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黒い家  作者: そら07F
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優しい時間 

一通り話終わると、木山(きやま)は時計を確認し(あかり)


「もういい時間だよ、灯ちゃんはそろそろ帰りなさい…親御さんが心配するからね…」


言い終わると木山は少し寂しそうな表情をした。


灯も時計を確認すると、午後6時を少しまわったところだった。


この部屋には窓と呼べるものはない。

秋も終わりに近づく季節のため、外はもう薄暗くなってる頃だろうと想像できた。


灯は少し後ろ髪引かれる気持ちもあったが、

まだ小学生で、さすがに帰らなくてはいけなかった。


「…わかりました…今日は…帰ります…」


「さっきは泣いてしまって、ごめんなさい…私…泣き虫ですね…特に(あかね)がこうなってからは泣いてばっかりで…」


そう言って少し俯く灯に木山は


「灯ちゃんはまだ子供だろうに、子供は泣いて叫び出しても誰も文句はいわないよ。無理して笑う必要も、周りに合わせる必要もない。思うまま生きたらいいのさ…」


灯は少し救われた気がした。

茜が入院してからの灯は

自分だけでもしっかりしようと務めていた。


灯の世話をほとんど放棄した母親や帰らない父親

金銭問題以外は両親に頼る事なく

食事や洗濯は自分でやっている。


近所の人はこぞって同情の意を唱えた。


木山の言葉に止まったはずの涙がこぼれそうになったが、

これ以上木山に迷惑をかけるわけにはいかないと

無理矢理に感情を押し殺すと、

今できる精一杯の笑顔を木山に向け


「ありがとうございます。私は大丈夫ですよ…おばあちゃん…」


灯はハッと口を押さえる。

気が緩んだ瞬間に自然と口をついた言葉だったのだ。


木山は一瞬面食らった顔になった。


失礼にあたるかと「すいま…」と言いかけた灯を手で制すと、

木山は悲しそうな、嬉しそうな何とも言えない表情で


「いいんだよ…ありがとう…」


と言った木山の瞳は

少しだけ、潤んでいた気がした。


木山はその後、灯を玄関まで送った。


ゴミだらけの廊下や土間には照明と呼べる物はなく、

また外の光も入って来ない。

そのためとても暗く、

慣れなければ足を取られゴミの中に飛び込みかねないのである。


木山に連れれられ、灯は玄関までたどり着いた。

玄関の扉を灯がカラカラと開けると、

外はもうすっかり暗くなってしまっていた。


灯は木山の方へと向き直り


「今日は…いろいろ教えてもらって…ありがとうございました…それと1週間後…どうか…よろしくお願いします…」


と言って深々と頭を下げた。

木山は


「いいんだよ…」


と言いながら優しい笑顔で手をひらひらさせた。


それを見た灯は続ける


「また…ここに…来てもいいですか…?」


思いもよらない灯の提案に木山は一瞬固まったが、

今日一番の優しい顔と口で


「あぁ、いいよ…こんな家でよければ、いつでもいらっしゃい…」


と灯の提案を快く承諾する。


直後「でも」と木山が付け加えたのは


「私と親しくてると近所の人達に思われたら…灯ちゃんまで疎まれてしまうかもしれない…次来る時は周りに気付かれないようにおいで…」


そう言うと木山は少し俯いた。


灯は木山のその寂しそうな顔を見て、

ずっと周りから迫害されてる木山の姿を想像する。


灯はそれは自分の想像を絶するものだろうと考える。


思えば木山の事がとても不憫に思えた


灯は飾らないない笑顔で、

木山へ優しい言葉を投げ掛ける


「いえ、私が…おばあちゃんと仲良くしたいんです…周りの言う事なんか気にしません…私が信じて一緒にいる人は…私が決める事ですから…」


言い終わると灯は木山の顔を見る事なく

「では…また…」

と再度深々と頭を下げると足早に帰路についた。




木山は俯いたまま片手を自分の顔に当て

反対の手を灯に小さく振った。


徐々に小さくなる灯の背中を見送る

木山の目には抑えきれない涙が溢れていた。

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