第十八話・泣きべそルベライト(上)
精霊郷を出立して数日たった頃。
野宿の支度を終え、少年達が一息ついていると、
「おん? なんだこの紙」
シオンは荷物の中に見知らぬ紙切れを見つけた。
アニタが横から覗き込む。
「これ……地図?」
「ラフィーさんが入れたのか?」
「あぁ、あなた達が会った華玉?」
ヴィーの問いに頷いて、少年は再び紙面を見下ろす。
その地図は一つ目の試験があった洞窟から、海辺の町を通り、海の上の印へと線が引かれていた。
備品の買い出しも兼ねて、彼らは印の場所を目指すことにした。
地図に沿って進む一行は、やがて小さな港町へたどり着いた。
露天で買った焼き魚を食べながら、シオンは店主に尋ねる。
「はふっ、うま! なぁー、この印のところに何があるか知らねぇ?」
「うーん……あ、そうそう。小島があるわよ。変わった形をしているの」
「島か。なるほど、ありがとう! あと三本焼いてくれ!」
口角を上げた少年に、店主はにこやかに頷いた。
ちょうど観光船があり、四人はすぐ沖へと出発することができた。
ふと、双眼鏡を覗いていた桃髪の少女が、顔を上げて口を開いた。
「見えたわ」
近寄るに連れて、その全貌が明らかになる。
長年波で抉られ、一本の木のような形になった岩。
その周囲に申し訳程度の地面がある。
「おっ、と」
船から降りるアニタに、少年の手が差し伸べられる。
彼女ははにかみながら自分の手を重ねた。
観光船は二時間後に迎えに来る。
それまでが自由時間というわけだ。
岩肌に足をつけて、少女は胸一杯に息を吸い込む。
「誰かいませんかぁー?」
「いや流石に出てこないでしょ……」
「――い、いませんよぉ〜」
「嘘だろ?」
少年少女が目を向けた先、大きな岩影で、何やら紙袋が震えている。
どうやらそれで頭を覆っているらしい。
姿を見せない誰かに対して、アニタは一歩近寄った。
「わたし、えっと、正確には違うんですけど、ラフィーさんの紹介でここに来ました。アニタです。こ、こんにちはっ」
ぺこりと頭を下げると、向こうで紙袋がカサカサと音を立てた。
見れば、反射的にお辞儀をし返したようだ。
思わずヴィーの肩の力が抜ける。
そうしている間に、自己紹介は終わった。
「なるほど……自分からその道を選んだんだねぇ」
朗らかな声と共に、彼はその姿を露わにした。
おどおどとした巨体が、不安そうに一行のことを伺っている。
紙袋で隠されて、瞳の宝石の色は見えない。
男性はしばらく思案してから、拳に力を込めてこう切り出した。
「うん、わかった」
彼は緊張した声のまま続ける。
「ぼくにできることなら、協力するよぉ」
「ほ、本当ですか?」
「えへへ……先輩っぽいことしてみたかったの」
もじもじしていた彼はふと顔を上げた。
緊張した様子で、自分よりもずっと小柄な少女を見下ろしている。
「ぼ、ぼくはガブ。よろしくねぇ」
大柄な紙袋を被った男は、気まずそうに指を弄んだ。
男性は試験に際して、模擬戦闘であることと、協力者を一人増やして良いと告げた。
アニタはしばし考えてから、オリバーに協力をお願いした。
物の少ない小島ではヴィーの真価は発揮されず、同じく隠れて強襲が得意なシオンもこの地理には向かない。
観戦となる二人は、安全地帯を定めてそこにいてもらうことになった。
「海に落ちたら君の負けで、二人の内どちらかが、ぼくに少しでも傷をつけたら君の勝ちだよぉ」
どこか楽しそうに弾んだ声音。
「それと、傷をつけるのは、鎧であっても有効とする」
アニタの脳に直接、鉱石の擦れるような音が響く。
『――断罪執行』
華玉の証であるその言葉と共に、彼は黒い鎧に包まれた。
「それじゃあ……ぼくもがんばるね?」
ぞろりとどこからか槌を取り出して構える。
ただそれだけの動作だと言うのに、アニタもオリバーも動けなかった。
その場に縫いとめられた二人に、優しげな声が続ける。
「間違えて、殺さないように」




