


目の前の穏やかな寝顔に微笑むと

声なく〃おはよう〃と朝を告げる


いつもと何ら変わらない朝

当たり前になっていた風景


変わったのは、

唯一、


私達の関係だけ


〃昨晩はー〃


昨晩の事を思い出し

思わず顔が緩むも

直後、顔が熱くなるのを感じる



あの後、

彼は力強く私の手を引くと

私を布団まで連れて行った


もちろんの事

私は純潔ではあるけど、

何も知らないわけではなく


〃夫婦となった男女が夜を共にする〃


という意味を

正しく理解していないわけではない


むしろ、

〃彼なら、彼と一つになれるのならー〃

と考えている自分も、確かにいた


けれど、

やはり、どう思った所でも

拭いされない恐怖や不安は

確かに心の中にあった事も事実だった


そうして、

彼は私を布団の上に座らせると

彼は私の正面に腰を下ろす


向かい合う二人


私は、この時、

恥ずかしくて彼の顔を直視する事が

できなかった


一瞬の沈黙の後


私は彼に布団に押し倒されるも

その一つ一つの仕草でさえ

私に対する気遣いに溢れ

彼の優しさが伝わってきた


私は小さく覚悟を決めると

ゆっくりと瞳を閉じて

彼の身体に

しがみつくように腕をまわすようにして


彼に全てを委ねるのだった


けれど、この後

彼の口にした言葉は

意外な物だった


「そんなに怖がらないで…」


私はハッとして

「そんな、怖がってなんて…」

と思わず藍人の言葉を否定するも

気付けば私の体や、その声さえも

私の意識と反して、酷く震えていた


彼は、そんな私を気遣い

私を優しく包み込むように、

しかし、力強く抱き締め

「大丈夫だから」

と優しく囁きかけてくれた


その瞬間、

私の緊張の糸は切れ

涙が込み上げ、私は堪えきれず、

気付けば、彼の腕の中で

訳もわからず、声を上げて泣いていた


その後、暫くして、

ようやく落ち着きを取り戻した私に

彼は優しく微笑みかけ、甘い口づけをする


それは、

あの時、彼が私の口を塞ぐためにした

少し強引じみた物とは全く違う


まるで頭の芯が溶けるように、

ひどく甘い物


そして、再び、

彼は私を強く抱き締めて

こう告げるのだった


「あの時、俺を守ろうとしてくれて

 ありがとう…」



そして、

「俺も……葵の事が、好きだよ」



それは

彼が初めて葵に向けて口にした

純粋な愛の告白だった


私の止まりかけていた涙は

再び込み上げ、堪える間もなく

溢れた


彼の腕に抱かれ、

彼の胸に顔を埋め

子供のように泣きじゃくる私を


彼は全て受け止め

力強く抱きしめ、

頭を優しく撫でてくれていた



そうして

どれくらいの時間が経った頃だろう

泣き疲れた私は、

彼の腕の中で、

自然と意識を手放していた


しかし、その実、

決して離れる事のないように

互いにしっかりと抱き合いながらだった






私は音を立てぬ様、

彼の安らかな眠りを邪魔てしまわぬように

私はゆっくりと、慎重に体を起こし、

乱れた髪と服を整えると


彼が起きるまで、と

その安らかな寝顔を眺める


実は、

私にとって、

この時間が何より大切だった


〃私だけに見せる

 藍人の無防備な姿…〃


彼の寝顔を眺めれる事が

一番の目的だが


起きた彼に

常に誰より早く「おはよう」

と言いたかったからだった


これが叶わぬ恋であると

許されない事であると諦め


故に抵抗出来ないこの瞬間

私は、時に姑息だと知りつつ

悪戯に唇を重ねた事もあった


〃でも…これからはー〃


私は昨夜の藍人からの甘い口付けを思い出し

自らの唇にそっと触れ、その感触を鮮明に思い出す

自然と顔と身体が熱くなるのを感じると同時に


〃彼と、あの先をもっと見たい〃

との欲求が沸き起こるも

 

私は、頭を振り

淫らな考えを隅へ追いやる


葵の欲求は人としては

実に自然な物ではあるものの

この国の、この時代に於ては

女性がそんな事を考える事自体が憚られ

〃ふしだらな女〃であると認定される風潮から


葵が藍人に嫌われる事を

恐れたからだった


こうして、

そうこうしている内に

藍人が目を覚まし

ゆっくりと瞼を上げる


私は、それを待ちわびたかのように

寝起き眼の藍人の顔を覗きこみ


「おはよう」


と、いつものように

柔らかく微笑むのだった



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