第十五話・魔女
帝国には多くの貧民街がある。
前皇帝、現皇帝、その前の為政者もまた改善の方法を探り続け、規模は減っているものの、依然として各地に存在している。
ここもまたそんな区域の一つだ。
「……」
一人の少年が、路地裏で寝転がっていた。
思いたい瞼を持ち上げて、彼はのそのそと動き始める。
幼い体には期待も願望もなく、ただ生きるので必死だった。
しかし、その日は違った。
「……?」
貧民街の中心で、美しい女性が歩いている。
周囲の喧騒が見えていないのか、彼女はゆったりとした仕草で、一直線に進んでいる。
彼女に気づいた男達が、怒鳴り声をあげようとした時――女性は微笑みながらくるりと回った。
花弁が散るように、彼らは倒れていった。
死の淵で何かに見惚れたような、穏やかな表情で倒れていく。
女は笑っていた。
優しく、慈しむ笑みを浮かべて、その場にいる全ての命を奪ったのだ。
(なんだ、あれは)
少年は思った。
あそこまで綺麗な死に様は見たことがない。
同時に甘い痺れが走る。
――うらやましい。
ふと、女性と子供の目が合った。
彼女はまるで、生き別れの子供と再会したような、歓喜の滲む微笑みを浮かべた。
空腹も苦痛も忘れて、幼い少年は走り出す。
飛び込んだ先では、彼女がずっと笑っていた。
その日、一つの貧民街が消えた。




