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大罪人が語る夢  作者: ぬらくらげ
最終章
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最終話・取るべき責任と掴んだ未来


 翌日、エッシェンホルスト私兵団のテントでシオンは目を覚ました。


「おーん……すぐには慣れねぇな……」


 彼の顔の右側は、清潔な包帯で巻かれていた。



 少年が歯を磨いていると、不意にテントの裏手から足音がした。

 木陰から様子を伺えば、私兵団の団長とニンファが目に入る。


「何してるんだ?」


「何してんだろうなー」


「にゃっっ」


「よう、歴史家さん」


 苦笑する副団長の顔には見覚えがあった。

 シオンは軽く会釈をする。


 ふと、少女が口を開く。


「……ラナン、本当になんともないのね?」


「はい、私は軽傷で済みました」


「そう!」


 嬉しそうに微笑んだニンファは、即座にはっと表情を正す。


「ふんっ、なら良いわ。夕方にはここを出るから、他の人達にも伝えておいて」


「了解しました、お嬢様」


「……ちょっと屈んで」


「? かしこまりました」


 頭を下げた金髪の青年に、小柄な少女が抱きついた。

 数秒だけの出来事であったが、傍観者とラナンを驚愕させるには十分だった。


 頬を真っ赤に染めながらニンファは離れる。


「こっ、これは! その、そう、親愛のあれだから! 深い意味は無いんだからねー!!」


 そう叫んで少女が走り去っていく。


 青年はしばし固まった後、膝から地面に崩れ落ちた。


「あ」


「限界だったか」


「あれ小刻みに震えてねぇか?」


「通常運転だぜ。安心しな」


 どこが安心なのかと思ったが、黒髪の少年は黙っておいた。



 太陽が真上に上り、辺り一面を照らしている。

 缶詰の中身をフォークで刺して、少年は雇い主・ニンファに声をかけた。


「後で地図を借りて良いか?」


「構わないけど、持ってないの?」


「西方に向かいたくて、俺のだと足りねぇんだ」


「西方に何か?」


「カロニア町に行きたいんだ」


 シオンはかつて遺跡に不法侵入をしたことと、それを申告しに行きたいのだと話した。


 黙って話を聞いていた水色の髪の少女は、近くの団員に何かを取りに行かせた。


「それはこれを読んでからにした方が良いんじゃない?」


 彼女は少年に新聞を差し出す。

 開かれていた二枚目の記事を、シオンは読み始めた。


 そこには、カロニア町の町長の言葉が書かれていた。


『×月×日 古城の遺跡に侵入した者がいた。しかし盗品・破損は無く、それどころか丁寧な修復が施されていた。近くで捕らえられた盗人の話では、見知らぬ人物であったという』


 少年はゆっくりと文字列を目で追う。


『これに関して、我々はただ運が良かっただけである。不法侵入は許されざることではあるが、今回については損害が無かったため――犯人を追わないことを決めた。代わりに、もし名乗り出る者がいても、修復代は渡さず、かといって捕らえることもしない』


「罪無きとこに、罰なんてないわ。普通に反省して更正しときなさいよ」


「おん……」




 エッシェンホルスト一行とは別れ、少年少女は町外れにある宿屋に入った。

 シオンの両脇は、ニンファから渡された依頼書で埋まっている。


「容赦無いわね」


「見た目よりは軽いぞ?」


「二人とも、部屋取れたよ」


「大部屋ですよ〜」


 灰髪の青年は、むず痒そうに襟足を撫でていた。


 すっかり短くなったその横で、灰色の手足の精霊が笑っていた。



 荷物を寝台の上に置き、少年は水汲みに部屋を出た。

 宿の受付に聞くと、裏手の井戸を自由に使って良いとのことだ。

 少年は水差しと借りた濾過器を持ってそちらに向かった。


 水汲みに勤しんでいる最中、おずおずとか細い声をかけられる。


「シオン」


「おん? どうしたんだアニタ」


「……聞いて欲しいことがあるの」


 真剣な表情で、銀髪の少女は裾を握り寄せていた。

 重々しく桜色の唇が開く。


「あのね、わたし――シオンのことを愛してる」


「へ」


 思わずぽかんと口を開けた少年に、アニタは懸命に言葉を続けた。


「冬の寒い夜、温かい飲み物を片手に、一緒にその日のことを語って、真夜中に目を覚ましたら、隣にいるあなたの背中を撫でて、それで、安らぎを感じてまた眠る……そんな時間を、いくつもいくつも作りたいって思うぐらい……大好き」


 唖然としているシオンに気づいて、彼女は慌てて両手を顔の前で振った。


「ちょ、ちょっと例えが重いかもしれないけど、あのその、つまりね? わたしっと、つ、つきあっ」


「ダメだ」


 黒髪の少年は――幼馴染の少女を抱きしめる。


「そんな言い方されちゃあ、俺の立つ瀬がねぇ……」


「えっ」


 ぎこちなく離れてから、彼は怖々とアニタに話しかけた。


「なあ、俺の陳腐な返事も聞いてくれるか?」


「……うん! うんっ、聞きたいな」


 シオンは一度大きく深呼吸をした。

 背後の空は少しずつ茜色に染まっている。


「俺も――アニタが好きだ。他の誰かじゃなくて俺がアニタを幸せにしたい」


 銀髪の少女は耳まで赤くしながら、肩に置かれている少年の手を取った。


「わたしを幸せにするのは大変だよ?」


「望むところだ」


 アニタがくすりと笑う。


「一緒に、幸せになろうとしてくれなきゃ」


 シオンも頬が熱くなるのがわかった。


「……キギッシェン」


「またそれ。ヴィーさんが言ってたよ、ただの感謝の言葉じゃないって! ね、本当はどういう意味なの?」


「ま、まだ内緒だ」


「むぅ」


 ふと、少年はじっと少女の顔を見つめる。


 何かを思いついたのか、アニタは恐る恐る自分の唇を指差した。

 目を閉じるのでは自分の場合は通じないだろう。

 そう考えたからだ。


 したかったことは同じようで、シオンは緊張しながら唇を寄せた。


『あ』


 ふにっ、と互いの鼻先がぶつかる。


 二人の間に沈黙が続いた。


 黒髪の少年は照れ臭そうにバンダナで目を隠している。

 赤いバンダナの隙間から、彼の瞳が覗いた。


「もっ」


「もっ?」


「もう一回、挑戦しても良いですか」


「い、良いですよ?」


 もう一度、少年少女の影は重なり、境界線が無くなった。




 大部屋に地図を広げて、ヴィーとオリバーは頭を突き合わせている。


「アウレリウス領には行きたいのよね……色々と、謝らなくちゃいけないの」


「それじゃあこの道筋かな」


「戻ったぞー。ほい水」


「ただいまです……」


「あらお帰りなさい。あらどうしたの二人共、真っ赤じゃない」


「聞かないでくれ!」


 不可思議そうな青年と、二人の繋いでいる手に気がついた少女。


 気まずそうにしている少年に、ヴィーは肩をすくめてから話しかけた。


「ほら、次はどこに行くの?」


 シオンは頭を跳ね上げた。

 不敵に笑っている桃髪の少女に、自然と口角は上がっていた。


「決まってる」


 少年は底抜けに明るい声音で宣言する。



「――面白そうな方に行こう!」



 そう、まだ彼らの旅は終わってはいない。

 少年少女は歩みを止めてはいないのだから。




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