第二十二話・相棒二人のお茶会
臙脂色の執事服をはためかせ、青年は赤子をあやしていた。
その様子を見守りながら、七選帝侯が一人、ジェイコブ・アルファーロは微笑む。
老人に対して、青年――色欲の悪魔は恭しく頭を下げた。
「改めて御礼申し上げます。ジェイコブ様」
「ほほっ。真面目な方だねぇ」
この老父は少し前、行き場に困っていた色欲とそのマスターに、空き家を買い与えてくれた恩があるのだ。
ジェイコブは照れ臭そうに白い髭を弄る。
「そうかしこまらんでくれ。ここまで運んでくれたのは貴方だ」
「お役に立てて何よりです。マスターも初めての海でご機嫌ですよ」
「あぶぁっちゅーめぇ!」
「おお、元気元気」
赤ん坊のおでこを撫でてから、老父は顔を上げた。
今彼らが立っているのはとある小島――帝国の伝説が住む場所である。
島の中央にある館の扉が開く。
侍女が一礼して、三名を中へと招き入れた。
ことりと陶器の皿が置かれた。
輪切りの肉の断面に、ひき肉とピスタチオが覗いている。
「こちら鶏のガランティーヌです」
「ほぉ、美味しそうだね」
「肉料理がお好きとのことでしたので」
微笑みながら侍女は部屋を出る。館の主人はおもむろに口を開いた。
「……ジェイコブ、予定より人数が多いな?」
「許しておくれよバゼット。何せ突然のことで、安全にここに来るために、彼の力を借りたかったんだ」
先代皇帝はにっと口角を持ち上げると、ワインの入ったグラスを掲げた。
カチンッとグラスが軽くぶつかる音。
赤紫の液体を口にして、かつての補佐官は呟いた。
「若いねぇ……あまりにも」
「あァ」
バゼットは珍しく笑みを消して、静かに甥の――当代の皇帝のことを思う。
穏やかでその実強かな、優しい若者であった。
「どいつもこいつも、このおいぼれより先に逝きやがる」
自分はそうではないとは言えないのだろう。
ジェイコブはそっと目を閉じる。
彼らは長年帝国を矢面で支えてきた。
息子達の想定外の死が無ければ、老父も早々に隠居していたはずだ。
――自分が消えて崩れるような国になってはいけない。
そうバゼットが繰り返し言っていたように。
「……規定に沿って、二年後に選帝投票だね」
「そうだ。それまでは議会制になるが、今の連中は大丈夫か?」
「年長者としての役目は果たすさ」
「耳が痛ェや」
故人への黙祷を終えて、老人達は二杯目を傾けていた。
皿の上にあったガランティーヌはすでに無くなっている。
「ところで色欲の悪魔さんよ――あんた随分と綺麗な髪だな」
「そ、そうですか? ……今夜夢でお邪魔しても?」
「子供の前で何をしてるんだい君ら」
「みゃぽぇ?」
ふと、部屋の扉がノックされる。
「ん、どうした?」
「失礼します。エッシェンホルスト卿から、お手紙が届きました」
銀のお盆に乗せられた手紙に、バゼットとジェイコブは顔を見合わせた。




