幕間 そして相棒二人は巡り会う
それは今から二年前のある春の日のこと。
舞台は桜と大聖堂が有名な観光地ティリヤ。
そんな場所で運悪く土砂降りにあい、食堂で新聞を読む人影があった。
彼女の呼び名はヴィー。道楽でトレジャーハンターを営んでいる。
ツリ目が特徴的な十五歳の少女である。
ぼんやりと記事を眺める彼女に、一人の少年が声をかけてきた。
「あの、相席してもいいですか?」
「……ええ、どうぞ」
彼は傘が無かったのか全身ずぶ濡れだ。しかしその荷物だけは必死で庇ったようで、
「よっしゃ! 中は濡れてねぇ」
嬉しそうな表情でそんなことを言っている。
ただの同情。言ってしまえばそれだけのこと。
ヴィーは会計に行く途中で、彼の頭にタオルを被せて去って行った。
背後から焦ったようなお礼が聞こえて、少しいい気分になりもした。
——けれどこれは予想外である。
ヴィー自身が自分の行いを忘れた数日後。
柄の悪い男に通りでぶつかり、路地裏に連れ込まれた時、偶然にもその少年が現れたのだ。
どうやらタオルを返そうと律儀にもこの街中を探し回っていたらしい。
少年は瞬時に大柄な男の顔面に飛び蹴りを食らわすと、ヴィーの手を引いて路地裏から駆け出した。
別の路地に逃げ隠れたところで、息切れしている彼女に干したてのタオルが渡された。
「これ、ありがとうございました」
「……頭下げなくていいわ。礼を言うのはこっちの方だもの」
小首を傾げる彼に対して、少女は穏やかに微笑んだ。
「助けてくれたでしょ。ありがとうね」
「いや、いえ別に何もしてないです……」
「敬語はいらないわ。年も近そうだし」
「そうか?」
釈然としない態度の直後、少年は弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
「まあ、俺が役に立てたなら良かったぞ!」
善行を成したというのにそれを誇示する様子は無い。
彼の眩い笑顔のその根幹に、清らかな魂が見えた。
ヴィーは涙が零れようとするのを必死に抑えた。
「あっ、そうだ」
少年が思い出したように手を差し伸べる。
慌てて少女は手汗を雑に拭った。
「シオン。歴史家だ」
「ヴィー。駆け出しのトレジャーハンターよ」
二人の手が重なり、固く固く結ばれる。
空には柔らかな桜の花弁が舞っていた。




