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大罪人が語る夢  作者: ぬらくらげ
最終章
72/94

第十四話・精霊郷と道筋と


 思わず身構えたシオンに、緑の炎を携えた女性は甘やかな笑みを浮かべた。


「ワーナー!」


 声の向けられた少年の背後には、おどおどした平凡な人物が立っている。

 警戒する少年少女に、ワーナー・ヘルストランドは苦笑しながら頬をかいた。



「すいませんでした」


 シオンは深々と頭を下げる。

 その正面で、七選帝侯の一人が戸惑っていた。


「いやぁ、君らの動揺も当然だよ? そんなに気にしないで?」


「いえ、迷惑をおかけしたのに、お礼を言う前に警戒してしまい……申し訳ありません」


 少年に合わせて、仲間達もお礼を口にする。

 感謝されることに慣れていないのか、ワーナーは恥ずかしそうに笑っていた。


 その背後から、耳の尖った女性がべったりとくっついている。


「君らの件は、現皇帝と先代皇帝からの頼みだからね。無事で良かった」


 シオンは目を見開いてから、悔しげに眉根を寄せた。


(師匠にまで……)


 時間制限で焦っていたとはいえ、冷静さを欠いていたのは確かだ。

 この分の借りは返さねばなるまい。


 少年が猛省していると、不意にヴィーが植物園の外に目をやった。


「あれ、今」


「うん? 何か見えたかな」


 ワーナーがガラス窓へと近づいていく。


「そういえば言ってなかったね――」


 光の反射が収まった隙間から、ひらりと舞う小さな影が見える。


「ようこそ。精霊郷へ」


 ――精霊郷(せいれいきょう)

 この大陸で唯一現存する精霊の群生地。


 そこでは精霊と、精霊使い、そして「精霊の落とし子」が暮らしており、許可なく外部から入ることはできない。


 その内側にいるのだと気づき、シオンの瞳が好奇で輝いた。




 ワーナーとその妻の惚気に追われた一行は、市街を散策していた。

 よそ者に向けられる様々な視線も、旅人である彼らには日常だ。

 それを一身に浴びながら、少年少女は辺りを平然と見渡していた。


 ふと、少年は前を歩く三人の背中を見つめる。


(そっか。また一緒に旅をするんだ)


 自分から誘ったことなのに、彼の視界がじわりと滲む。

 慌てて大柄なオリバーの背後に隠れた。



 途中、買った揚げ菓子を食べながら、四人は現状の問題を話し合う。


「次はどこに行く?」


「精霊きょ、ヘルストランド領の位置はここだから……」


「もふふむふ」


「オリバー、飲み込んでから喋りなさい」


 不意に、アニタがはっとした顔で手をあげた。

 三人と一頭は彼女を振り返る。


「行きたいところが、ありますっ」


 緊張に震えながらも、真剣な声音が響いた。



 銀髪の少女は、自らの魂にいる華玉から聞いたことを話した。

 これまで隠してきた、自分の役割のことも。



『精霊卿の石碑、波でできた巨木の根元、夢見の塔を巡れ。

 ――その時、お前は力を従えられる』



「黙っててごめんなさい……」


 申し訳なさそうに少女は裾を握りしめる。

 黒髪の少年は、彼女に一歩、一歩だけ近づいた。


「話してくれてありがとな」


 はっとアニタが顔を上げる。視界に写るのは嫌悪でも同情でもない、仲間達からの静かな愛情だけだった。



 四人は頭を突き合わせて、広げた地図を覗く。


「まずは『石碑』だな」


「聞いたことないわね……」


「エラム知ってる?」


「わからなイ。せーれーかんれんじゃないヨ」


「となると……」


 シオンは楽しげに口角を吊り上げた。

 知らない者が見たら怖がるだろうそれに、仲間達は総じて面倒事の気配を感じた。


 少年は地図を畳んで立ち上がる。


「地道に聞き込みだな!!」


 弾けんばかりの笑顔を浴びて、桃髪の少女は苦笑した。

 ああ、戻ってきたなと思いながら。




 精霊卿某所。

 岩肌にぽっかりと穴が空いている。


 その穴の入り口に立つ、翼のある像の前で、困り顔の少年が立っていた。


「……ここで合ってる、よな」


 慎重に彼は手を伸ばす。

 石像、否、文字の刻み込まれた石碑には丸い宝石が埋まっている。


「これさえ、これさえ持って帰れば」


 彼の指先が宝石に触れた時だった。


「ーーおい」


 少年の肩がびくりと跳ねる。

 恐る恐る視線を上げた先では、


「ここで何してんだテメェ」


 銀髪の女性が石碑に座っていた。




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