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大罪人が語る夢  作者: ぬらくらげ
最終章
76/94

第十八話・泣きべそルベライト(上)


 精霊郷を出立して数日たった頃。

 野宿の支度を終え、少年達が一息ついていると、


「おん? なんだこの紙」


 シオンは荷物の中に見知らぬ紙切れを見つけた。

 アニタが横から覗き込む。


「これ……地図?」


「ラフィーさんが入れたのか?」


「あぁ、あなた達が会った華玉?」


 ヴィーの問いに頷いて、少年は再び紙面を見下ろす。

 その地図は一つ目の試験があった洞窟から、海辺の町を通り、海の上の印へと線が引かれていた。


 備品の買い出しも兼ねて、彼らは印の場所を目指すことにした。




 地図に沿って進む一行は、やがて小さな港町へたどり着いた。

 露天で買った焼き魚を食べながら、シオンは店主に尋ねる。


「はふっ、うま! なぁー、この印のところに何があるか知らねぇ?」


「うーん……あ、そうそう。小島があるわよ。変わった形をしているの」


「島か。なるほど、ありがとう! あと三本焼いてくれ!」


 口角を上げた少年に、店主はにこやかに頷いた。




 ちょうど観光船があり、四人はすぐ沖へと出発することができた。


 ふと、双眼鏡を覗いていた桃髪の少女が、顔を上げて口を開いた。


「見えたわ」


 近寄るに連れて、その全貌が明らかになる。

 長年波で抉られ、一本の木のような形になった岩。

 その周囲に申し訳程度の地面がある。



「おっ、と」


 船から降りるアニタに、少年の手が差し伸べられる。

 彼女ははにかみながら自分の手を重ねた。


 観光船は二時間後に迎えに来る。

 それまでが自由時間というわけだ。


 岩肌に足をつけて、少女は胸一杯に息を吸い込む。


「誰かいませんかぁー?」


「いや流石に出てこないでしょ……」


「――い、いませんよぉ〜」


「嘘だろ?」


 少年少女が目を向けた先、大きな岩影で、何やら紙袋が震えている。

 どうやらそれで頭を覆っているらしい。

 姿を見せない誰かに対して、アニタは一歩近寄った。


「わたし、えっと、正確には違うんですけど、ラフィーさんの紹介でここに来ました。アニタです。こ、こんにちはっ」


 ぺこりと頭を下げると、向こうで紙袋がカサカサと音を立てた。

 見れば、反射的にお辞儀をし返したようだ。

 思わずヴィーの肩の力が抜ける。


 そうしている間に、自己紹介は終わった。


「なるほど……自分からその道を選んだんだねぇ」


 朗らかな声と共に、彼はその姿を露わにした。

 おどおどとした巨体が、不安そうに一行のことを伺っている。

 紙袋で隠されて、瞳の宝石の色は見えない。


 男性はしばらく思案してから、拳に力を込めてこう切り出した。


「うん、わかった」


 彼は緊張した声のまま続ける。


「ぼくにできることなら、協力するよぉ」


「ほ、本当ですか?」


「えへへ……先輩っぽいことしてみたかったの」


 もじもじしていた彼はふと顔を上げた。

 緊張した様子で、自分よりもずっと小柄な少女を見下ろしている。


「ぼ、ぼくはガブ。よろしくねぇ」


 大柄な紙袋を被った男は、気まずそうに指を弄んだ。



 男性は試験に際して、模擬戦闘であることと、協力者を一人増やして良いと告げた。

 アニタはしばし考えてから、オリバーに協力をお願いした。


 物の少ない小島ではヴィーの真価は発揮されず、同じく隠れて強襲が得意なシオンもこの地理には向かない。

 観戦となる二人は、安全地帯を定めてそこにいてもらうことになった。


「海に落ちたら君の負けで、二人の内どちらかが、ぼくに少しでも傷をつけたら君の勝ちだよぉ」


 どこか楽しそうに弾んだ声音。


「それと、傷をつけるのは、鎧であっても有効とする」


 アニタの脳に直接、鉱石の擦れるような音が響く。



『――断罪執行』



 華玉の証であるその言葉と共に、彼は黒い鎧に包まれた。


「それじゃあ……ぼくもがんばるね?」


 ぞろりとどこからか槌を取り出して構える。

 ただそれだけの動作だと言うのに、アニタもオリバーも動けなかった。


 その場に縫いとめられた二人に、優しげな声が続ける。



「間違えて、殺さないように」




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